第378話 ラヴェルの戦い 14
「リクレール様! 報告です! アリシア様の部隊が、敵将ドヴォルザークの猛攻に押されております! ものすごい勢いで、誰にも止められません!」
「くっ、やっぱりそうか……被害は?」
「わが軍の兵はすでに50人以上は倒されております、また、アリシア様が勝負を挑んだものの、武器を壊されて離脱したようです」
「なんというか、噂にたがわない強さだなぁ」
『感心している場合ではございませんわ主様、このままではたった一人の敵将に主様の完璧な作戦を覆される恐れがございます。急ぎ加勢いたしましょう』
(覆されそうになっている時点で完璧な作戦とは言えない気もするけど……アリシアやナナリーたちがやられたら拙い。急ごう)
中央の戦局がヴィクトワーレの活躍によって安定したことを受け、左翼側に向かうリクレール。
その途上でアリシアの部隊からの伝令が駆けつけ、大暴れするドヴォルザークによって味方が苦戦していると報告を受けた。
リクレールの作戦では、中央をヴィクトワーレ率いる精鋭が押しとどめ、東側をフルトヴェングラーたちによって時間稼ぎさせている間に、西側から一気に突破して片側包囲に持ち込むことを目指しいていた。
が、それが一人の豪傑の無双で崩されるなど溜まったものではない(最もリクレールも似たようなことをやっているが)
果たして彼が左翼側に駆けつけると、アリシアの信頼する友人の一人ワディドが、非力ながらも精いっぱい旗を振って、後退する味方にこの場所まで集まるよう叫んでいた。
「みなさぁーーん! ここまでは逃げて大丈夫です! 今は後退します! 大丈夫です、アリシアさんはまだやられていません! 私たちはまだ戦えますから!」
「君は……アリシアの友達の!」
「あ、リクレール様っ! 私です、ワディドですー! 情けないところを見せて、申し訳ありませんっっ!」
「いやいいんだ。むしろ、良く後退する味方をまとめてくれたね! あと一歩遅かったら、後ろの味方とぶつかって大混乱に陥るところだったよ!」
ワディドが必死で旗を振ったおかげか、アリシア直属の兵士たちが集結して素早く態勢を整えることができたようで、そこを起点に後退した味方たちが次々に集結しつつあった。
きちんと後退した際の立て直し方を兵士たちに訓練させた甲斐があったとリクレールがホッとしたところで、涙目のアリシアとレティシアらが負傷兵を担いだ兵士たちと共には他の場所まで戻ってきた。
「り、リクレール様だっ! ごめんなさい、大口叩いておいて負けちゃいましたーーーっ!!」
「今は私たちの代わりにナナリーさんたちが戦ってますけど、あの強さだといつまで持つか……」
「まあまあ落ち着いて落ち着いて、大丈夫、君たちはまだ負けたわけじゃない。むしろ無事でいてくれてよかった」
リクレールが、アリシアたちが来た方を見てみると、そこにはナナリー直属の強欲傭兵たち相手に、大剣を自在に操って大暴れする赤毛の巨漢の姿があった。
「あれか……久しぶりに見るけど、あの人あんなに大きかったっけ? まあいい、アリシア、義理委義理で戻ってきたところ申し訳ないけど、君に次の命令を言い渡す」
「命令、ですか?」
「敵は今、ドヴォルザークの活躍で士気が向上しているけど、将軍が戦いに集中しているせいで、敵陣が乱れている。というわけで、逆に今がチャンスだ。あそことあそこの間、陣形に隙間ができている。直ちに突破して、急いで敵の背後を突くんだ」
「わ、わかりましたっ!! レティシア、ワディド、ついてきて!」
「「うん!」」
リクレールの命令で、アリシアたちは再集結した兵たちをまとめると、リクレールが指示した通りの場所目掛けて前進していった。
彼が指摘した通り、ドヴォルザークは確かに強かったが、彼は自分が戦いに集中しすぎているあまり、一翼を担う司令官であるにもかかわらず指揮を放棄したも同然になっていた。
これが、部隊ごとに独立した部隊長がいるのであれば悪影響は抑えられただろうが、5000人という人数をほぼ一人で管理しているドヴォルザークが指示を出さないことにより、ブレヴァン軍右翼は指揮官不在も同然の状態になっていたのである。
そのせいで、兵士たちは自分勝手に前進して自分勝手に戦うことになり、陣形がぐちゃぐちゃになっていることに誰も気が付かず、その結果中央軍と右翼軍の間に広い隙間ができてしまった
。
一方のリクレールは、常に戦場を見渡しつつ、伝令からの情報を受け取って、大まかに敵がどのようになっているかを把握することに努めていたこともあって、敵陣の連結部に大きな弱点が生まれたことを見逃さなかった。
「アリシアは背後に回らせた。これで、敵の勢いは急速に弱まるはず。けどやっぱり、あれをどうにかしないことにはね」
『お任せください主様、わたくしがあの者を討ち取って見せますわ』
これ以上の味方の被害を拡大させないためにも、リクレール自身でドヴォルザーク将軍を倒さなければならなかった。




