第375話 ラヴェルの戦い 11
開戦当初から大激戦が繰り広げられている西側と、コンクレイユ軍の猛攻(というよりヴィクトワーレの人間離れした活躍)によって戦闘力を喪失しつつある中央。
いずれにせよ両軍が必死にぶつかり合っている中、アルトイリス軍右翼部隊と、ブレヴァン軍左翼部隊が向き合う東側では、奇妙なことが起きていた。
「どうしたことだ……敵はまだ動かないのか?」
「少しずつ前進してきてはいるようですが、積極的には前に出てこないようです」
「そうか……仕方あるまい、こちらも相手に合わせて徐々に距離を詰めていくほかない。兵士たちは疲労している、無理はさせられないからな」
ブレヴァン軍左翼部隊で、ヨランドの代わりに指揮を執っていたのは、ロワルガム伯爵という壮年の男性貴族であった。
ロパルツやヨランドなどに比べれば家格は落ちるものの、一応はそれなりに名門であり、彼自身士官学校出身ということもあり、数少ないまともに軍を運用できる人材である。
だが如何せん、彼にはこのような大軍を率いた経験がないため、出せる指示は前進か、防御か、あるいは後退がせいぜいで、勝ち筋としても数の優位で押し切るくらいのもの。(もっとも、ヨランドがいたとしても同じことだろうが)
そんなロワルガムの前面にいるアルトイリス軍は、少しずつじりじりと前に進むだけで、非常に動きが鈍かった。
だが、よく見ると兵士たちはしっかりと盾と槍を構えており、完全に防御姿勢のまま着実に距離を詰めていることがわかる。
対するブレヴァン軍の特に左翼側の兵は、戦場に到着した時にはすでに戦闘が始まっていたこともあり、行軍からすぐに戦う羽目になったことで兵士たちが疲れ気味になっていた。
また、陣形も満足に組めていないため、ほかの部隊が激しくやりやっている間も、前進せずに様子見するだけにとどまってしまったのである。
「狙い通り……敵左翼は動きが鈍いわね。それに、どうも指揮官も積極性に欠けているようね」
ベテランの女性将軍ジェニファーは、目の前の敵の動きを一瞥してすぐに、自分たちの読みが完全に当たったと判断した。
リクレールの立てた作戦の前提として、ブレヴァン侯爵軍はこの地まで来る間、縦長の列で行軍してきているため、左右どちらかの部隊が遅れると踏んでいた。
その読みは当たり、ブレヴァン軍は敵のほぼ目の前で、真ん中→右→左の順にのそのそと陣形を整え始めたことで、東側の準備が整う前に西側で戦闘が開始されてしまったのであった。
「我らはまだ必死に動かずともよい。いずれ味方が敵陣を崩す、その時に目の前の獲物に食らいつくのだ。大丈夫だ、奴らは当分逃げはしないだろう」
フルトヴェングラー将軍は功を焦る傭兵たちを宥めつつ、盾と槍をずらっと構えさせ、敢えて接敵させる時間を遅らせた。
この後両軍が本格的にぶつかるまでさらに時間を要することとなるのだが、果たして彼らが戦いを始める前に、戦場の西側で大きな動きが起こることになる。




