第372話 ラヴェルの戦い 8
アリシアの部隊が飛び出したことにより、なし崩し的に西側からどんどん前進するブレヴァン侯爵軍。
ボルツ率いる中央前衛部隊は、左翼側がまだ陣形が整っていないためもう少し待つ予定だったが、右翼側が先頭を始めてしまっている以上、彼らも前に進まざるを得なくなった。
「わが軍も進まねばならんか……しかも、あの旗はコンクレイユ侯爵家の騎士団ではないか。我らの兵たちの質は今一ではあるが、ここは数と勢いで押すしかない」
ボルツは、自分たちの前面に整然と並んでいる精強な騎士団と、彼らが掲げている旗を見て思わずげんなりした。
コンクレイユ侯爵軍の本隊は、北方で味方の帝国軍を撃破したとは聞いているが、こちら側にも現れるとはとんだ貧乏くじであった。
おまけにボルツ自身も分かっているように、彼の部隊にはあえて肉盾として扱うよう質の低い傭兵たちばかりが宛がわれており、敵よりこちら側が圧倒的に多くても、数で押し切るには少し心許なかった。
だが、そんな彼にも心強い味方がいた。
「不安かね、ボルツ伯爵殿。我らのことをお忘れではあるまいな?」
「お、おお! ベルガルドか、確かにそなたがいれば!」
「敵はコンクレイユ騎士団とのこと、おそらく率いているのはベルリオーズ殿の娘ヴィクトワーレだろう。だが、息子たちも武芸達者ばかり、相手にとって不足はない」
ボルツに声をかけてきたのは、伯爵家に仕える男爵ベルガルドだ。
あまり位の高くない貴族の一家だが、当主のベルガルドは60近い年齢にもかかわらず前線に立つ生粋の騎士であり、また彼の7人の息子もまた西帝国の優秀な騎士として名高い者たちだった。
先のリヴォリ城の戦いでは、城壁を崩した後に彼らを先頭に突入し、ランツフートを討ち取るつもりだったが、残念ながら希望が果たされることなく、代わりにこうしてボルツの部隊の最前線を任されたのだった。
「では行くぞ、息子たちよ! 誰がコンクレイユ侯爵の娘を倒せるか競争だ!」
「「「「「「「おーっ!!!!!!!」」」」」」」
ベルガルドの7人の息子たち……モルガム、ヴェイグ、エドリック、ドラグヴァル、フェルナン、マルキアス、グレンスは、それぞれの愛用の武器を構え、馬を駆ってコンクレイユ騎士団めがけて突撃していく。
そして、彼らが恐れることなく飛び出していったことに勇気づけられたのか、すでにやや疲れが見える士気の低い傭兵たちも、意を決してアルトイリス軍に向って前進を開始するのだった。
「そう、リクは左翼側の援護に向かったのね。ドヴォルザークの相手は私がしようと思っていたのだけど、少し当てが外れたわね。でもまあいいわ、敵が一番多い中央を私たちが受け持つのだから、大変なことに変わりはないわ」
「ヴィクトワーレ様、どうやら敵の騎士が7人、正面から突っ込んでくるようです。私が相手しましょうか!」
「マティルダが行くのであれば、私も」
「いえ、二人にはそれぞれ左右の兵を抑えてもらうわ。あの騎士は全員私が片付けるから」
「えーっ、ヴィクトワーレ様だけ手柄独り占めですか?」
「ヴィクトワーレ様が出るまでもないと思いますが……」
「いいじゃない、たまには私もリクにいいとこ見せたいのっ! あなたたちにもちゃんと活躍の場を与えてあげるから、ね!」
向ってくる雑魚傭兵の相手を臣下二人に押し付けると、ヴィクトワーレはただ一人、敵将ベルガルド自慢の息子たち目掛けて馬を奔らせた。




