第371話 ラヴェルの戦い 7
その日の昼頃、アルトイリス軍はすでに兵を並べて陣形を完成させていた。
中央最前列にヴィクトワーレ率いるコンクレイユ騎士団がずらりと馬を並べ、東側……アルトイリス軍から見て右側にフルトヴェングラーとジェニファーのベテラン二人を、西側にアリシアとナナリーの若者二人をそれぞれ配置し、リクレールは真ん中からやや左側の位置に陣取って、接近しつつあるブレヴァン侯爵軍を待ち構えた。
また、妙なことに兵力配置がやや偏っており、5000人いる兵のうち、デルセルトとサロメが率いていた500人は戦場に不在で、左側はリクレール自身がいるとはいえ実に2000人も集まっていた。
中央はコンクレイユ軍1000人と予備兵力500人がいて、右側には1000人しか配置されていなかった。
対するブレヴァン侯爵軍は、まずボルツの部隊が戦場中央に兵を並べ、続いて第二陣のドヴォルザークの部隊が戦場の西側、ブレヴァン侯爵軍から見て右側に展開し、どん欲に包囲を狙うかのように大きく横に兵を並べた。
その後、トライゾン率いる本隊がボルツの部隊の後方に陣取り、後は左翼側が展開すれば準備完了――――となるはずだったが、陣形が完全に整う前にアルトイリス軍側に動きがあった。
「よぉし! 今日の一番槍はあたしが貰った!!」
「あ、あまり無茶しないでくださいねアリシアさん」
「拙くなったらすぐ逃げるわよ」
なんと、アリシアの部隊が、陣形など知ったことかとばかりに左翼側に大きく突出し、ブレヴァン軍の右側……ドヴォルザークの部隊めがけて前進し始めたではないか。
それを見たドヴォルザークは、一瞬虚を突かれたものの、即座に迎え撃つよう兵士たちを前進させた。
「何だあいつら、この俺様とやりあおうというのか! 命知らずめ、返り討ちにしてくれるわ!! 前進だ、包囲して粉砕しろ!!」
アリシアたちの動きから、アルトイリス軍は包囲する前にブレヴァン軍を端の方から逆包囲しようとしていると考え、そうはさせじと陣形をさらに横に長く伸ばし、アリシアたちを包み込もうとするかのように右斜め前に進む。
こうして、戦場の西側では早速両軍が激しくぶつかることになり、それにつられてブレヴァン軍は右側にいる部隊から連鎖するように、続々と前進し始めた。
『主様、まず敵は予想通り動いたようですわ』
「ただ、あの旗は……ブロンベルク伯爵のものかな、だとするとアリシアとナナリーがちょっと危ないかもだけど、いざとなったら僕が助けに入ろう」
『ブロンベルク伯爵ドヴォルザークですね。主様の知識から鑑みますに、西帝国では亡きお姉さまや、コンクレイユ候と比肩する猛将とのこと。てっきり敵の中央軍から前面に押し出してくるものと思っておりましたが、敵右翼側にいるというのはやや想定外でございますわね』
「僕もそう思っていたんだけどな。トワ姉たちがいればある程度耐えてくれるだろうから、そこを横から僕が撃破する予定だったんだけど、相手も攻撃の主軸を西側に向けて来たということか」
偶然にも、ブレヴァン軍が右翼側に一番攻撃力のあるドヴォルザークの部隊を配置したことが、リクレールの作戦への対抗手段になっていた。
敵の猛将ドヴォルザークの強さは西帝国中でよく知られており、ヴィクトワーレが真っ向から戦っても、勝てるかどうかわからない。
そのため、彼を撃破するのは必然的にリクレールの役目になるので、リクレールも急いでアリシアやナナリーたちの援護に向かうことにした。
だが、そんなとき、彼の背後から声をかけてくる者がいた。
「おいリクレール! さっきから何をぶつぶつ言ってやがる! さては、我がブレヴァン侯爵軍の圧倒的な力に恐れおののいたか!」
「ああ、アヴァリスか。君はここから僕が負けると思ってる?」
「当たり前だろ! お前らはただでさえ数が少ないんだ、あっという間に皆殺しにされるにきまってる! そして俺はようやくこの馬車から出れるんだ、その時が今から楽しみだ!!」
鋼鉄の箱馬車の中から、アヴァリスがリクレールを呪うかのように罵声を浴びせてくる。
何度もひどい言葉を浴びせられたリクレールだが、今は彼の言葉に恐怖が混じっていることがわかるようになり、虚勢を張っていることが見え見えと知れば、情けなくて笑えるくらいだ。
「じゃあ、見ててよ。落ちこぼれだった僕が、この圧倒的な兵力差を覆すところを」
リクレールはアヴァリスの方を振り返らず、愛馬ネージュに拍車をかけ、配下の兵たちを引き連れてアリシアたちの援護に急いだのだった。
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