第370話 ラヴェルの戦い 6
一方ブレヴァン侯爵軍側も、前日にはアルトイリス軍がラヴェルの町を拠点にして待ち構えていることを偵察によって知っていた。
侯爵家の直轄領の中でも、かなりの収益を上げる重要な街がアルトイリス軍の手に落ちたことは、トライゾンにとってはかなり苦々しく感じることとなる。
ただ、アルトイリス軍がここまで来たことは、ある意味トライゾンにとっても悪い話ではなかった。
「アルトイリス軍め……もうここまで進出してきたか。だが、欲をかいたのかは知らんが、ラヴェルの町を手中に収めるためにここまで出て来たのは悪手だったな」
そう言ってトライゾンは久々に愉快そうな笑みを浮かべた。
リクレールが言っていた通り、このあたりはだだっ広い平野なので、数が多ければ多いほど相手を容易く包囲できる。
偵察によればアルトイリス軍の兵数は5000人とのことなので、5倍もあれば完全包囲することも可能だろう。
そうなれば、練度が低い傭兵や徴募兵をかき集めた烏合の衆に近いブレヴァン侯爵軍でも、数の暴力で一気に圧殺することができるはずだ。
だが、トライゾンたちが戦場に着く直前になって、今度は悪い知らせが入ってきた。
「閣下、一大事です! 後詰を任せていたロパルツ将軍が、ユルトラガルド侯爵軍に寝返りました!」
「ロパルツが寝返っただと!? 何かの間違いではないのか!?」
「ど、どうやら本当のようです! 後方で進軍が遅れているヨランド将軍の部隊が、ロパルツ将軍とユルトラガルド侯爵軍の追撃を受けており、救援を要請してきました!」
「くそっ!! このような大事な時に、どいつもこいつもっ!!」
せっかく有利に事が進んだと思ったのに、それに冷や水を浴びせるような事態が起きたことで、またしても憤慨するトライゾン。
このところ、ただでさえ憤ることが多い上に、ここ数日は夜も夜襲を警戒して満足に睡眠がとれず、イライラが増すばかり。
彼は心なしか眩暈や胃痛に苛まれ始めたが、ともあれ一旦ヨランドの軍は見捨て、今は目の前の敵の撃破に集中することにした。
アルトイリス軍の本隊さえ撃滅してしまえば、返す刀で裏切り者のロパルツの部隊を打ち破ることは訳ないと判断したからだ。
「しかし、ヨランドが戦場に到着しないとなると、左翼側の指揮官が不在になるな。致し方ない、下位の将を一時的に指令に任じるか」
トライゾンとしては、今回の戦いで両翼がやや長めの十字型の陣形を組み、中央の先陣にボルツを、右翼側にドヴォルザークを、そして左翼側にヨランドを配置する予定だったが、ヨランドが不在になったので、そこまで地位が高くない将軍を一時的に司令官に任ずることとなった。
これが後々になって大きな問題を引き起こすことになるのだが……もっとも、この時点ですでにトライゾンはリクレールの罠にはまっており、例えヨランドがいたとしても戦況は覆せなかっただろう。




