第369話 ラヴェルの戦い 5
(エスペランサ……総司令官の僕がこんなことを考えるのもどうかと思うけど、ちゃんと上手くいくかな、今回の作戦……僕が一から考えたものだから、まだ少し不安なんだけど)
『御心配には及びませんわ主様。わたくしから見ても、非常に良い作戦かと思われます。これも、主様の今までの勉学の賜物……お姉様の元で発揮できなかったことだけが悔やまれますわ』
(そ、そうかな……そう言ってくれると嬉しいけど、今まではエスペランサの言う通りにやってきたから)
『もちろん誤っていることがございましたら、わたくしが即座にご指摘いたしますわ。ゆえに、むしろ今回の戦いは主様に自信を持っていただく絶好の機会でございます。主様のお知恵と、わたくしの武勇。二つが合わさることで、この世に敵はいないことを証明いたしますわ』
細かい作戦会議が終わって、少しの間一人の時間ができたところで、リクレールは改めてエスペランサと自問自答した。
リクレールが言うように、今まで彼が考案した「作戦」のほとんどはエスペランサが入れ知恵したものだったが、今回の戦いの作戦はリクレール自身が考案したものだった。
そのため、まだ自分に自信が持てないリクレールは、将軍たちには自信満々に見せつつも、内心不安をぬぐい切れていないようだ。
『無理もございませんわ。主様は、幼いころから士官学校の前半まで、大人から抑圧され、見放されることが多かったゆえ、自信が持てないのでございましょう。ゆえに、わたくしが主様を肯定いたしますわ。主様の真価を見抜けなかった大人たちに代わり、主様のことを最もよく知るわたくしが、これからも主様をお導き致します』
(……ありがとう、エスペランサ。そうだね、君のおかげで、何もできる力がなかった僕が、西帝国の内戦に終止符を打つ立場に立つことができている。そして、戦いに勝てば、僕も少しは自分を許せるかもしれない)
『はい、その意気でございますわ。この戦いに勝ち、お姉様を見殺しにした憎き敵を討ち果たしましょう!』
こうして、決意を新たにしたリクレールは、作戦会議を行った翌日にアルトイリス軍に出撃命令を下し、ラヴェルの町から街道沿いに北西に進んだ平野まで進み、そこに陣地を構えた。
すると、ほどなくして斥候からブレヴァン侯爵軍が目の前まで接近していると報告があり、果たしてその日の午前にはブレヴァン侯爵軍の先鋒が、1セレル(約1600m)の地点まで進出してきた。
リクレールは見晴らしのいい丘から、集結しつつあるブレヴァン侯爵軍を遠巻きに眺めていたが、続々と街道を進んでくる軍勢は、後続が地平線の向こうまで続いており、いつまで経っても最後尾が見えないほどだった。
話には聞いていたが、改めて2万人以上の軍勢目の前にすると、その数に圧倒されるばかりだった。
「魔族軍ほどじゃないけど、凄い大軍だわ。傭兵や徴募兵で水増ししていると知っていても、少しだけ心配になるわ」
「トワ姉もそう思う? 僕も正直なところ、実際の大軍を見ると大丈夫かなって思っちゃうけど……でもやるしかない。僕は……今の僕を信じてみようと思う」
「ふふっ、またエスペランサに何か言われたのかしら。けど、そうね、リクは自分のことを信じて進むといいわ。そのために私もいるから、ね」
「ありがとう、トワ姉。僕がここに立てているのは、エスペランサだけじゃなくて、トワ姉のおかげでもあるから」
『まあ主様、聞き捨てなりませんわ。わたくしのおかげと言ってくださったではございませんか』
「ちょっエスペランサ!?」
「今いいところなんだから、少しはリクの時間を私にくれたっていいでしょ、もう!」
変なところで独占欲を発揮し、リクレールを取り合おうとするエスペランサとヴィクトワーレ。
そこに、アリシアがやってきて……
「あの、何かお取込み中でしたか……?」
「え!? あ、いや、何でもない何でもない、あはは!」
「ええと、その、ちょっとリクの服に屑が付いてたから取ってあげようとしただけよ!」
アリシアにはエスペランサが見えないので、なぜかヴィクトワーレがリクレールの肩を後ろから抱きしめているというよくわからない光景を目にすることとなったが、二人は何とかごまかしてアリシアと共に陣地に戻っていくのだった。




