第368話 ラヴェルの戦い 4
ブレヴァン侯爵軍がデルセルトとサロメの部隊によって天手古舞になっている間、リクレール率いるアルトイリス軍本隊は、セダン城から3日ほど街道を北上した地にあるラヴェルの町に陣を敷いていた。
セダン城からユルトラガルド侯爵領のリヴォリ城の付近を通って、最北端にある帝都タイラスルスまで続く主要街道の途中に位置する宿場町だけあって、町の規模は非常に大きく、更に周囲には広大な穀物畑が広がることもあって、ブレヴァン侯爵家の豊かな財政を支える大きな原動力となっている。
そして、ほかの町と同様に盗賊除けの城壁や自警団も存在するのだが、本拠のセダン城が陥落したことに加えて、アルトイリス軍に逆らう町は徹底的に破壊されるという話を聞いたことで、この町の領主も戦わずして降伏し、アルトイリス軍の駐留を許すこととなる。
リクレールは早速領主の館を一時的に接収して臨時の司令部にすると、北方から近づきつつあるブレヴァン侯爵軍の動向を逐一チェックしながら、作戦を確認していった。
「みんな、いよいよだ。ブレヴァン侯爵軍の本隊を完全に撃滅すれば、今回の内戦は僕たちの側が一気に優勢に傾く。帝都にいるマルセランさんを捕らえるまでは終わらないけど、逆に言えば時間さえあれば終わるということでもある。そして、今回の内乱の首謀者にして、姉さんを戦死に追いやった元凶のトライゾンをここで捕らえて、逆賊として大々的に裁く!」
「ついにここまで来たわね。あの強欲な侯爵のせいで、私の兄さんも危うく死ぬところだった…………その報いを受けさせる時が来たのね!」
リクレールの周りに集まった将軍たちは、ヴィクトワーレを筆頭にすっかりやる気満々の様子だった。
報告によれば、ブレヴァン侯爵軍の人員は未だ2万人を大きく超え、こちらの5倍近い規模があるようだが、その内情はお寒い限りで、核となる侯爵軍正規兵3000人以外はすべて傭兵や徴募兵などの練度の低い烏合の衆で、しかもデルセルトとサロメの部隊による攪乱戦術ですっかり疲弊しているようだ。
もちろん油断すれば物量で押しつぶされる恐れもあったが、ここまでの戦いで兵士たちの訓練の成果が十分に発揮できていることも分かっている。
むしろここで5倍の敵を撃破すれば、今までにない栄誉と褒美が貰えるだろうということで、尻込みする者は誰一人としていなかった。
「さて、普通なら自分たちよりも多い敵に対して、この辺のような広い地形で迎え撃つのはあまりよくない。士官学校でも、敵と比べて数が劣っている場合は狭い土地で迎え撃って、戦闘正面幅を狭めるようにと習った。けど、今回は戦いを短時間で終わらせるために、敢えて平地に陣取って、敵にわざと広い陣形を作らせる。トライゾンのことだから、僕たちを大軍で一気に包囲しようと襲い掛かるだろうけど、そうなればこちらのものだ。今までの分析から、ブレヴァン侯爵軍はその規模に対して指揮官が圧倒的に足りないことがわかっている。城攻めのような単純な行動はできても、野戦だとあっという間に陣形を乱すはずだから、逆に相手の隙を狙って本陣と左右を分断する。敵の本隊さえ撃破すれば、いくら敵が多くても戦闘の続行は不可能だろう」
「ははあ、成程……よくこのような作戦が思いつきますな。兵力劣勢側が平地側に陣取っているのを見れば、兵力優勢側は兵力差を生かして包囲するのが鉄則。その鉄則を逆手に取るというのは考えても見ませんでしたぞ」
「入念な準備をしたからこそ、ですわね。考えなしに同じことをやったら、あっという間に包囲されてしまいますよ」
年配のベテランであるフルトヴェングラーとジェニファーは、リクレールの若い発想力に感心しつつも、この戦いに至るまでに徹底的に敵を疲弊させたからこそ、今回の作戦が可能になるということも理解していた。
フォントラル侯爵領での戦いの頃は、まだリクレールの実力に半信半疑だった年配勢も、一連の戦いを経て侯爵としてのリクレールを信頼しているようだ。
敗北続きで総大将と将軍の間の信頼に亀裂が生じているブレヴァン侯爵軍とは、まるで正反対の状況だった。




