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第367話 ラヴェルの戦い 3

「逃げる兵にかまうな! 適当に松明を投げて、テントに引火させてやるだけで十分だ! 囲まれる前にとっとと抜けるぞ!」

『応っ!』


 ホイッスルの合図とともに、夜の敵陣に突入するデルセルト率いる黒鼬隊と、それに従うアルトイリス兵。

 前方を走る騎兵たちが、迎撃態勢の整っていない見張りを一蹴すると、その隙間に軽装歩兵たちが雪崩れ込み、目についたテントや草むらなどに松明を投げ込んで、方々で火災を発生させる。


 ブレヴァン侯爵軍側も、一体何事かと兵士がわらわら集まってくるが、全く統制がとれておらず、デルセルトたちによって各個撃破されていく。

 また、質の低い徴募兵などは寝ていたところを突然襲撃されたことに驚き、右往左往するばかりであり、それらが却って味方の動きを邪魔して混乱が拡大するありさまだった。

 だがデルセルトは深追いすることなく、ほんの少し陣地を荒らしただけで歩兵を先に引き上げさせ、最後はデルセルト自らが殿となって、追いすがる敵兵を軽く蹴散らし、悠々と夜の闇に消えていった。


 ホイッスルの音で安眠を妨害されたトライゾンが事態を把握したころには、すでにデルセルトたちは離脱した後であり、急いで放火されたテントや草地の消火を命じるほかなかった。


「また奴らか……見張りは何をしていた!」

「それが、見張りの兵は少数しかおらず、敵の突入を防げなかったと……しかしながら、被害はごく軽微でございます。就寝用のテントが8棟程度焼かれただけで、死者は10名にも満たなかったと……」

「そのような報告は何の慰めにもならん……奴らは我らの進軍を遅延させる気か!」


 デルセルトは何となくアルトイリス軍の思惑に気が付いたようだが、だからと言って有効な対策がすぐに思いつくわけではなかった。

 とにかく今は見張りの数を増やし、夜間の敵の襲撃に備えるよう命じたが…………

 真夜中を過ぎ、もうすぐ明け方になるという時間になったところで、今度はデルセルトたちが攻めて来たのと反対の方角から、ピィーッと甲高いホイッスルの音が鳴り響いた。


「おーっほほほほほ! わたくしからちょっと早めのモーニングコールですわぁっ!!」

「奴らもまさか一夜にして二度の夜襲があるとは思っていないようです。敵兵たちに厳しい現実を教えてやりましょう」


 サロメの従者テュレンヌの言う通り、ブレヴァン侯爵軍はまさか敵がもう一度夜襲を仕掛けてくるなど考えておらず、その上軍自体の図体のデカさゆえに、トライゾンの命令は徹底的に伝達されていなかった。

 そのため、デルセルトが一度襲撃して緊張状態にある陣地と反対側の陣地では、夜襲への備えが全くされておらず、しかも夜明け前という夜の見張りが最も気が緩む時間に襲撃されたのだから、たまったものではなかった。


「敵だ! 敵襲だーっ!」

「はぁ……? 敵襲はもう終わったはずじゃ……うわぁぁっ!?」

「い、一体敵はどれだけ大勢いるんだ!? まさか俺たちは囲まれたのか!?」


 パニックに陥ったブレヴァン侯爵軍は、やはりまともな抵抗もできずに一方的に蹂躙されるばかりであり、何とか態勢を整えようとしたときには、サロメ率いるエルヴィユ侯爵家騎士団は陣地から引き揚げていった。


「一夜にして二度も襲撃されるとは、将軍どもは何をしているのだ! それに不甲斐ない兵どもも、みすみす敵を逃すとは!」


 二度も安眠を妨害されたトライゾンは終始怒りっぱなしとなり、満足に休むことができないまま身も心も徐々にすり減らしていくことになる。

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