第366話 ラヴェルの戦い 2
後世において、西帝国内乱で激突したアルトイリス侯爵リクレールと、ブレヴァン侯爵トライゾンは、戦争に対する認識は比較的よく似ていると評価されていた。
というのも、双方とも結局戦いとはそれまでの間にどれだけ準備してきたかが大切であり、戦いの勝敗はその積み重ねの結果であると考えており、そのための準備には手間を惜しまなかった。
しかし、リクレールとトライゾンが決定的に違ったのは、トライゾンは自らの軍略のなさをある程度自覚して、戦争自体は部下に丸投げしていたのに比べ、リクレールはたとえ自らが武勇を示せなくても、自らの頭脳で姉を補佐できないかと考えていたことだ。
リクレール自身は戦いを好まない穏やかな性格だが、戦争という現実から逃げず、過去の戦史を徹底的に研究し、自らの知識の糧とした。
この度の内戦では、その差が顕著に出たわけであるが……リクレールはもう一つ、ほかの人と違った面があった。それは、リクレールは「過去の失敗から学んだ」ことだった。
通常士官学校では、人類側や帝国側が勝った戦いだけを教材として取り上げ、その勝因を学ぶことを主としていたが、リクレールはむしろ過去に起こった数多の戦いで、負けた側がなぜ負けたのかに興味を持ち、そこから戦史研究を進めるという一風変わったことをしていた。
もしかしたら、リクレール自身抑圧された経験ばかりで、勝者側より敗者側に共感しやすいのではないかと一部では囁かれもしたが、皮肉にもその研究成果は、すぐに花開くこととなった。
「というわけでデルセルト、このあたりは君の出身地だと聞いている。土地勘を生かして、敵にちょっかいを出して疲労させてほしい」
「ははっお安い御用だ。奴らに夜の安眠はやらねぇよ!」
ブレヴァン侯爵領の南北を通る街道は、元々デルセルトの一族が保有していた領地が近いこともあり、長年周囲で盗賊まがいの活動をしていた彼にとって、このあたりは庭のようなものだった。
そのため、リクレールは彼にブレヴァン侯爵軍のかく乱作戦を命じたのだった。
「その代わりと言っちゃなんだが、俺らの部隊の他に、ある程度融通が利く部隊を
用立ててくねェか? そうすりゃ、奴らをよりボロボロにできるんだがな」
「だったらサロメたちを連れていくといいんじゃないかな。あの子の騎士団なら、独立して動くことも十分可能なはずだ」
「あいつらか……ま、いいんじゃねぇの。騎士の誇りとか、余計なこと言わなけりゃ文句なしだ」
フォントラル侯爵領攻略の道中で加わったエルヴィユ侯爵令嬢サロメに、まるで野盗のような一撃離脱を主とする戦いは可能かと尋ねたところ、意外にも彼女たちは二つ返事で引き受けてくれた。
「元よりわたくしたちは、泥水を啜ってでも生命を繋いだ意地汚い生き方をしてまいりましたもの、今更このような戦い方を恥じる必要はありませんわ! むしろ、これしき程度で非難されるような名誉など、わたくしには不要でしてよ!」
「そこまで思い切るような話じゃないんだけど……心強いよ」
「ほーん、面白れェ女だな。そんじゃ、あの強欲な親父のケツを蹴飛ばしてやろうぜ!」
そんな経緯もあり、デルセルトの騎士団「黒鼬隊」は、エルヴィユ侯爵騎士団と共に、デルセルトが知る間道を通って、ブレヴァン侯爵軍に気付かれないよう側面に回り込んだ。
デルセルトの凄いところは、敵軍を発見してもすぐに攻撃を仕掛けるのではなく、ひっそりと彼らの後をストーキングしてその動きを観察し、どこに弱点があるのかを見極めてから攻撃に移ったことだ。
ブレヴァン侯爵軍の兵士の大半は傭兵が占めており、彼らを脱走させないために少数の正規兵が陣地を取り囲むように配置されているため、一か所が崩れると対応するのに時間がかかることを見抜いたデルセルトは、陣地の形が薄くなっているところを狙って夜襲を仕掛けたのだ。




