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第342話 名誉の和睦

 もはや二進も三進もいかなくなってしまったブレヴァン侯爵軍。

 新型投石機の攻撃と、焼き落された橋、そしてモンセーの魔術と立て続けに激しい攻撃を加えられては、もはや攻撃どころではなく、どうやったら生き残ることができるかというところまで追い込まれていた。


 また、ほとんどの学生や兵士は朝食をとっておらず、水も不足しているため、飢えと渇きに苦しみ、立っているのもやっとの有様だった。

 そんな時、アルトイリス軍側の陣地から、紫鴉学級の男子生徒ゼークトが堂々とした足取りで歩み出て、対岸にいる相手に届く大声で語り掛けて来た。


「おい、白竜学級のみんな、もうこれ以上の戦いは無駄だろう! 今なら、降伏じゃなくて「名誉の和睦」を受け入れる用意がある! 戦いを止めれば、俺たちの水や食べ物を分け与えたうえで、士官学校に帰してやるが、どうする?」

「黙れゼークト! 誰が平民出のお前の言うことなんて聞くか! 跪いて首を垂れ、許しを請うのはお前らの方だ!」

「ははーん、お前まだそんなことを叫ぶ余裕があるんだな。おーい、お前んとこの級長は現実が見えてねぇみたいだぜ、とっつかまえて身柄を渡してくれりゃ、水と食料に加えて、金もたんまり渡してやるよ!」

「ハッ、そんなバカな話を名誉ある白竜学級が聞くわけ――――」


 次の瞬間、アヴァリスの腕を隣にいた生徒が強くつかんだ。


「おい何する放しやがれバカ!!」

「ゼークト! 俺は名誉ある和睦を受け入れる、この偉そうな口を叩くだけのアホな級長を手土産にな!」

「ふざけんな! このやろっ!」


 ここまでの負け戦続きで嫌気がさした生徒の一人が、とうとうゼークトの言う「名誉ある和睦」の話に乗っかってしまったのだ。

 アヴァリスはとっさに、持っていた剣でかつての仲間の腕を斬りつけて辛くも難を逃れたが、この生徒だけでなく、ほかの者たちにまで厭戦気分が広がった結果、我も我もと戦いを放棄する者が続出した。


「私もこんな戦いもうたくさん! 学校に、家に帰るわ!」

「だいたい俺たちはアヴァリスやデュカス先生に騙されたんだ! これ以上はもう付き合ってられるか!」

「アヴァリスを手土産にして金を山分けしようぜ! 捕まえろ、俺たちを散々こき使ってくれた報いを思い知らせろ!」

「ち、ちくしょうっ!この能無しどもめ、地獄に落ちろ!!」


 独り離反者が出たのを皮切りに、最終的に生徒と兵士合わせて半数以上がその場で戦闘を放棄し、「名誉ある和睦」を受け入れたほか、ゼークトの言葉を信じてアヴァリスを生け捕りにしようとする者が続出した。

 今まで自分に従順だった生徒たちの離反にショックを受けたアヴァリスは大いに喚いたが、もはや状況は覆しがたく、まだ彼に従う意思がある生徒や、皇帝に忠誠を誓う帝国直属兵たちに守られながら、命辛々その場を離脱することとなった。


 こうして、初めの頃は50人以上いた白竜学級の生徒は、幾多の戦いを経て戦死した者や、名誉ある和睦を受け入れた者たちが去ったことで、最終的にアヴァリスを含め8名しか残らなかった。

 帝都タイラスルスから連れて来た帝国直属兵も、寝返った味方を食い止めるために半数近くが犠牲になったことで、いまや200人以下まで減ってしまった。

 戦場を離脱したものの、食料も水も底をつき、無傷な者は誰一人としていない……これでは、生き残って陣地まで戻ることすら難しい。

 だが……


「おのれ……おのれおのれっ! このまま終われん、奴らの思い通りにはさせんぞ……!」


 執念深いアヴァリスは、まだあきらめていなかった。

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