第340話 白竜学級の落日
さて、なぜアリシアが自称「皇帝の跡継ぎ」を捕らえることができたのか。
話は再び、バニュ丘陵地帯で対峙するシャルンホルスト率いるアルトイリス侯爵軍と、アヴァリス率いるブレヴァン侯爵軍の視点に戻る。
一時は勢いに乗ってアルトイリス軍の拠点を奪取し、要地を占領したブレヴァン軍だったが、深入りしすぎるあまり後方部隊との連携が途切れた。
そしてその隙に、青狼学級およびスーシェの騎兵部隊に襲撃され、士官学校の生徒たちの精神的支柱となっていた担任のデュカスと、副級長のレイアを失った。
アルトイリス軍には大打撃を与えたものの、深入りしすぎたことで疲労困憊状態となり、占領したばかりの丘の上に陣地を構えることとなったのだが……予備の食糧は全てデュカスたち率いる後方部隊が持ち運んでいたので、それを奪われたブレヴァン侯爵軍は一晩のうちに食料と水が不足するという事態に陥ってしまったのだった。
進むべきか退くべきか――――それを決断すべきアヴァリスが、親よりも大切にしていた婚約者のレイアの死によって精神的ショックを受けてしまい、茫然自失の状態に陥ってしまったことで、白竜学級の生徒たちは一時的にこの先どうすればいいのかを決めることができなかった。
しかし翌日、一晩寝てようやく気分が落ち着いたアヴァリスは、学生たちを集めてとんでもない決断を下した。
「俺たちはこのまま攻撃を続ける! 奴らの本陣を攻め落とすぞ!」
なんとアヴァリスは、オキメイ村にあるアルトイリス軍の本陣を強襲しようと言うのである。
これには、大勢の生徒たちや兵士たちが猛反発した。
「ちょっと待て! 見ての通り、負傷者は大勢いるし、僕たちには食料も水もほとんどない! これでは全力で戦えないぞ!」
「それに、偵察の報告だとシャルンホルストたちは川の向こうに陣地を作っているらしいじゃないか! これだけの兵で攻め落とすのは難しいんじゃないか?」
「俺たちの後ろにも敵がいるんだぞ!? 退路を遮断されちまうぞ!」
彼らの言うことももっともで、ただでさえ疲弊して負傷兵も多い状態で敵の本拠地を攻めるなど、無謀のように思えた。
また、彼らの背後には1000人もの兵を抱える青狼学級の部隊がいるとなると、敵の拠点を攻撃する間に背後を攻撃される恐れがあった。
しかしアヴァリスは意地でも自分の意見を貫き通した。
「いいか、思い出してみろ! 昨日の戦いで俺たちは奴らに大打撃を与えた! 最後っ屁の召喚獣のせいでとどめは刺し損ねたが、シャルンホルストの詐欺師どもの手元には、俺たちの半分以下の兵しかないはずだ! ここで奴らの拠点を攻め落とせば、奴らの物資を丸ごと奪えるし、アルトイリス領への道が開ける。後ろにいる青狼学級の連中は、本陣が落とされれば逆に孤立する立場だ、恐れるに足らない! それとも何だ、ここまで来ておめおめ引き返して、負けましたと言って頭を下げるのか!?」
癇癪を起すようにまくしたてるアヴァリスに対し、ほかの生徒たちは何も言い返せなかった。
ブランシャール、ロザーヴィア、ヴェッキオ、そしてレイアにデュカス……アヴァリスと対等に話せるような実力者をすべて失った白竜学級に、もはや彼に逆らえる者がいないのだ。




