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第338話 逃走失敗

 セダン城が降伏した当日とその翌日は、目だった騒ぎもなく、占領されたとは思えないほどの平穏な時が過ぎた。

 事態が動いたのは、2日目からだった。


「侯爵様、今戻ってきたぜ」

「おかえりなさいデルセルト、首尾はどうだった」

「お望み通り一人残らずひっとらえて来たぜ。ちょこまか逃げるもんで大分ケツを焼いたが、おかげで大猟ってもんだ」

「焼くのは手だけにしてね……まあ、襲撃が成功したならそれでいいよ、お疲れ様」


 今までどこかに向っていたデルセルトが戻ってきて、何やらリクレールと物騒な会話を交わしていたので、クレゼールは恐る恐る彼らに何事かを尋ねた。


「あの……リクレール殿、まさか、彼らはこの城以外の村や町の略奪に赴いていたのか?」

「お、誰かと思ったら嫡子のクレゼールじゃねぇか。ははは、きちんとお留守番できなくてさぞ悔しかっただろうなァ」


 自分の領地がカツアゲされて、ブレヴァン侯爵家にしこたま恨みを持っているデルセルトは、クレゼールが降伏して城を明け渡したということが愉快でたまらないらしく、底意地悪そうな笑みを浮かべながらクレゼールに絡み始めた。

 もっとも、クレゼールの方はデルセルトと面識がないので、なぜ自分が絡まれているのかわからずじまいだったが。


「俺としちゃぁ、お前らに受けた恨みつらみを晴らすために、お前らの領地から奪い尽くしてやりたかったところだが、侯爵様の命令だ、我慢しておいてやる。そのかわり、だ。こいつらの家から身代金をたんまり搾り取ってやるからなァ!」


 そう言ってデルセルトはわざとらしく指パッチンすると、彼の部下の騎士たちが、縄で縛られたボロボロの貴族たちを、まるで犬を引っ張ってくるかのように連れてくるのだった。

 その光景を見たクレゼールは度肝を抜かれるとともに、思わず彼らの元に駆け寄ろうとしてしまった。


「お、お前たち……! 逃げられなかったのか!?」

「クレゼール様っ!! 申し訳ございませんっ!!」

「我らは侯爵閣下の元に向かう途中……この者らの襲撃を受け、一人残らず捕虜となりました……」

「お願いです! 我々をお助けください、どうか!!」


 デルセルトたちが捕まえてきたのは、降伏直前にセダン城を脱出してブレヴァン侯爵軍と合流しようとした主戦派の貴族たちだった。

 彼らはまさか敵が自分たちを追ってくるとは思っていなかったようで、何も警戒することなく主要街道を集団で行軍した挙句、途中の町で宿をとっていたところを、デルセルト率いる黒鼬隊に襲撃され、抵抗むなしく一網打尽となったのだった。


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