第336話 塩対応
(エスペランサは本当にすごいよね、今回も予想通りだった……まさか本当に時間稼ぎの使者を用意してくるなんて)
『ふふふ、弱者のその場しのぎの策など、たかが知れていますわ。初めから3日程度で交渉するならまだしも、7日も必要というのはあからさますぎますわ』
アンドレが使者として訪れる前の日、エスペランサはリクレールに「敵は時間稼ぎのための交渉に訪れるでしょう」と予言していた。
リクレールは半信半疑だったが、今までのエスペランサの予想はほとんど外れたことがなかったので、その言葉を信じて主要なメンバーたちに交渉の使者が来たら通すように伝えると同時に、おそらくその使者は、降伏を装って時間稼ぎする可能性が高い事を伝えていた。
結果は見事ドンピシャで、アルトイリス軍の将全員がブレヴァン侯爵家側の思惑を丸っとお見通しだと言わんばかりの態度に、アンドレは度肝を抜かれてしまった。
「アルトイリス侯爵様のご事情は十分に承知しておりますともっ! しかし、主戦派たちを説得しないことには、我々は徹底抗戦しか道はなくなってしまいます!そうなれば、アルトイリス侯爵は交渉に要する期間以上の時間を失い、我々もむような血を流す羽目となります! 7日が無理であれば6日……いえ、5日で結構ですので、どうか我々を信じていただきたく存じます!」
「あのね、あなたたちは何か勘違いをしてるんじゃないかしら?」
そう言って冷たい表情で口を開いたのはヴィクトワーレだった。
「勘違いですと……?」
「ここまで来てブレヴァン侯爵軍本隊が戻って来ないなんて甘いことは私たちも思っていないし、最短でも10日くらいあればそっちの援軍が来るかもしれないことは分かり切っているの。だからそれほど悠長に時間をかけるわけにはいかないのよね。もちろん、やっぱり降伏を撤回するって言うのは自由だけど、その場合は…………国境の町でそうしたように、セダン城は徹底的に破壊して、貴族は全員身代金を払うまで捕虜になってもらうわ。どうせ守りに向かない城だし」
「ヴィクトワーレ様の仰る通りですな。我らは拠点としてのセダン城は欲していない。我らが欲するのは、この内乱で我らとその友好国が被った被害の賠償であり、降伏しないのであれば、アルトイリス軍全軍で強制的に没収するまでの話だ。そう……二度と帝国内で反乱などという愚かなことをする諸侯が現れぬよう、見せしめとして徹底的にな」
ヴィクトワーレだけでなく、サミュエルも、威圧感満載でアンドレに語り掛ける。
三人の塩対応で、アンドレは彼らが侯爵軍というより悪の組織か何かに見えただろう……そして、彼らが一切の譲歩をする気がないのだと徹底的にわからされた。
「…………左様で、ございますか。仕方がございません、城内で再度検討いたします…………」
こうして、アンドレが発案した時間稼ぎの目論見は、アルトイリス軍側に完全に見抜かれており、見事に失敗した。
無念な表情を浮かべて城に戻ってきた彼を見たクレゼールや、周囲の貴族たちは、リクレールに要求を突っぱねられたのだとすぐに悟ったのだった。




