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第333話 留守役の長男

 ペサックとスノンの町が、僅か1日にして跡形もなく破壊されたという知らせは、たちまち近隣の町や村に広がった。

 これらの町は国境沿いに位置するゆえに、防備もそれなりにしっかりしていた。にもかかわらず、抵抗もできずに一方的に奪い尽くされ、そして殺し尽くされた……この知らせは、ただでさえ混乱していた有力者たちを、恐怖のどん底に叩き込んだ。


「ペサックとスノンが完膚なきまで破壊されただと!? あ、アルトイリス軍め……なんてことを!?」

「しかし、私たちにはもう奴らを止める手立てはない……このままでは、私たちまで殺されてしまう」

「もう駄目だ! 吾輩は降伏するっ! 街ごと皆殺しにされるよりは、高額の税を払う方がまだましなはずだ!」


 もはや金を払うか殺されるかの二択しかないとわかった彼らは、先を争うようにリクレールに恭順の意を示し、略奪を免れるための免奪税の支払いと、領内の通過に合意していった。

 こうしてアルトイリス軍は、フォントラル侯爵領でもそうであったように、敵軍と一切戦闘することなく、一直線に目的へと進むことができた。

 リクレールが命じた戦略的破壊作戦は、確かに絶大な効果があったようだ。


 そして、アルトイリス軍が驚異的なスピードで迫ってきていることは、ブレヴァン侯爵領の首都セダン城にも当然届いていた。


「申し上げますクレゼール様。アルトイリス軍はペサックとスノンを徹底的に破壊し、早ければ3日後にはセダン城の目前まで迫ると思われます」

「そうか…………今、この城にはどれだけの兵士がいる?」

「はい、現在の守備兵はおよそ200名ほど。さらに、徴募兵の適格者や傭兵などはすべてトライゾン様が徴兵したため、新たに兵を増やすことも難しいかと」

「なるほど」


 クレゼールと呼ばれた豊かな顎髭を生やした男は、重臣からの報告を聞いて一切慌てることなく、深くため息をつくばかりだった。

 彼こそ、ブレヴァン侯爵トライゾンの長男であり、父親に何かあった際には彼が侯爵領を取り仕切る役割を担っている。

 そのため、今回も父親の遠征には同行せず、侯爵代行として侯爵領の統治に当たっていた。


 トライゾンからのクレゼールの評価は、良くも悪くも「凡庸」と言ったところで、後継者として目だった欠点はないのだが、これと言った長所もなく、また目立った趣味や嗜好もないという、ある意味「無難」を絵にかいたような男だった。

 弟のアヴァリスが、悪い点は目立つが非常に優秀であることとまるで正反対と言ってよく、もしアヴァリスが次期皇帝に内定していなければ、廃嫡すら考えられたかもしれない。

 だが……こうして危機が迫っているにもかかわらず、一切慌てることなく現状を確認し、どのような手段を採ることができるか考えることができるのは、ほかの人にはない、得難い才能だろう。


「まずは、この状態での籠城は無謀だな。敵の戦力は5000人という大軍……その上、報告によればフォントラル侯爵軍が野戦で一方的に撃破されるほど強力となれば、いくら兵士をかき集めようが、守備に向いていないこの城を守ることは不可能だ」

「私もそのように思います。トライゾン様はアルトイリス侯爵軍への抑えをフォントラル侯爵軍に任せておりましたゆえ、彼らから攻め入られるのは想定しておりません。仮に、早馬で本隊に知らせが行ったとしても、戻ってくるまでには10日近くかかることでしょう。考えられる手段は2つ……この城を放棄し、別の城に逃れるか。あるいは、戦わずして城を明け渡すかのどちらかとなります」

「逃げるか、敵に降るか。いずれにせよ、父上からの叱責は避けられんだろうな。下手をすれば手打ちもありうる。何しろ私は、長男であるというだけで、この城の留守を任せられているのだから、父上にしてみれば代わりはいくらでもいるだろう」

「クレゼール様…………」

「確かにそれが最も安全ですが、よろしいのですか?」

「なに、この凡庸な男の首一つで何万もの民衆の命と、先祖代々繋いできたブレヴァン侯爵領が助かるのなら、これほどお得な話はあるまい」


 こうして、クレゼールは戦わずして降伏することを決断したのだった。

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