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はぁ……と息を整えて、蓮は周りをきょろきょろと警戒するように見渡した。端から見れば挙動不審以外の何物でもないが、しかし蓮にとっては大事なことで。
昼の鐘が鳴ってしばらく……二時間ほど経った今、ただあるだけのこの鐘の塔の周りには勿論だが、誰もいない。
だけどそれで油断してはならない。これから逢いに行く者の意思で、誰も近づいてほしくないと言う意思があるからだ。
蓮は、その言葉と意思に何の抵抗もなく頷いた。その気持ちは他でもない、蓮が一番よくわかることだったから。
誰かと触れるのは最悪な気分になる。蓮がこれから逢いに行くものとは理由が違うかも知れないが……それでも蓮に首を横に振ると言う選択肢はなかった。
人がいないことも、気配もないことも確信して、蓮は塔の横の道に入る。
たたたっ、と脇道に入ると塔の側面がぱらら……と鳴った。
すぅ……と消え入りそうな程にちいさなちいさな、ささやかすぎる風だったが、まだ新しいひびには酷く滲みるようだ。
レンガで作られた、酷い傷の入った壁を足を止めて蓮は見上げる。
何かがぶつかってきたかのような、ひとつの重点を中心に、丸を打ち込まれたかのような痕。
もとが強い造りになっているのか、ひと一人分程度のめり込まれた傷痕くらいではこの塔は崩れたりはしないらしい。
「……」
蓮は無感情に痕を見つめる。
この傷痕は、一週間前…………『悪魔』が作ったものだから。
他でもない、蓮が対峙したのだから。
蓮は、思い返す。
ここに悪魔が現れなかったら、蓮はこうして『誰かに逢うために』外へ出たりなど決してしなかった。
帰り道。
一週間前、いやいやのお使いを死ぬような思いで終えた蓮は大きな息を吐きながらほてほてと帰路についていた。
行く前は足取りが重たかったが、帰り道は違う。
しなくてはならない、と言う枷が外れるのだから、自由の身だ。ほくほくだ。
これで文句はあるまい、と家にいる意地悪な兄に胸のうちだけでささやかに胸を張り、黒地に白いふわふわが囲うケープで口許を隠し、にんまりと笑う。どうだ、参ったか兄よ。
悲しいかな、口に出して面と向かって言えば蓮よりも遥かに口の回る律に言い負かされてしまうのは目に見えているから、言えないが。




