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「行ってきます」
そう言って蓮は唯一出入りできる窓から外へ出た。
薄桃色の布を被せた籠を持ち、草が伸びきった庭に足を下ろす。
ぐりぐり、と足首をほぐして「よし」とちいさく意気込み笑った。
「なんだ、蓮。今日もお外でおやつですかー?」
「うん。……って歩き食べはお行儀悪いよ律くん」
びっしぃっ、と全力で指を指し律を注意する妹を律は僅かな靄の向こうから内心、首をかしげて見る。
あれだけ外を嫌い、冬を嫌い、他人を嫌う蓮がここ数日外出が多い。
籠から香る甘いお菓子と蒸しタオルを持って出掛けるのはここ数日間、蓮の日課になっていた。
律は食べかけのチェリーパイを口に放り込んで手の中には何もないことを蓮に示す。
適度に咀嚼し、ごくんと飲み込むとにんまりと笑って見せた。
「歩き食べしてないよー?蓮ちゃんやぃ」
「屁理屈だよっ!屁理屈っ」
もーっ、と眉を吊り上げて怒る妹。
以前よりも感情の広げ方が上手になっているような気がするのは……律の気のせいではないだろう。
数日続いている外出が功を成しているのは間違いない。
蓮くらいの年頃ならいくら外に出ていっても問題はない。むしろ健全とも言えよう。
友だちでも出来たのだろうか?それはそれで喜ばしいことだが……しかし違和感があった。
「お馬鹿な蓮ちゃん?大事なのは今なんだよ?今。……暗くなる前に帰っておいでよ?優さんが心配するから」
「ちっちゃくないんだから、それくらいわかってるよだ」
「どうだか。この前俺に捜索させた前科があるくせに」
「うー……うーっ!もうしませんっ!」
行ってきますっ!と籠を握りしめて、たっと走り去った妹の背に「はいはい」とちいさく笑い、軽く手を振って見送る。
黒で統一されている服に何の疑問も持たずに生きてきた妹は、今何を得ているのだろうか?
門とも言えない灰色の古びた門の間を抜けて、曲がり走って行った蓮を確認して、律は心の色のままに表情に表す。
家にこもっていたばかりの頃より、断然今の状況の方がいいに決まっている。蓮はあまりにもだれかとの関わりを拒みすぎていたから。
相手が誰にしろ、それは喜ばしいことに変わりはない。……けれど。
……けれど、だ。
「……なんだかなぁ…」
歯車が滑るように噛み合って、内側がざわめく。




