第4話 既にカツカツ節約生活
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入学式……いや、雛子との協力関係開始から一週間が経った。
このぐらい時間が経てば、少しずつ慣れてくるのが人間というもので、
「銭原……お前はなにをしている?」
「話しかけないでくれ先生、俺は今内職中なんだ」
「……このボールペンが、か」
「おい不用意に触るな――」
バラバラにしたボールペンの部品を机いっぱいに並べて、組み立て仕上げていた。というのに、
先生と呼ばれる、ゴリラのようなおっさんが持った直後、無惨にもボールペンはボロボロになる。
「てめぇゴリ先!! 触んなや!! まだ圧着してないんだから、パーツが取れちまうだろ!!! もっとデリケートに扱え!!!」
女性のようにな、と続けようとした瞬間、
「ばっかもーーーん!!!」
「あだだだだだ!!! まさかのアイアンクロー!? 頭が! 頭が割れる!! ゴリ先離しやがれ! 教育者がそんなことして良いのかぁ!?」
「お前の親御さんやお祖父様から厳しくして構わない! なにをしても良いと言われている!!」
「あんのッ! バカ親がぁぁぁ!!!」
百八十越えの身長と、筋骨隆々のガタイの良い“後離 重夫”という、担任教師は俺の顔面を鷲掴みにして力を入れる。
柔道オリンピック予選に出場経験があるという、リアルゴリラのようなおっさん。
今年五十三歳なんて嘘だろおい。
クラスメイトに助けを求めようとした時、有象無象よりも役に立つ、授業終了を知らせるチャイムが鳴り、ゴリ先は手を離す。
「お前に構っていたらまた終わってしまったぞ。偶には大人しく授業をさせてくれ。頼むから仕事をさせろ銭原」
「俺の仕事を妨害しといて? 言ってろよゴリ先。やって良いのはやられる覚悟がある奴だけだぞ」
「お前は俺に殺られる覚悟があるのか?」
ジョークですやん? 軽い殺しあんジョークですやん? そんな怒んないでくれよゴリ先〜!
「ったく、馬鹿のせいでもう昼休みだぞ。みんなは銭原の悪影響を受けないようにな」
「あんな暴力が許されるのか、このゴリラ」
「あれは愛の鞭だ。ゴリラとの握手くらいに思っていろ銭原」
「頭と手のシェイクハンドがあってたまるか!!!」
呆れながら教室から去って行くゴリ先。
それを確認してから、みんなは昼飯の準備を始めだす。
クソ、あと少しで内職終わったのに。
諦めて昼飯を食べる準備をしていると、俺の席に近付いてくる男子生徒が一人。
「銭原、君も飽きないねー」
「真波か、お前止めてくれよ。まるでダンク前に掴まれたバスケットボールのようになってた俺をさ」
友達だろ? と聞くと真波は応える。
「後離先生のアイアンクローに耐えられるのは君だけだよ銭原。俺たちみたいな一般人が野生動物二匹の争いに入れる訳ないよ」
「誰が野生動物だ!! ふざけんな!!」
「確かにね、野生動物の方がまだ知能があるから違うよね」
「おい待て!? 俺今貶されてんの!?」
笑いながら椅子を持ってきて、俺の机に弁当を置く真波は、ゆっくり昼飯を食べ始める。
近くで見れば見るほどに、この“真波 行人”という、苗字も名前のような奴の良さを実感する。
綺麗なまつ毛、整った顔立ち。
まるでモデルのようなスラットした姿は、同じ男の俺から見ても惚れ惚れするものだ。
だから告げる。
「おう、にいちゃん良いツラしてるやないかい。どうや? 俺が楽に稼ぐ方法教えてやるさかい」
「なんで関西弁? “エセ”はやめときなよ。そういうのはうるさい人たちに絡まれちゃうよ」
「せやかて真波!」
「そんなコテコテな関西弁を使う人いないよ」
それもそうか、そんなの某名推理子供探偵の中でしか言わないよな。
おっと、これ以上これに触れるのはやめとこう。
「いやリアルな話、何度も言ってるだろ真波? お前なら金の卵を産む鳥になれるぞ」
「少しは本音を隠してよ。それって前に言ってたあれでしょ? “俺の写真集を出す”ってやつだよね?」
そうそうそれ、お前なら絶対高く売れるぞ。俺が保証する。
なんて言ったって、コイツは上級生にも人気があるのだ。ボロ儲けセンサー反応ビンビンだ。
「マネジメント料で俺が九割貰うぞ」
「勝手に話を進めないで。やらないよ」
「クソ! 欲のない奴だな!」
イケメンなのに欲が無いとは、なんて奴だ。本当に人間なのか。
つまらないと思いつつも、空腹に耐えかねて昼飯の準備をする。
「真波はまた寮で販売されてる弁当か?」
「うん、美味いからね。それに安いし、利用しない選択肢がないよ」
「安いだと? ハウマッチ?」
「千八百円」
高えよ! 毎日昼に食べたとしても三十一日だと五万5千越えだぞ!? 俺にはそんなもの食えん!
「だから……またそれ?」
「また、とはなんだ。また、とは」
これでも俺の自信作であることには変わらないんだぞ?
鞄から取り出したのは、どこにでもある普通のお弁当――中にはもちろん白米のみ、その上には“かやく”と記された小さな袋。
さて、この“かやく”の中身を水筒の蓋の中に入れまして、そこにお湯を注いで、少ししてから弁当の上に乗せれば――
「ほら見てみろ! チャーシュー(極小)丼だ!」
「質素すぎる!!! カップラーメンの中に入ったかやくをおかずにするのは、銭原以外いないよ!!?」
これも借金返済のためなんだ。我慢しないとなんだ。
「……となると、残りのカップラーメンは具無しで食べるわけ? ……悲しい食生活だね」
「なにを言う! かやくは飯のおかず! スープはスープ! そして麺は麺! ほら見ろ。これで三食賄えただろ?」
「まさかのスープ別なの!? しかも三食って……え、麺はどうすの!? 味ないよ!?」
「ゴリゴリとした良い食感があるだろ。噛みごたえがあって満腹感を得られる」
「しかも茹でないのかよ!」
唯一、不満を溢すとしたら、今が白飯と食べるから白飯分の費用が気に食わない。
だが、絶賛男子高校生が白飯無しじゃ生きてはいけない。これも必要な出費だ。
「なんか……こっちが悲しくなってきた」
「なにを言う! 見ろチャーシューだけじゃないぞ! ミニメンマとかナルトもあるんだぞ! 贅沢だろうが!」
「それが贅沢なら、俺が普段食べてる物は銭原からしたら高級料理なんだろうなー」
そんな高い弁当を食べていてコイツはなにを言っているんだ。毎日約二千円のお弁当なんて高級だろうが。
別に羨ましくなんてない。俺はこのかやく弁当好きだし……
「良かったらお弁当の中身、何か恵んであげようか?」
マジでか!? ありがてぇ!! さすが友達!!
「はい、バラン」
「クソっ!! ちょっと待ってろ!! バランを食べて良いのか調べてみる!!」
「食べちゃダメに決まってるでしょ、馬鹿」
真波! 貴様! 俺の純情を弄びやがって!!
学校が始まり一週間。
俺の節約生活は、早くも危機に瀕していた。
~おまけ~
「……このままだと来週には“かやく抜き生活”に突入するかもしれない」
「もはや、白米すらないかもだね」
「俺に霞みを食えってか!!?」




