第35話 最高の演技だぜ雛子!! だから俺は……お前のためなら――
翌日、いよいよ決戦の日。
学園内にあるホールに小等部の生徒が続々と集まってくる。
そして、子供らしい年齢相応な賑やかさの中、俺たちは舞台裏に立っていた。
「黄金院さん? どうなのですか? 練習の成果は出たのかしら?」
「はい! わたくし、今なら木の役でも完璧に演じることができますわ!!」
あの不動の木を完璧に? これは……雛子のコンディションは万全、当然だろう。
「俺も側で見てたからな! 今の雛子はフルパワー雛子よ!! あっと驚かしてやるぜ常馬場先輩!!」
「ふん。舞台は個人競技じゃないですよ? あくまでもチームとして観客を魅了するんですからね」
ふん! そのくらい分かってらぁ!! なぁ雛子!!
「はいですわ!! 見せてやりますわよ!」
「その意気だぞ雛子!」
「わたくしの演技で観客様を一網打尽ですわ!!」
「一網打尽はすんなぁ??」
でも今の雛子の圧を目の当たりにして、常馬場先輩も驚いている。
いけるぞ雛子! お前がナンバーワンだ!!
「いざ出陣ですわーー!!」
◆
かくして、劇が開幕した。
『お母様!! とうもろこし王に、わたくしはなりますわぁーー!!』
『私たちがお城の舞踏会から戻るまでに、帰ってくるのよ? ピョン子?』
『はい! 分かりましたわぁーー!』
……あ、うん。かくして、始まってしまったわけだ。
……
…………
………………
なんだこの混沌とした設定は……。
「あれ? あ、コテツだ! やっほーー!」
「うわっ……柊じゃねぇか」
「うわっ、てなに! うわっ、て!? 私に会いたくなかったの!?」
「うるせぇよ劇中だぞ。私語厳禁だわ。黙れ」
「言い方キッツ!!?」
キツイだぁ? 舐めんなよ?
俺は映画館や図書館みたいな、静かにしないといけないところで煩い奴らは許せなんだよ。
チャラチャラしやがって、これだから最近の若いもんわよぉ!!
「コテツ!? おっさんみたいなこと言ってるよ!?」
「喧しいわ。んで、なんでお前はここにいるんだよ柊? 観るなら客席に行ってこいよ」
「ブーブー! 私は劇そのものの取材を頼まれたんですぅーー! ここにいても良いんですぅーー!」
え、あ、そうなの? なら良いけどさ。
それでも静かにしてろよ? ほらスタッフの目が鋭くなってきたから、やめてねほんと?
「それよりコテツ大丈夫なのぉーー?」
「あ? なにがだよ」
「だってさ、コテツだって部外者じゃんよーー!」
「あ?」
なんでだよ? 俺と雛子は特訓をしたパートナーだぞ? アイツを隣で見てないといけないだろうが!?
「それが相棒ってやつだろ!?」
「気持ちは分かるけど、完全部外者だよねーー!」
「なあ柊よく聞け? いくら正しいことでも言わない方がいいんだぞ?」
良いのか? いじけるぞ? 拗ねるぞ? 男が拗ねたらめんどくさいんだぞ?
普通の男でめんどくさいんだ。俺ならその十倍はめんどくさくなる自信がある。
「わ、分かった分かったよ。ごめんねコテツ? 言い過ぎたよ……」
「分かれば良いんだよ。身の程を知れ」
「どのみちめんどくさいんだけど!!?」
煩いな、黙って劇を見てろよ。周りに迷惑だぞ。
「振り出しに戻ってるよ!? ……全くもーー」
ツッコミを欠かすことなく、ため息をした後に柊は言葉を続ける。
「最初に劇のタイトルを聞いた時は心配だったよ」
「だよな? それは俺も同感」
「でもね、そこは腐っても演劇部だね。綺麗に作られてるよ」
あ、そうなのか?
「うん。魔法学校に入学したり、死後の世界で剣を振り回したり、さっきの指輪を奪い合う演技とか良かったよね。展開に違和感がないもん」
「あ、もうそんなことあったのか!?」
舞台袖で見てるのに!? 全然気づかなかったぞおい!?
「上映時間が一時間しかないからね、急がないと」
「詰め込み過ぎだろ!?」
「さっきの蛇語を話してた雛子ちゃんとか良かったね! あの演技は雛子ちゃんに蛇が乗り移ったのかと思ったよ!」
「マジかよ!? くそ見逃した!!」
ていうかそれらを一時間で収めようとしてんの!? 無理だろそれ!?
横で見てたつもりが、どうやら柊にかまってる間に色々逃していたらしい。
「このクソ柊が……!」
「あ、今! 五つの玉を集めて願い叶えてたよ!!」
「マジ!? あぁぁーー!! もうまた見てねぇよ!! てかそれやって良いの!?」
「ほら! いっても学生の出し物だしね!」
にしたってなぁ? ……怒られるかもしれないぞおい、しばらく不安で寝れねぇよ。
……
…………
………………
そして、劇の終わりが少しずつ近づいてきたようだ。
『困りましたわ……伝説の秘宝のとうもろこしを落としてしまいました……。わたくし、超ショックですわ……シクシク……』
雛子を照らすスポットライトが淡く光、悲しげな雛子の――いや、ピョン子の気持ちを表している。
さすがは雛子、素晴らしい演技だ。
ただねぇ?
「もうどんな話か分んねぇぞ、これ」
「うぅ……な、泣いちゃうよ……感動しちゃうよぉぉ……!」
「柊は感受性豊かだもんな――って!? 嘘だろ観客も泣いてるぞ!?」
マジで!? そんな泣けるとこなの!? え、分かってないの俺だけ!?
『シクシク……シクシク……』
泣いてる演技も様になってるな雛子。練習の成果が出ていて良かった。
『シ、シクシク……? あーー涙が止まりませんわーー』
「あれ?」
なんか長くないか? 少しくどいと言うか……雛子の反応も少しおかしくないか?
雛子の様子に不自然さを感じ出した時、柊が俺に耳打ちをした。
「なんでも、この後に出る役の人が怪我しちゃったみたいだよ! 出れないみたい」
「え、大丈夫なのかそれ? もう終わり頃だろ?」
「そうだけど、同じ体格の人がいないみたい……だから代役が……」
「やばいだろそれ……」
「その人がコテツくらいの体格でさ……そんな人いないみたい……」
「……」
さすがに観客も異変に気付いた奴がいるのか、少し話し声が聞こえてきた。
どうすんだよマジで。
「コテツ……雛子ちゃんが……」
「……」
「コテツ……!」
「ッ!! クソッ!!」
ここまで頑張ってきた雛子……いや、演劇部の連中がどれだけこの日を待っていたか。
小等部の子たちが、どれだけ楽しみだったか。
――雛子が、この日をどれだけ……。
「ちくしょう! やってやるよ!! 今回は“タダ”だからな!! クソがよぉーー!!」
「コテツ!? どこ行くの!?」
どこに行くだぁ? 決まってんだろ!
舞台袖から離れ、演者控え室の扉を開け放ち、冷や汗を流した常馬場先輩に頭を下げた。
「俺に代役をさせてくれ! 頼みます! 常馬場先輩!!」




