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第26話 おい雛子? お前マジこっち見ろ?






「んで? あれからどうなったんだ雛子」


 満鳴先輩の一件から二日が経った。

 

 二日前、あの競泳水着茶を飲まされたあの日。

 あの変態を警察に突き出してやろうとしていたところ、


「小鉄様は先に寮へお戻りくださいまし、あとはわたくしがなんとか致しますわ」

「ここが今の俺の寮なんですけど??」


 好きが溢れている者同士、なにか思うとこがあったのか、雛子の要望で先輩の件を一任したわけだ。

 凄く不安だったけどな。なんて言ったって、


「俺の報酬はどうなったんだ? ……まさか、独り占めなんてことはないよなぁ?」

「報酬は受け取っておりませんわ! わたくしたちは相棒ですわよ! 一緒に解決した依頼は一緒に報酬をいただきますわ!! 冷静になって、とうもろこしでもお食べになってほしいですわ!」

「とうもろこしは後でもらうとして」


 で? 実際どうなったんだよ。

 そう聞くと、雛子は自分の手を胸に添えて答える。


「しっかりと解決いたしましたわ。わたくし、やればできますのよ」

「お、やるな雛子。じゃあ水泳部に今回のことを報告しに行くけど」


 もとい金……いや、報酬を貰いに行くけど?


「わたくしも行きますわ」

「あ、そなの? 報告だけなら俺だけで良いのに」


 一緒に行くのか? ……あ、まあ、女子水泳部に行くわけだから、俺一人よりも雛子がいた方が良いのは間違いないな。

 そもそも、二人で会いに行ったわけだしな、二人で行かない理由がない。


「ちゃんとしていらっしゃるのか、わたくしがちゃんと確認しに行きませんと」

「なんの話?」



 放課後、水泳部へと顔を出した俺を迎えたのは、予想外の存在だった。


「な、なんだこれ……」

「いかがですか小鉄様!」

「いかがですかってお前……なんだこの状況は……」


 呆れて雛子を見てみるが、自信満々な態度なのが余計タチ悪い。無闇に叱れねぇよ。

 周りの生徒たちが練習に励む中、一際目立つ“異質な者”が声を上げた。


「自分フォーム乱れてるやん! そんなんで勝てると思ったん!?」

「すいません!」

「そんなんじゃ競泳水着も泣いてるやん!! 自分が着たろかその競泳水着!!」

「すいません!!」

「すいませんで済めば、警察も競泳水着もおらんねんて!!」


 ……なんだあれ。

 見覚えのある関西弁お兄さんが女子生徒を指導してる。

 いや、正確には二日前に見た。あの濃い変態……


 あれって……満鳴先輩じゃね?


「なんでアイツがこんなところにいるんだ……場違いどころか、いちゃいけないやつだろ」

「わたくしがご説明いたしますわぁーー!」


 おう、説明してみろよ。犯人は雛子しかいねぇんだから。

 雛子は小さく咳をしてから、ゆっくりと状況の説明をしだした。


「わたくし考えたんですわ。みつなる先輩様が血迷っておりましたのは……“環境のせい”ですと」


 ほう、環境だと?


「先輩様の話を聞いてみますと、ご実家の方ではどうやら壁……いえ、天井や床、部屋一面が競泳水着で埋め尽くされているらしいのですわ」

「想定内だな」


 ん? あ、いや待って?

 そもそも好きな物を足で踏むのってどうなんだ? それは良いのか?


「悲しいですわよ……好きな物から離れるというのは……とうもろこしと離れたらと思うと……わたくし……気が狂ってしまいますわ。小鉄様なら分かっていただけますでしょう?」

「まぁ、俺も金が手元に無いと不安で仕方ないな」

「でしょう!? そうでしょう!? さすが小鉄様ですわ!!!」

「圧! 圧! 近い近いって!!」


 好きなことには前のめりのオタクかおのれは!


「ですから、わたくしは考えたんですわ」

「ほう、どんな?」

「木を隠すなら森の中。人を隠すなら人混みの中……では、満鳴先輩様を隠すなら競泳水着(水泳部)の中だと!!」

「“隠す”時点で切り離し作業をしてんじゃねぇか! おい! 同志じゃなかったのかよ!!」

「小鉄様……」


 な、なんだよ雛子……?


「満鳴先輩様の“好き”のベクトルがわたくしと違い過ぎて……わたくし、結構ガチめに引いておりますわ」

「ほら見ろ!!? 覚えとけ!? お互い好きだからって分かり合えるわけじゃねぇんだよ!!?」

「競泳水着茶ってなんですの? 衝撃的ですわ」


 とうもろこし茶が言ってんじゃねえよ。

 あれだけ味方ポジション貫いてて、切り捨てるのに迷いが無さすぎるだろ。


「ともかく、あとは水泳部の人たちに丸投げしますわ! わたくしは知りません!」

「知りませんってお前なぁ……」


 そもそもあんな変態に泳ぎを教えられるのか? 水着のことしか考えてないやつに?


「満鳴先輩様は競泳水着が好きなあまり、水泳クラブに入って、数々の大会で優勝しておられる凄い方なんですわよ」

「人は見かけに寄らないな」


 あ、じゃあ教えるのは大丈夫なわけか。

 それにしても、犯人を見つけたら殺しそうだった女子生徒をよく言いくるめたな。実は雛子は話術の達人なのか?


 そんなことを考えていると、依頼をしてきた女子水泳部員がやってきた。


「お二人ともお待たせいたしました。遅くなって申し訳ございません」

「いやいや、部活中だろ? 悪かったな、途中で抜けてもらって」

「構いません。今回はありがとうございました。あんな素敵な指導者まで」

「いえいえお構いなくですわ!! あの方のことは水泳部の方々にお任せいたしますわ!! クーリングオフ不可ですわ!」

「え? あ、ク、クーリングオフ??」

「なんでもないぞ!? 忘れてくれ!?」


 おい、切り離し作業に移るな!

 お前厄介者を押し付けやがったな!? 良いのか!? アイツが変なことをしたら俺らのせいなんだぞ!?


「満鳴先輩は将来、教職を目指しているみたいなので、人に教えるのが上手くて……凄く素敵です」

「え、初耳」

「わたくしもですわ」


 お前もかい!!! それを知ったからここに捨てたんじゃないのかよ!!?


「まさか水泳をこよなく愛する者として、私たちの練習姿を写真に収めて研究していたとは!! 盗撮と間違えて申し訳ないです!」

「……ギロッ!!」

「……サッ! ですわ!」


 おい! 目を逸らすな!! 捏造してんじゃねぇよ!!?

 こんなことするのは俺の正義に反する。ここははっきり言ってやろう。


「それでは報酬を……」

「あのへんた――みつなるのことは頼んだZE!! アイツは頼りになるからYO!!」


 もう知らね!! やったのは雛子だし、俺は無実だ!!! さあさあ何億万円かなーー!!


「近いうちにやる水泳大会のVIP席チケットです!! 私たち頑張りますから是非観に来てください!!」

「チッッッ!!!!!!!」

「でっかい舌打ちですわね!!?」




 そんなこったろうと思ったわボケが!!!




 こうして、みつなる先輩は競泳水着に囲まれたことで、寮内での普段着が競泳水着からパンイチになりましたとさ。


 


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