第21話 盗撮事件!? “魔境の住人”銭原小鉄探偵!?
「朝か……」
鳥のさえず――いや、うざったい鳴き声で目が醒める。
「んだぁ? 愉快に鳴きやがって、朝飯の焼き鳥にしてやろうかぁ? 鳥畜生が」
清々しいのか、鬱陶しいのか……間違いなく今の俺からしたら後者。
俺が半壊させた“寮とはまた違う”、そんな快適とは真逆の環境にも慣れてきた。
「にしたって……こんなボロアパートに生徒を住まわせるとか、これが人の所業か?」
分かるよ? 分かる。だって寮を爆破した奴だしぃーー? 少し前はゴリ先とラグビー部を爆破させたからなーー。
俺を厄介者として、こんな僻地に追い出したのも分かる。
でもさ、
「学園まで三キロもあるところを、果たして寮と呼ばんのか?」
寮から追い出され、強制的に入れさせられた大輪学園“第七寮”は、哀れなことに学園から最も遠い場所だ。
やったことがやったことだが、それにしたって……。
寮というにはおこがましいボロアパートで、緑豊かな木々に囲まれる寮。
……あ、庭でタヌキが歩いてる。
「都会にあるはずの学園なのにタヌキはいるし……、それにこの見渡す限りの森……本当に都会か?」
自然に溢れた景色を眺め、渋々制服に着替えていると、
「小鉄様ーー! 朝ですわよーー!! 学園へ参りましょーー!!」
「朝から元気なことで」
聞こえてくるは俺の相棒、黄金院家の令嬢こと黄金院雛子。
そんな相棒が元気よく寮の入り口で声を上げている。綺麗な金髪が朝日に照らされ、まるで太陽の女神と言ったところか。
とりあえず、待たせるのは悪いな。
「おはよう雛子、朝から元気だな」
「おはようございますわ小鉄様! 今日も清々しい朝ですわね!! こんな日にはお外で焼きとうもろこしが一番ですわね!!」
「ほーん。……じゃあ天気が悪い日は?」
「蒸したとうもろこしが一番ですわね!」
「結局とうもろこしなんだが!?」
どこまでもコイツは……、いつも変わらずのテンションなことで……さて、
「とりあえず行くとするか。学園まで遠いし、雛子ここまで大変だっただろ?」
「いえ、新鮮で楽しかったですわよ? 森林浴ができましたわ」
学園の敷地なのにね? 森林浴できるのおかしいよね? 都会だぞここ?
「ほら、聞いてくださいな。川のせせらぎを……素敵な場所ですわね……」
「この寮見てみろ。廊下の床が腐ってんだよ。素敵な場所? アハン? ジョークが上手いな雛子」
「そういえば! 朝ごはんにとうもろこしパンを作ったんですの! 小鉄様? お食べに――」
なります! ありがたくいただきます!
このオンボロ寮だと、飯とか無いからマジで助かる!! 助かるぜ太陽の女神様!!
こうして今日も学園へと向かう。
後に知ることだが、この第七寮には別の名前があるみたいだ。
学園の問題児たちが集まる。
“魔境”と――
◆
「はぁ? 盗撮だぁ?」
昼休み、相棒と中庭で昼食を食べていると、雛子が思い出したように喋り出した。
「なんでも、水泳部の方々が話しているらしいですわ。変な視線を感じる……と」
「自意識過剰なんじゃないのか? 男の裸なんかみんな興味ないだろうよ」
「違いますわよ小鉄様! “女子”水泳部の話ですわ!! 女性は視線に敏感なんですのよ!」
ほぇーーそんなもんか……あ、この焼きとうもろこし美味いな。さすが雛子の作ったやつだ。
「小鉄様、話を聞いていますの?」
「おう聞いてるぞ。この焼きとうもろこし美味いな、最高だ」
「それ聞いておりませんわね!? 褒めていただいてありがとうございます!! 作った甲斐がありますわ!!」
――ではなく! と雛子は笑顔から一変し、真剣な表情に切り替える。
「女子水泳部が困っておりますのよ! 解決しなければなりませんわ! 小鉄様!」
「待て待て待て? 何を解決するって? 盗撮だとか、視線とか、証拠も無いぞ?」
少し曖昧過ぎないか? なにをもってそんな決めつけているんだよ。
「これを見てくださいませ」
「ん? ――って、これは!!?」
雛子が自分のスマホの画面を俺に見せた時、俺は大きく目を見開いた。
画面いっぱいに広がる、水泳練習に勤しむ凛々しい表情の女子生徒たちの写真がカメラロールに溢れている。
ふーーーーむ。
「雛子さんや」
「なんですの小鉄様?」
その写真はどこで? と聞き返すと慌てて答える。
「わたくしは犯人じゃありませんわよ!? 夏希さんからいただいたんですの! 盗撮犯が密かに撮っている写真の一部を入手したと!」
「ほう」
「その時の写真を夏希さんから送っていただいたんですわ!!」
なになに? 柊が? 俺が『証拠とかないのか?』とか言うと思うから、これを見せろと言われた。と?
さすが柊だな、俺のことを分かっている。
証拠が無い状態で動くのは愚策だ。勝算がなければ動かない。それが俺。
さてと、
「雛子」
「なんですの小鉄様?」
「お前の言いたいことは分かった。でも、なんでそんなことを俺に話したんだ?」
「それはもちろん解決するためですわ!」
「断る」
なんで俺がそんなことをせにゃならんのだ。それこそ教員の仕事……いや、もはや警察の仕事だろう。
「後離教諭が言っておられましたわ。小鉄様にやらせろ、と」
「ぐぬ……」
「やらなければ、どうなるか分かるな? と言え、と」
「ぐぬぬ……」
でも、なんで俺が……めんどくさ──
「女子水泳部の方々が解決してくれれば、“御礼”をいただけると──」
「さーーて!! やるぞ雛子!! かね――いや、困っている人たちが待ってるぞ!!」
「さすが小鉄様ですわ!! さぁ! 行きますわよーー!!」
~おまけ~
「ところで雛子、その水泳部の写真とやらを俺のスマホにも送ってくれ」
「え、何故ですの?」
「アングルから逆算して撮影場所を特定する。調査は効率的にやるスタンスなんだよ。ほら、早く」
「……」
なんだよ、早くよこせ。
「……しいことに……」
「ん?」
なんだよ、なに言ってん――
「まさか、水泳部の写真をいやらしいことに使う気ですわね小鉄様!?」
「なに言ってんのお前!!?」
「なんて破廉恥な!! これを送るわけにはいきませんわ!! エッチ!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!?」
エッチ!? この俺に向かって!? 金欲しかない俺に向かってなんて言い方を! ……ちっ、まあ良いわ。
「じゃあお前のスマホから見るから、スマホを貸せよ雛子」
「異性のスマホを渡せ!? このスマホを持って何処に行くのですか!? トイレ!? トイレですわね!? 小鉄様のエッチ!!!」
「お前マジ一旦黙れ!!?」
水泳部までの間を、雛子から柔らかいとうもろこしクッションで頭を叩かれる俺は、他の生徒からさぞ痛々しく見られただろう。




