第2話 とうもろこしは飲み物ですわ
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「いやーー、黄金院さんが新入生代表だったとはね」
入学式が終わり、帰路に着くために校舎内を柊と歩く。
その最中の話は黄金院 雛子の話題でもちきりだ。
「そうだな、あれは驚いた」
「スピーチも……ざ、斬新だったしね」
「あれが斬新? とうもろこしの例えばかりで、とうもろこし狂人としか思えなかったわ」
「周りは誰も驚いていなかったしね……」
「学校のみんながおかしいのかもな、見たか柊? 黄金院がスピーチしてるのを見て、感極まって泣いてるやつとかいたぞ?」
なんなんだアイツの人気は、と思い出すだけで頭の痛くなる光景に、眉間を抑えて疲労を誤魔化す。
変な疲れがドッと来た……。
「あ、寮はここだって、着いたみたいだよコテツ」
「ん? あー広い校舎の中でいつ着くと思ってたが、やっと着い――いやデカいな寮」
「遠くから見て、分かってはいたけど……とんでもなく大きいね」
目の前に広がるのは、一般的な学校の校舎ほどの大きさの建物。
この大きな建物全てが学生寮だというのは驚きだ。が、そんな建物よりも、大輪学園の本校舎の方が圧倒的にデカいというのが、もう異次元過ぎて……。
「一般人の俺には到底理解できない金の使い方だ……いくらなんだこれ……」
気になりはするが、疑問よりも疲労と空腹の方が勝るので、大人しく寮内に入る。と、
「「うわ……」」
眼前に広がるはエントランスホール、かなりの人数がいるというのに、人の多さで息が詰まりそうというのはなく、とてつもなく広い玄関が俺たちを迎えてくれた。
正直、ここまで凄いと、驚き通り越して引いている。
「凄いね……ここならなんでもできそう。ねぇ……コテツ? フリスビーでも投げて遊ぶ?」
おいやめとけ、迷惑だろうが。
「って、あのソファとか見てみろよ。五十万くらいするやつじゃないか、あれ」
「なんで金額までわかるの」
俺の特殊能力の一つだ。かっこいいだろう?
「さーて部屋に行こうかな」
おい無視すんな、かっこいいだろうが。
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部屋に向かい荷物を置き、食堂の方へ向かうと、
「あら、先ほどぶりですわね」
「お前は確か……黄金院?」
「覚えてくださり嬉しいですわ。そういえばお名前を聞き忘れていましたわね」
「あ、そういえば言っていなかったか」
「ご不快じゃなければ、教えていただいても良いかでしょうか?」
先ほどまで俺たちの話題の人、黄金院雛子が学食で優雅に食事を食べていた。
周りには誰もいない。遠くから黄金院を眺め、尊敬の眼差しを向けるものばかり。
一人寂しく食事を取る。丁寧な言葉で聞いてくる黄金院に、俺はすぐに応える。
「俺は“銭原 小鉄”だ。同学年として今後ともよろしくな黄金院」
「小鉄……良いお名前ですわね。とうもろこしのような品の良さを感じますわね。覚えましたわ」
「何処が? え、どの辺がとうもろこし??」
全く、このよく分からない奴は、と話を流して別の話へ切り替えた。
「それにしても黄金院の晩飯は……それなのか?」
「えぇ! これぞ古来からの日本人の伝統的な食事ですわね」
「……見事にとうもろこしだけだな」
「まあ! よくご覧になって!?」
改めて、黄金院のトレーを眺める。
金色のワンポイント装飾がされた平皿にはコーンスープ。
茶碗に盛られたコーン八割の混ぜご飯。
謎の黄色い塊、そこに副菜のように盛りに盛られたバターコーンの山。
この一角だけ、世界が黄色に侵食されている気がした。
うん。
「見事に黄色いじゃねーか。とうもろこし過多じゃないのか? それ」
「とうもろこしは万能健康食品ですわ! 身体に良いのですわよ!」
糖分過多ではあるんじゃないか、と言いたいがここは堪えよう。食堂でうるさくするのはマナー違反だろうし。
「ちなみにこの謎の塊はなんなんだ?」
「これは黄金院家が開発したとうもろこしで作ったハンバーグですわ。まだ試作段階ですが」
「マジで!? 凄くね!?」
「混ざり物無し! 百%とうもろこしで作ったんですのよ! 黄金院家はバイオテクノロジーに力を入れてますので」
百%って、……それって、もはや、ただのとうもろこしじゃね??
「まーそう言わずお食べになって見てください。ほら、あーんですわ」
……まあ、そこまで言うなら、と黄色いとうもろこしバーグを黄金院から貰う。
「ふむふむ……」
「どうですの?」
「美味い……ハンバーグの味がする……牛肉味かな?」
「ほらご覧なさい!! これがとうもろこしの可能性ですわ!!」
「食感ヌチャヌチャ……香りはとうもろこし……そして味はハンバーグ……脳が絶賛バグってるわ」
やはりまだ研究が必要ですわね、と黄金院はメモに俺が言ったことを書いているようだ。
「てめぇは俺を毒味役にしたのか!?」
「とうもろこしの未来のためなら、多少の犠牲など惜しくありませんわ」
お前はマッドサイエンティストか!?
大好きなのかと思っていたが、どうやら本当にとうもろこし狂人なのだろう。恐ろしい奴だ。
「そんなことより、わたくしも気になることがありますわ」
「そんなことってお前……んだよ。その気になることって」
それですわ、と黄金院は俺の昼飯に手を向ける。指を刺さないところにさりげない品の良さを感じるが、そこはまあ良い。
「なにって、これはハンバーガーだぞ」
「“ガー”? なんですのそれ? ハンバーグの偽物ですの?」
「んなわけねーだろ。正統系進化だわ」
まぁ、ハンバーガーと言っても具は質素だ。
寮生活になると事前に聞いていたから、夜食用にハムやら卵やら、色々を買い込んでいた。
その具材で作ったなんちゃってハンバーガーだ。
「初めて見ましたわ。それは銭原様オリジナル料理ですの?」
「俺発祥なら、“M”がトレードマークの店でも初めてボロ儲けしてたんだがな。生まれる時代を間違えたわ」
一攫千金も夢じゃなかったな……、うん。
「あら、美味しいですわ! これが手作りなんて凄過ぎますわよ!」
「俺は器用だからな、こんなのお茶の子さいさいだ」
「ですが、学食があるのに何故手作りを?」
何故? 何故かって?
「あれを見ろ!」
「ほえ?」
黄金院の質問に対し、食堂の入り口に置かれた食事一覧――そこの値段の方を指差す。
春風香る旬野菜のパスタ(一万五千円)
シャトーブリアンのステーキ〜キャビアソース添え〜(三万九千八百円)
超高級洋風コース(十五万円)
あれを見て、どう思う?
「かなりお手頃ですわね」
「ふざけんな! あんなん一般人が買えか!! なんだ十五万って! フルタイムのパートの手取りか!!?」
金持ちからは安いかもしれないが、一回に常人が出せる金額じゃない。
そんな物を食べることできるわけない。
「だから自分で作った、というわけだ」
「自炊できる男児はモテますわよ。とうもろこし様もそうおしゃっておりますわ」
「皿の上のコーンを愛おしそうに愛でるな、お前それ食えんのか?」
「とうもろこし様とわたくしが一つになる――考えただけでも涙が出ますわね……」
やっぱり狂人か……黄金院雛子……。
あー駄目だ。コイツは頭がおかしい。
どうもコイツと話していると、自分がおかしいんじゃないかと思えてくる。
落ち着け落ち着け俺。
「あら、そういえば大輪学園は一般生徒様には月の生活費を負担すると、お聞きしたはずなのですが」
「あーそれな」
確かにそういった物は口座に入っていた。が、
「もう無いな」
「そうなのですか。なにかにお使いになられましたの? 今日はまだ入学式ですが」
それはだな、
「俺さ、爺ちゃんに借金しててな。それの返済に回したんだ」
「あらま、それはそれは……ま、まぁこれで払い終わったなら安心ですわね……」
「あ、いや、全然払い終わってないぞ」
なんせ、
「まだ八千五百万あるからなーーあはははは」
「清々しい笑顔!? お待ちくださいな! 笑えるレベルをとうに超えてますわよ!!?」
~おまけ~
黄金院雛子の新入生代表祝辞
「本日は、このような輝かしき日を迎えられましたこと、誠に光栄に存じますわ。
私たち新入生は皆、まだ小さな“とうもろこしの種”のような存在ですの。
大地に蒔かれ、これから芽吹き、光を求めて伸びていく――そんな始まりの時を迎えておりますわ。
この学び舎という広大な畑には、様々な個性という名の土壌がございます。
乾いた土もあれば、豊かな土もある――けれど、どの土にも必ず、芽吹く力が眠っておりますの。
とうもろこしは、ただ一粒では畑にはなりませんわ。
隣り合う仲間と共に並び、風を受け、光を分け合いながら、やがて一面の黄金の景色を作り上げるのですの。
時には、強い風に揺られ、雨に打たれることもございましょう。
けれどご覧なさいませ――とうもろこしは、しなやかに揺れながらも、決して折れはいたしませんの。
互いに支え合うことで、その根はより深く、大地に刻まれていくのですわ。
そしてやがて、一本一本が実を結び、粒となり――
その一粒一粒が、それぞれの物語を宿した“かけがえのない輝き”となるのでございます。
どうか皆様、この三年間を、ただ過ごすのではなく、
大切に育ててくださいまし――己という名のとうもろこしを。
ここに集いし仲間と共に、
豊かに、誇らしく、そして何よりも――美味しく実りましょう。
本日は誠に、ありがとうございましたわ」
拍手喝采、泣く者もいたという。




