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もろマネ 〜とうもろこしお嬢様は常識を知らない〜  作者: 瑞柿けろ
第一章前半 とうもろこしと銭ゲバと
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第2話 とうもろこしは飲み物ですわ




「いやーー、黄金院さんが新入生代表だったとはね」

 

 入学式が終わり、帰路に着くために校舎内を柊と歩く。

 その最中の話は黄金院 雛子の話題でもちきりだ。


「そうだな、あれは驚いた」

「スピーチも……ざ、斬新だったしね」

「あれが斬新? とうもろこしの例えばかりで、とうもろこし狂人としか思えなかったわ」

「周りは誰も驚いていなかったしね……」

「学校のみんながおかしいのかもな、見たか柊? 黄金院がスピーチしてるのを見て、感極まって泣いてるやつとかいたぞ?」


 なんなんだアイツの人気は、と思い出すだけで頭の痛くなる光景に、眉間を抑えて疲労を誤魔化す。

 変な疲れがドッと来た……。


「あ、寮はここだって、着いたみたいだよコテツ」

「ん? あー広い校舎の中でいつ着くと思ってたが、やっと着い――いやデカいな寮」

「遠くから見て、分かってはいたけど……とんでもなく大きいね」


 目の前に広がるのは、一般的な学校の校舎ほどの大きさの建物。

 この大きな建物全てが学生寮だというのは驚きだ。が、そんな建物よりも、大輪学園の本校舎の方が圧倒的にデカいというのが、もう異次元過ぎて……。


「一般人の俺には到底理解できない金の使い方だ……いくらなんだこれ……」


 気になりはするが、疑問よりも疲労と空腹の方が勝るので、大人しく寮内に入る。と、


「「うわ……」」


 眼前に広がるはエントランスホール、かなりの人数がいるというのに、人の多さで息が詰まりそうというのはなく、とてつもなく広い玄関が俺たちを迎えてくれた。

 正直、ここまで凄いと、驚き通り越して引いている。


「凄いね……ここならなんでもできそう。ねぇ……コテツ? フリスビーでも投げて遊ぶ?」


 おいやめとけ、迷惑だろうが。


「って、あのソファとか見てみろよ。五十万くらいするやつじゃないか、あれ」

「なんで金額までわかるの」


 俺の特殊能力の一つだ。かっこいいだろう?


「さーて部屋に行こうかな」


 おい無視すんな、かっこいいだろうが。

 


 部屋に向かい荷物を置き、食堂の方へ向かうと、


「あら、先ほどぶりですわね」

「お前は確か……黄金院?」

「覚えてくださり嬉しいですわ。そういえばお名前を聞き忘れていましたわね」

「あ、そういえば言っていなかったか」

「ご不快じゃなければ、教えていただいても良いかでしょうか?」


 先ほどまで俺たちの話題の人、黄金院雛子が学食で優雅に食事を食べていた。

 周りには誰もいない。遠くから黄金院を眺め、尊敬の眼差しを向けるものばかり。


 一人寂しく食事を取る。丁寧な言葉で聞いてくる黄金院に、俺はすぐに応える。


「俺は“銭原 小鉄”だ。同学年として今後ともよろしくな黄金院」

「小鉄……良いお名前ですわね。とうもろこしのような品の良さを感じますわね。覚えましたわ」

「何処が? え、どの辺がとうもろこし??」


 全く、このよく分からない奴は、と話を流して別の話へ切り替えた。


「それにしても黄金院の晩飯は……それなのか?」

「えぇ! これぞ古来からの日本人の伝統的な食事ですわね」

「……見事にとうもろこしだけだな」

「まあ! よくご覧になって!?」


 改めて、黄金院のトレーを眺める。


 金色のワンポイント装飾がされた平皿にはコーンスープ。

 茶碗に盛られたコーン八割の混ぜご飯。

 謎の黄色い塊、そこに副菜のように盛りに盛られたバターコーンの山。


 この一角だけ、世界が黄色に侵食されている気がした。


 うん。


「見事に黄色いじゃねーか。とうもろこし過多じゃないのか? それ」

「とうもろこしは万能健康食品ですわ! 身体に良いのですわよ!」


 糖分過多ではあるんじゃないか、と言いたいがここは堪えよう。食堂でうるさくするのはマナー違反だろうし。


「ちなみにこの謎の塊はなんなんだ?」

「これは黄金院家が開発したとうもろこしで作ったハンバーグですわ。まだ試作段階ですが」

「マジで!? 凄くね!?」

「混ざり物無し! 百%とうもろこしで作ったんですのよ! 黄金院家はバイオテクノロジーに力を入れてますので」


 百%って、……それって、もはや、ただのとうもろこしじゃね??


「まーそう言わずお食べになって見てください。ほら、あーんですわ」


 ……まあ、そこまで言うなら、と黄色いとうもろこしバーグを黄金院から貰う。

 

「ふむふむ……」

「どうですの?」

「美味い……ハンバーグの味がする……牛肉味かな?」

「ほらご覧なさい!! これがとうもろこしの可能性ですわ!!」

「食感ヌチャヌチャ……香りはとうもろこし……そして味はハンバーグ……脳が絶賛バグってるわ」


 やはりまだ研究が必要ですわね、と黄金院はメモに俺が言ったことを書いているようだ。

 

「てめぇは俺を毒味役にしたのか!?」

「とうもろこしの未来のためなら、多少の犠牲など惜しくありませんわ」


 お前はマッドサイエンティストか!?

 大好きなのかと思っていたが、どうやら本当にとうもろこし狂人なのだろう。恐ろしい奴だ。


「そんなことより、わたくしも気になることがありますわ」

「そんなことってお前……んだよ。その気になることって」


 それですわ、と黄金院は俺の昼飯に手を向ける。指を刺さないところにさりげない品の良さを感じるが、そこはまあ良い。


「なにって、これはハンバーガーだぞ」

「“ガー”? なんですのそれ? ハンバーグの偽物ですの?」

「んなわけねーだろ。正統系進化だわ」


 まぁ、ハンバーガーと言っても具は質素だ。

 寮生活になると事前に聞いていたから、夜食用にハムやら卵やら、色々を買い込んでいた。

 その具材で作ったなんちゃってハンバーガーだ。


「初めて見ましたわ。それは銭原様オリジナル料理ですの?」

「俺発祥なら、“M”がトレードマークの店でも初めてボロ儲けしてたんだがな。生まれる時代を間違えたわ」


 一攫千金も夢じゃなかったな……、うん。


「あら、美味しいですわ! これが手作りなんて凄過ぎますわよ!」

「俺は器用だからな、こんなのお茶の子さいさいだ」

「ですが、学食があるのに何故手作りを?」


 何故? 何故かって?


「あれを見ろ!」

「ほえ?」


 黄金院の質問に対し、食堂の入り口に置かれた食事一覧――そこの値段の方を指差す。


 春風香る旬野菜のパスタ(一万五千円)

 シャトーブリアンのステーキ〜キャビアソース添え〜(三万九千八百円)

 超高級洋風コース(十五万円)


 あれを見て、どう思う?


「かなりお手頃ですわね」

「ふざけんな! あんなん一般人が買えか!! なんだ十五万って! フルタイムのパートの手取りか!!?」


 金持ちからは安いかもしれないが、一回に常人が出せる金額じゃない。

 そんな物を食べることできるわけない。


「だから自分で作った、というわけだ」

「自炊できる男児はモテますわよ。とうもろこし様もそうおしゃっておりますわ」

「皿の上のコーンを愛おしそうに愛でるな、お前それ食えんのか?」

「とうもろこし様とわたくしが一つになる――考えただけでも涙が出ますわね……」


 やっぱり狂人か……黄金院雛子……。


 あー駄目だ。コイツは頭がおかしい。

 どうもコイツと話していると、自分がおかしいんじゃないかと思えてくる。

 落ち着け落ち着け俺。


「あら、そういえば大輪学園は一般生徒様には月の生活費を負担すると、お聞きしたはずなのですが」

「あーそれな」


 確かにそういった物は口座に入っていた。が、


「もう無いな」

「そうなのですか。なにかにお使いになられましたの? 今日はまだ入学式ですが」


 それはだな、


「俺さ、爺ちゃんに借金しててな。それの返済に回したんだ」

「あらま、それはそれは……ま、まぁこれで払い終わったなら安心ですわね……」

「あ、いや、全然払い終わってないぞ」


 なんせ、


「まだ八千五百万あるからなーーあはははは」

「清々しい笑顔!? お待ちくださいな! 笑えるレベルをとうに超えてますわよ!!?」






        ~おまけ~


 黄金院雛子の新入生代表祝辞


「本日は、このような輝かしき日を迎えられましたこと、誠に光栄に存じますわ。


 私たち新入生は皆、まだ小さな“とうもろこしの種”のような存在ですの。

 大地に蒔かれ、これから芽吹き、光を求めて伸びていく――そんな始まりの時を迎えておりますわ。


 この学び舎という広大な畑には、様々な個性という名の土壌がございます。

 乾いた土もあれば、豊かな土もある――けれど、どの土にも必ず、芽吹く力が眠っておりますの。


 とうもろこしは、ただ一粒では畑にはなりませんわ。

 隣り合う仲間と共に並び、風を受け、光を分け合いながら、やがて一面の黄金の景色を作り上げるのですの。


 時には、強い風に揺られ、雨に打たれることもございましょう。

 けれどご覧なさいませ――とうもろこしは、しなやかに揺れながらも、決して折れはいたしませんの。

 互いに支え合うことで、その根はより深く、大地に刻まれていくのですわ。


 そしてやがて、一本一本が実を結び、粒となり――

 その一粒一粒が、それぞれの物語を宿した“かけがえのない輝き”となるのでございます。


 どうか皆様、この三年間を、ただ過ごすのではなく、

 大切に育ててくださいまし――己という名のとうもろこしを。


 ここに集いし仲間と共に、

 豊かに、誇らしく、そして何よりも――美味しく実りましょう。


 本日は誠に、ありがとうございましたわ」




 拍手喝采、泣く者もいたという。

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