第1話 入学式でとうもろこしを食べるな
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十六話くらいまではあるので、それまでは毎日複数更新していきます。
「いや、広いなおい」
豪華な装飾が施された校門を通り、足を一歩踏み入れた先には、数々の綺麗な桜が植えられた校舎へと広く長い道が伸びる。
「この通りだけで、いくらかかってんだ……すげーなこれ」
校門をくぐった瞬間、思わずそんな言葉が漏れた。
同じブレザーの連中に紛れて、俺も歩き出す。
さて行くか、そう決意を固め一歩を踏み出した瞬間、
「おーす”コテツ”! おはよっ!」
「うわっ!?」
背中に女子特有の高い声と共に、突然強い衝撃が走り、バランスを崩しそうになるが、なんとか転ぶ前に踏み留まり体制を立て直した。
危なかった。入学前の校門で転びそうになるなんて新入生始まりの日に縁起が悪い。
文句を言ってやりたい。
相手は分かりきっている。俺をそんな呼び方で、しかもこんな男みたいな挨拶の仕方は一人しかいない。
だが、ここは敢えて他人のフリをするとしよう。
「どちらさまでしたっけ」
「うっわ酷! 同じ中学生出身の私を忘れるとか最低じゃないコテツ!? この美少女で友達の”柊夏希”を忘れるとかさ!」
「入学式前に校門で、すっ転びそうになったんだが? 冗談じゃねぇ」
「友達のコミュニケーションってやつだよ!」
「そんなコミュニケーションいらねぇよ!」
ったく、と呆れてため息を溢す。
コイツの言う通り、柊とは中学の頃からの知り合いだ。
いや、厳密には、友達と言うより腐れ縁というやつだが、
ふむ。
静かに見つめる俺の姿に、柊は気づき声をかけてくる。
「どしたの? 私の顔になにか付いてる?」
「あ、いや……」
「ん?」
改めて柊を分析してみる。
茶髪のセミロングの髪だが、毛先だけ薄ら白く、まるで犬のような愛嬌。
目は大きくて、平均より少し背の高い俺を見上げる姿が、小動物を連想させる。
なるほど、
「“美少女”ってやつを探していたんだが、見当たらねぇな、と」
「カッチーーン! 目の前にいるよ!」
「ははっ! 面白いジョークだな、新入生ジョークか」
「ムカーーーー! “銭原 小鉄”! 怒ったからね! しばらく口聞かないんだからっ!」
ふん! と誰が見ても分かるくらいに、柊が苛立ち去って行く。
『お前なにしてんだよ』
気配で分かる。同じ新入生たちからの軽蔑の眼差し。
側から見れば、痴話喧嘩のように見えるかもしれないが、これが俺と柊の距離感なのだ。
この後の流れは決まっている。
「柊ーー戻ってこーーい」
「はーーい!」
『えぇ!!?』
突然の柊の変わりようにみんな驚いているが、仕方ないだろう。これが中学からの腐れ縁というやつなのだ。
「ねーねーコテツ! 私の頭ナデナデしてよーー!」
「ん? いくらだ? 高くつくぞ」
「私がお金取られんの!?」
うるさいな、俺は金が入り用なんだよ。
そんな柊とのやり取りをしながら、俺たちは入学式を行うため、案内の通りに向かった。
◆
“大輪学園”五限則
・一つ、大輪学園の学生たる者、人を扱う技術を磨け。
・二つ、大輪学園の学生たる者、“選ばれし者”としての自覚を常に持て。
・三つ、大輪学園の学生たる者、日夜勉学に励め。
・四つ、大輪学園の学生たる者、世界に役立つ存在へ。
そして、
・五つ、支え合える者を見つけよ。
◆
「長ったらしい話だな」
「こら! コテツ! 理事長のありがたい話になんて!」
「いや、ためにはなるぞ? 勉強にもなる」
なにせ、この大輪学園が作った大成功者の言葉なのだ。人生の先輩のお言葉はためになる。
現在、新入生たちは大きなホール集められ、ステージ上に立つ、理事長の話を聞いていた。
「でも凄いよね。私たち一般入学者よりも、この学校は“全国のお金持ち”を入学させることを目的とした学園なんだから」
「さぞ大金が入ってきているんだろうなぁ」
「生徒の自由性を尊重して、“一般生徒”とお金持ちの“特権生徒”たちがお互いを知って、双方が高め合えるように、って凄い校風だよね」
あ、いや、まあその通りなんだけどね?
「いやに詳しいな、情報屋の柊がもうネタを仕入れたのか?」
「全部この“大輪学園パンフレット”に書いてあるよ」
「パンフレットかよ! やけに詳しいと思ったわ!」
「全百二十ページ」
「分厚っ!!?」
ちょっとした本と変わらない分厚さだぞ、それ。
だが、昔から色々なことに詳しい柊だからこそ、入学式にまでパンフレットを持ってきているのだろう。変なところで勤勉なコイツの才能か。
「ここでも新聞部とか入るのか? また人の弱みを握るんだろ?」
「言い方は酷くない? 全く……でもそうだね、また新聞部! 報道魂が疼くからね!」
笑顔で笑う柊の、犬のような無邪気さに忘れそうになるが、中学生の頃コイツは“情報屋の柊”と呼ばれていた。
良くも悪くも、柊の無邪気さにはある意味気をつけなければいけない。
自分自身に言い聞かせていると、横にいた生徒から声が掛かる。
「ちょっと、今は理事長がありがたいお話をしておりますのよ。もう少しお静かにしていただけますと助かりますわ」
声からして真面目そうな凛とした女子生徒から注意を受ける。
確かに、うるさくし過ぎたかもしれない。しっかりと非を認め、謝る為に横を向く。
「すまなかった。つい知り合いと話が盛り上がってしまって――」
「ごめんなさい! うるさくしちゃって――」
詫びの言葉を述べている最中、俺と柊の言葉が止まる。そして、
「「え?」」
同時に疑問のあまり、口から声が漏れる。
それを見て、金髪のロングヘアを縦ロールにし、ルビー色の綺麗な目をした。ザ・お嬢様な女子生徒が俺たちに聞き返す。
「どうかいたしましたか? そんな素っ頓狂な顔をして、まるで鳩がとうもろこし鉄砲でも喰らったかのようですわよ?」
「あ、いや……あんたはなんで――」
「“あんた”ではありませんわ。わたくしの名前は“黄金院 雛子”ですわ。以後お見知りおきを」
「こ、これはご丁寧にどうも、俺は“銭原 小鉄”――じゃなくて!」
律儀に返ってきた挨拶を受け、つい馬鹿正直に応えてしまったが、違うそうじゃない。
それよりも大事なことがある。
「なあ、黄金院さん? 一つ聞いて良いか?」
なんで“とうもろこし”を食べているんだ?
そう、目の前の縦ロールお嬢様は、何故か新入生入学式で、理事長の話を聞きながら、とうもろこしを食べていた。しかも缶詰の。
いや、改めて考えてみても、字面にしてみても意味の分からない状況であることには変わらない。
「こちらは黄金院印のスイートコーンですわよ。ドリンクタイムをしたいと思いましたので、ほら、水分補給は必要不可欠ですわよね?」
「お、おう……そ、そうか――え? 水分補給? スイートコーンが?」
なに言ってんだコイツ。
「このスプーンも特注でわたくしが作ったんですのよ? 綺麗なとうもろこし模様でしょう」
「へー……凄いな――って、え、黄金院が作ったのか!? 凄くね!?」
てか、なんで誰もコイツのこと気にしてないんだよ!? これが金持ちの余裕なのか!?
これが、コイツ”黄金院 雛子”との初めての出会いであった。
~おまけ~
「集中力が高まりますのよ。黄金院家では常識ですわ」
「お前の常識は世界では非常識だよ」
「世界がとうもろこしに追いついていないのですわね……」
「お前はなにを言っているんだ?」




