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『文字』が絶滅した世界で、地下の清掃員だけが古代の数式を読める件 〜エリート歌姫の暴走魔法を口笛一吹きで上書きしたら、なぜか聖女候補に執着されるようになりました〜  作者: GenerativeWorks
第2楽章:数理音楽の修行と陰謀

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第14話:【異端の講義、戦慄のフーリエ】

1. 隔離された教室


案内されたのは、学院の最上階にある特別演習室だった。

最新の音響解析装置が並ぶその部屋で、セシル教授は黒板ならぬホログラム・パネルを起動させる。


「さて。掃除の手を止めて、少し知的な話をしましょうか」


彼女がパネルを操作すると、先ほどカイがエドワードを無力化した際の「音声ログ」が波形として表示された。


「あなたが放った『NULL』の一言。デバイスを通していないのに、エドワードの『オーパス・ナイン』のクロック信号を完全に停止させている。……これ、魔法じゃないわね。もっと直接的な……そう、『システムの割り込み命令インタラプト』だわ」


「……何のことだかさっぱりだ」


カイはとぼけるが、セシルの目は誤魔化せない。


「シラを切っても無駄よ。この波形を見て。通常、歌唱魔法は複雑な倍音オーバートーンを重ねることで事象を引き起こすけれど、あなたの音は違う。……すべての周波数が、数学的に完璧な『素数』で構成されている」






2. 数式の「解体」


セシルは、リアがかつて歌っていた聖歌の譜面をホログラムに投影した。


「現在の魔法学では、この複雑な旋律を『美しく歌う』ことこそが正解とされているわ。でも、あなたは知っているんでしょう? 旋律はただの外装パッケージに過ぎないことを」


彼女の言葉に、カイは小さくため息をつき、モップを壁に立てかけた。


「……お門違いだ。あんたらエリートは、完成した『曲』を再生することしか考えてない。……だから、その曲がどんな『周波数の集合体』で構成されているか、その内訳ソースコードを見ようとしないんだ」


カイはセシルの横に立ち、ホログラム・パネルを無造作にスワイプした。

彼が指を動かすたび、美しい譜面がバラバラに分解され、無数の数値とグラフへと姿を変える。


「『フーリエ変換』——。どんなに複雑な音も、結局は単純なサイン波の組み合わせだ。文字を知っていれば、その一本一本の波形を直接弄れる。……あんたらが必死に詠唱している間、俺はその『土台』を一本引き抜くだけで済むんだよ」






3. 恐怖する知性


部屋を包む沈黙。

セシルは震える手で、分解された数式を見つめていた。


「……バカな。そんな精密な演算、人間の脳でリアルタイムにできるはずがない……! 文字を……古代の数式を、脳内で直接コンパイルしているというの……?」


リアもまた、息を呑んでその光景を見つめていた。

カイがいつも隣で囁いていたアドバイスが、これほどまでに残酷で、かつ美しい「科学」に基づいていたことを突きつけられたからだ。


「(カイは、世界を……こんなにも剥き出しの数字として見ているの……?)」


「セシル教授。あんたがカデンツァの内部回廊について教えてくれるってんなら、俺も少しは『掃除』を手伝ってやるよ。……この学院の教え方は、あまりにも非効率だ」





4. 契約の不協和音


セシルは恐怖を通り越し、恍惚とした表情を浮かべた。


「……いいわ。学長に掛け合って、あなたを私の『特別助手』として登録しましょう。清掃員よりはその方がアーカイブにアクセスしやすいはずよ」


「話が早くて助かる」


「ただし、条件があるわ。……その『文字』の記述方法、私にも一部開示すること。いいわね?」


カイは返答せず、ただ薄く笑った。

文字を教える。

それは、世界を維持するためのOSを他人に明け渡すことと同義だ。


その頃、学院の寮の一室。

カイに恥をかかされたエドワードは、通信機を握りしめていた。


「……ああ、そうだ。例の『ディソナンス』に繋いでくれ。……学院に、得体の知れないバグ(ウイルス)が紛れ込んでいる」


カイの圧倒的な「理」が、旧来の権威を揺るがし、より深い闇を呼び寄せようとしていた。

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