表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『文字』が絶滅した世界で、地下の清掃員だけが古代の数式を読める件 〜エリート歌姫の暴走魔法を口笛一吹きで上書きしたら、なぜか聖女候補に執着されるようになりました〜  作者: GenerativeWorks
第2楽章:数理音楽の修行と陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/35

第13話:【傲慢な旋律、静かなる共鳴】

1. エリートの特権


「『ノイズ』が酷いだと? 下層民の分際で、音楽を語るか」


エドワードの喉元のデバイス『オーパス・ナイン』が、不気味な青白い光を放つ。

彼が軽く喉を鳴らすだけで、周囲の空気が重く、威圧的な和音に支配された。

それは、聴く者の精神を強制的に平伏させる、学院秘伝の『服従のポリフォニー』だ。


「おい、やりすぎだぞエドワード。相手はただの掃除夫だ」


取り巻きの一人が苦笑するが、エドワードは止まらない。


「掃除夫なら掃除夫らしく、地を這わせてやればいい。……跪け(ニーダウン)!」


エドワードが放った指向性音波が、カイの膝を砕かんと襲いかかる。

だが、カイは一歩も動かなかった。




2. 生声の「上書き」


「……あくびが出るな。その音、第3倍音がフラットしてるぞ」


カイはモップを肩に担いだまま、小さく「フッ」と息を吐いた。

それは歌ですらない、ただの吐息。

しかし、その瞬間。

エドワードが展開していた威圧的な和音が、まるで見えない壁にぶつかったかのように霧散した。


「なっ……!? 私の詠唱を打ち消しただと?」


「打ち消してない。お前の出した汚い数式の『変数』を、俺の声で埋めてやっただけだ」


カイは懐から一本の音叉を取り出し、それを軽く叩いた。

キィィィィン……という、どこまでも純粋で鋭い音。

カイはその音に合わせ、喉のデバイスを通さない「生の声」で、一つの文字を呟いた。


『N-U-L-L』


ヌル


それはあらゆる数式をゼロに帰す、プログラミングにおけるリセット命令。

カイの生身の喉が震え、音叉の音を媒介にして、エドワードの『オーパス・ナイン』に干渉する。


「が、はっ……!? 音が……音が出ない!」


エドワードがいくら喉を震わせても、最新デバイスからは不快な電子ノイズしか溢れない。

カイの放った文字(数式)が、デバイスの演算ロジックを一時的にフリーズさせたのだ。




3. 沈黙の衝撃


廊下を通りかかっていた学生たちが、足を止めてこの光景を凝視していた。

学院最高のデバイスを持つエリートが、名もなき清掃員の「一言」に封じ込められた。

それは、彼らの常識ではありえない「魔法のバグ」だった。


「(……凄い。デバイスに頼らず、音そのものの構造を書き換えてる……!)」


背後で見守るリアは、胸の高鳴りを抑えきれなかった。

これがカイの真髄。

世界を形作る「数式」を直接弄ぶ者の力だ。


「……最新のデバイスが泣いてるぞ。中のプログラムがゴミ(ジャンク)だらけだ。もう少し『文字』の勉強をした方がいいんじゃないか?」


カイは冷たく言い放つと、呆然と立ち尽くすエドワードを無視して、再びモップを動かし始めた。





4. 招かれざる「注目」


「……面白いものを見たわ」


野次馬の中から、一人の女性が歩み寄ってきた。

漆黒のローブを纏い、知的な眼鏡をかけたその女性――学院の異端児と呼ばれる魔法学教授、セシルだ。

彼女は、カイがモップを動かす手元を、獲物を見つけた猛獣のような目で見つめていた。


「今の……デバイスを通さない生体干渉。理論上はありえないはずだけど、あなたの喉、少し詳しく見せてもらえないかしら?」


「……勘弁してくれ。俺はただの掃除屋だ」


カイは視線を逸らしたが、内心では舌打ちしていた。

目立つなと言った矢先に、最も厄介な「知識欲の塊」に捕まってしまった。


「カデンツァの内部回廊バックボーンを知りたければ、私の講義に来なさい。……その『文字』の正体、そこでならじっくり話し合えそうだしね」


セシルは不敵な笑みを浮かべ、リアの方をちらりと見た。


「……そちらの『声の出ない』お嬢さんも一緒にね」


潜入ミッションは、予想外の方向へと加速し始める。

聖詠学院という名の知の殿堂で、カイたちの「魔法理論の深掘り」が始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ