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虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました  作者: ・めぐめぐ・@『このたた』コミカライズ連載中


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第47話 祖国にて8(別視点)

 倒れているリリックの体を抱き起こし、オズベルトは必死の形相で呼びかけた。


「リリックっ、リリックっ!! 目を覚ましてくれっ!!」

「おずべると、さま……?」


 何度か体を揺さぶると、リリックが薄らと目を開いた。それを見て、オズベルトは安堵の息を吐く。


「良かった……リリック……体は大丈夫か? 一体何があった?」


 矢継ぎ早に問われたリリックは、辛そうに肩で息をしながら、視線を水晶へと向けた。


「し、シィ様に力を捧げていると突然体から力が抜けて、き、気を失ってしまったのです……」


 そう告げるリリックの声色には、恐れが滲んでいた。

 彼女の瞳がフォルシルを捉えると、まるですがりつこうとするように、身を僅かに乗り出した。


「フォルシル様! シィ様に力を捧げても、体には何の影響もないと仰ったではないですか! ど、どうしてこんなことに……!」

「落ち着いてください、リリック様!」

「お、落ち着いていられるものですか! 私だけでなく、他の皆も同じように倒れてしまっている――」


 そう言った瞬間、リリックはヒィッと声をあげて硬直した。


 どうしたのかと思い、リリックが見ている方にオズベルトも視線を向ける。

 そこにあったのは、リリックの手だった。


 艶やかだったはずの肌が、まるで一気に二十才は歳をとったかと思えるほど、細かい皺が刻まれていたのだ。

 見るからに潤いがなく、かさついているのが見て取れる。


「な、なに、これ……どういう……こ、と……? わ、私の肌が……こんな……こんなっ!!」


 喉の奥から絞り出すような弱々しさだったリリックの呟きが、悲鳴のような叫びへと変わる。

 焦点の定まらないリリックの瞳が、オズベルトに向けられる。


「ま、まさか……お姉様が、聖女を解任されたのは……わたしと、同じことが起こった……から、ですか?」

「ちっ――」


 違うとオズベルトが否定しようとした瞬間、供儀の間に突如、甲高い笑い声が響き渡った。


「あははっ! 出来損ないのあんたと一緒にしないで頂戴、リリック」


 笑い声と共に、守護獣シィの像の影から現れたのは、老婆となり、十日前に行方不明になったキアラの姿だった。 


 だが一点、行方不明になったときと状況が違っていた。


 現れたキアラは美しかった。

 この神殿にやってきて、オズベルトが見初めたときと同じ、美しい容姿をしていたのだ。


 まるで、十日前までの老化が、嘘だったかのように……


「き、キアラ!? 今までどこに…………そ、それに姿だって……」


 オズベルトが声を震わせながら問うと、キアラは上品に微笑みながら、オズベルトに向かって深く頭を下げた。


「大変お見苦しいところをお見せし、申し訳ございませんでした、オズベルト殿下。ですがご安心ください。私の姿は、ほら、この通りですわ」


 そう言ってキアラは、両手を開いてその場でくるっと一周をした。黒いドレスがふわっと舞い、まるで大輪の花を咲かせたように開く。

 だがそんな黒いドレスを身につけているキアラを、オズベルトは見たことがなかった。


 キアラはゆったりとした足取りで、オズベルトに近づいてきた。二人の距離が近づくに連れて、キアラの微笑みが満面の笑みへと変わる。


「オズベルト様。これでもう私と婚約破棄をする必要はありませんわね? 私を王太子妃として迎えてくださいますわね?」


 キアラの口調は、優しく問いかけているように聞こえて、どこか有無を言わさぬ強さがあった。


 だが真っ先に反応したのは、リリックだった。怒りが疲労感を越えたのか、身を乗り出し、キアラに反論する。


「な、何を仰っているの、お姉様! あなたは聖女を解任されたのよ!? オズベルト様の伴侶に相応しくないわ!」

「き、キアラ、すまないが……もうすでにリリックと婚約をしている。そう簡単に覆すことはできない」


 リリックの言葉に、オズベルトも口を開いたが、


「簡単に覆すことはできない?」


 オズベルトの言葉を反芻したキアラが、足を止めた。

 キアラから発されたとは思えないほど、低い声だった。


 それを聞いたオズベルトの肌という肌が粟立った。ピリピリとした緊張感が、空気を満たすのを感じる。


 微笑みを張り付かせたまま、キアラが口を開く。


「供儀のせいで私が老婆になったという理由で、《《簡単に》》婚約破棄なさったではありませんか?」

「えっ?」


 キアラの発言に対し真っ先に反応したのは、リリックだった。彼女は、自分の体を支えているオズベルトに視線を向けた。


 だがオズベルトは、リリックの視線から逃れるように、そっと顔を背けてしまった。


 リリックの唇が震えたかと思うと、つい先ほどまで気を失っていたとは思えないほどの力でオズベルトの両腕を掴んだ。

 瞳を血走らせ、鬼気迫る表情で彼を問い詰める。


「……ど、どういう、こと、ですか? 供儀は危険なのですか!?」

「ち、違うっ!! そうじゃないんだ、リリック!! もう大丈夫なハズなんだっ!!」

「もう大丈夫って……や、やはり、お姉様の仰ったことは真実なのですね!?」


 否定した言葉から真実を見抜かれたオズベルトは苛立ち、奥歯を噛みしめた。リリックに握られた腕に痛みを感じながら、憎々しげに振り返ると、後ろで他の聖女たちの介抱をしていたフォルシルに怒鳴りつけた。


「フォルシル、話が違うぞ! キアラたちのようなことはもう起こらないはずだったんじゃないのか!?」


 だがフォルシルは表情を強ばらせながら、首を激しく横に振った。


「そうだと思ったのですが……も、もしかすると、聖女の数を増やすべきタイミングが来たのかもしれません」


 フォルシルの言葉を聞き、オズベルトの脳裏に王家の記録が過った。


 歴代の聖女たちは、個人の負担を減らすため、数を増やしてきた。

 ならば、聖女の数を四人から五人に増やせば解決する。


 簡単なことだ。


 しかし、とオズベルトの中で疑問が浮かぶ。


(数を増やさなければならないということは、シィに捧げる力が増えているということ。どうしてだ?)


 長らく結界に変化はない。

 広がりもせず、縮小もせず、力が強まることも弱まることもなく、ずっと同じ状態を保ち続けている。


 それなのに、聖女一人にかかる負担は増えている。


 ここまで考えて初めて、とある疑問が浮かんだ。

 あまりにも当たり前過ぎて、考えることすらなかった疑問が――


(聖女たちは……一体何をシィに捧げているんだ……?)


 与え過ぎれば聖女たちが老化してしまう、何か……


 沈んだ思考は、リリックの金切り声でかき消されてしまった。

 オズベルトの腕の中でリリックは取り乱し、頭を抱えながら激しく揺らした。


「い、いやっ……嫌ですっ!! 聖女がこんな危険な役目だったなんて……」

「大丈夫だ、リリック! 聖女をもう一人増やせば問題は解決する! だから……」


 オズベルトがリリックを落ち着かせようと声をかけたが、冷ややかなキアラの声によってかき消された。


「全く……母親が違うとはいえ、情けない妹だわ」


 口元に笑みを浮かべながら、キアラがオズベルトたちの方へ近づいてきた。


 足音はしない。

 妙にそのことに引っかかりつつも、オズベルトは精一杯声を張り上げた。


「そ、そういえばキアラ、質問に答えて貰っていないぞ! 今まで一体どこにいたんだっ!」


 オズベルトの詰問に、キアラは艶やかに微笑みながらゆっくりと歩みを進める。


「……シィ様の御許に」

「し、シィ……? ど、どういう……」

「言葉の通りです。私は、守護獣シィ様に選ばれたのですよ」


 そう話すキアラの口調に、全くの迷いはない。本当のことを言っているように見えた。


 キアラの足が止まる。

 皺だらけだったのが嘘のような艶やかな手が、オズベルトに差し出された。


「オズベルト様、これでお分かりでしょう? リリックと私、どちらが聖女に……そしてあなたの妃に相応しいかが」


 かつての婚約者の手を一瞥したオズベルトは、胸騒ぎを感じつつも、首を横に振った。


 老婆となって行方をくらましたかと思えば、突然美しい姿に戻ってきた元婚約者に対し、得体の知れない不気味さを感じていたからだ。


 さらに自分はシィに選ばれたなどと言い出す始末。

 その手を取れるわけがなかった。


「わ、私の婚約者はリリックだ……」


 何とか喉の奥から言葉を絞り出した。


 キアラの表情は変わらなかった。

 怒り狂うかと思われたキアラの反応に、オズベルトは拍子抜けしたと同時に、理解して貰えたのだと安堵する。


 しかし、オズベルトの腕の中で震えているリリックを見つめながらキアラが呟いた言葉を聞き、戦慄した。


「ならば、リリックが老婆になればよいのですね? そうすれば、簡単に婚約破棄ができますわね?」


 次の瞬間、キアラの黒いドレスの端から触手が伸びたかと思うと、オズベルトの腕の中にいたリリックに絡みつき、もの凄い力で彼から引き剥がした。


 黒い触手に捕らえられたリリックの体が宙を浮く。


「い、いやぁぁっ! なに、これっ、なに――」


 リリックが叫び声をあげた口に触手が入り込み、彼女の言葉を奪った。


 黒い触手がさらに増え、リリックの体を包み込み――やがてボトリと鈍い音を立て、何かが落ちてきた。


 それは、老婆の姿になったリリック――


「うふふっ、これでまた私と婚約できますわね、殿下」


 リリックの変わり果てた姿を見下ろし、先ほどよりも明らかに艶を増した髪の毛を手で払いのけながら、キアラが高らかに笑う。 


 オズベルトは完全に腰を抜かし、動けなかった。

 そんな彼をキアラは愛おしそうに瞳を細めると、手を伸ばし、その頬を撫でた。


 そうしている間にも、キアラのドレスから這え出た触手が伸び、他の聖女たちに巻き付いていく。


「心配しないでくださいませ、殿下。私はずっと美しくありますから」


 黒い触手が、リリックと同じように老婆となった聖女たちを残し、供儀の間を出て行った。


 気づけば部屋中が、黒い触手で覆われていた。

 天井も壁も床も、ぬらぬらと触手が生えて不気味に揺れている。


 フォルシルの姿はどこにもなかったが、それに怒りを感じる余裕はオズベルトにはなかった。


 オズベルトの頬を撫でるキアラの手が、いつの間にか黒い触手に変わっていたからだ。


「ふふっ……私がクロラヴィアの王妃になることが、この国のためになるのです。だから私は、何を犠牲にしてでも、ずっと美しくあり続けなければならないのです。あなたに選ばれるため、あなたに美しい私をみていただくため。あなたの婚約者であり続けるため」


 オズベルトの体が触手に巻き付かれて見えなくなっても、キアラは言葉を止めなかった。


 黒い塊と化した元婚約者を抱きしめると、血走った双眸を見開き、体をのけぞらせて笑った。


「……あはっ、あははっ、す、全ては、この国のタメにっ……すべ、ては、コノクニのタメにっ!! あはっ、あははは、きゃははははははははっ!!」


 キアラは足下から触手を伸ばすと、ゆっくりと床を這うように動き出した。

 その瞳には理性はなく、薄く開いた唇は同じ言葉を呟いていた。


「ウルシラ……約束……守ル、ヤクソク……マモ、ルよ……マモルマモルマモルマモル……」


 開かれた扉の向こうから、無数の女性の甲高い悲鳴が聞こえた。


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