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虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました  作者: ・めぐめぐ・@『このたた』コミカライズ連載中


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第48話 虚弱聖女と占いの結果

『目を開き、初めて見た人物はお主の未来に深く関わってくるじゃろう』


 こちらに向かってくるレイ様の姿を見つめながら、私はシスティーナ様の言葉を思い出していた。


 レイ様の姿がどんどんと近づいてきて、やがて私の前で立ち止まった。

 走ってこちらにやってこられたはずなのに、息一つ乱していない。

 変わりに、いつもは周囲の人々を照らす太陽のような明るさを発してる彼の表情が険しく、心配するように私を見下ろしている。


 ぼんやりとレイ様を見上げていると、彼の眉間の皺がさらに深くなり、地面に膝をついた。


 互いの瞳が、同じ高さでぶつかり合う。


「こんなところで一人でしゃがみ込んで、一体どうしたんだ!? どこか体調が悪いのか!? す、すぐに医者を……」

「ち、違います! 大丈夫ですから!! 本当の本当に大丈夫です!!」


 私は慌てて首を横に振った。


 レイ様は今でも、私の体調を気遣ってくださる。

 すぐにお医者様を呼ぼうとされ、ルヴィスさんに突っ込まれるまでがセットだけれど。


 だけどここには、レイ様を止めてくださるルヴィスさんはいない。

 なので私自身がしっかりと否定しなければいけないのだ。


 レイ様は疑わしそうに目を細めると、私の両肩を掴み、私の頭のてっぺんからつま先まで視線を走らせた。


 そして最後に、私の顔をジッとみつめ、顔を近づけてきた。


「本当か? 無理をしていないか?」

「あ、ありがとうございます! あのっ……す、すみません……レイ様にご迷惑を……」

「俺のことはいい。それより、一体どうしたんだ? こんな場所に一人でしゃがみ込んで」


 そう言いながら、レイ様は私の手をとると、そっと立ち上がらせてくれた。


 あまりにも自然に手を握られ、彼に親切心しかないことがその動きから伝わってくる――のに、レイ様が私に触れる度に、鼓動が跳ねて、顔が熱を持つ。


 レイ様は、距離感が非常に近い方。

 彼への恋心を自覚してしまった今、無自覚に距離を詰められると、私の心臓が持たない。


 レイ様を意識すればするほど、自分が自分でいられなくなる。


 しっかりしなければ。

 誰を想ってもいいとシスティーナ様は仰った。だけど……その想いを伝えて良いかは別問題なのだから。


 システィーナ様のことを思い出した瞬間、私はハッと目を見開いた。周囲を見回すが、この場にいるのは、私とレイ様二人だけ。


「あのっ……私一人だと仰っていましたが……システィーナ様はいらっしゃいませんでしたか? 先ほどまで一緒にお話していたのですが」

「システィーナ殿か? 見なかったが?」


 私と同様に周囲に視線を走らせるレイ様。だけど何かを思い出したかのように、ああ、と声をあげた。


「だが代わりに、ラメンテがいたな」

「ラメンテが?」

「だが何か強い風のせいで目を閉じてしまってな。で、目を開けたらしゃがんでいるセレスティアルが見えたから、忘れてしまってた」


 レイ様が笑う。

 彼の発言を聞き、私にも引っかかるものがあった。


「そういえば私も、レイ様とお会いする前に、ラメンテの姿と声を聞いた気がするんです。でもちゃんと目を開けたらレイ様がいらっしゃったから見間違いかと……」

「そうか。セレスティアルも見たんなら、ラメンテはいたんだろうな。でもなんで急にいなくなったんだ? それにシスティーナ殿も。何も言わなかったのか?」

「はい。私はシスティーナ様が占ってくださるってことで、あの場でしゃがんで目を瞑るように言われただけで……」

「占い?」


 レイ様の眉が上がった。

 新しい物に興味を引いた反応をされている。


 彼の口元に笑みが浮かんだ。瞳を輝かせつつも、少し声を潜めて問う。


「面白いな。で、何を占って貰ったんだ?」

「私のこれからを。目を開き、初めて見た人物が私の未来に深く関わってくるのだと仰っていました」

「……えっ? セレスティアルの未来に、深く関わる……?」


 レイ様が双眸を見開かれ、みるみるうちに期待に満ちた表情へと変わった。

 形の良い唇から、それってもしかして……という、意味ありげな呟きが洩れ、


「目を開いて初めて見た相手はもしかして……俺、か?」


 声を僅かに震わせながら、レイ様が訊ねた。

 だけど私はゆっくりと首を横に振る。


「始めは私もそう思っていたのですが……私が目を開いて真っ先に見たのは、ラメンテだと思います」


 ラメンテは、守護獣。

 私の未来に関わってきても、なんら不思議はない。


 確信をもって発言した瞬間、私の両肩が強く掴まれた。


 私の視界が、レイ様の顔でいっぱいになった。


 彼の表情は険しかった。

 非常に……非常に険しかった。


 非常に非常に険しい表情を浮かべながら、聞いたことのないほどの低い声で仰った。


「ラメンテはいなかった」

「えっ? で、でもレイ様……先ほどは見えたと……」

「俺の見間違いだ。勘違いだ。幻覚だ。幻想だ。妄想だ」


 私の両肩を掴むレイ様の手に、力がこもった。

 彼の顔が益々近づく。


「もちろん君もラメンテを見ていない。見間違いだ」

「あ、あのっ、わ、私、ラメンテの声も聞いて……」

「ならそれは幻聴だ。ラメンテはいなかったんだ。だから君の未来にこれからも関わっていく人物とは、お――」


 レイ様の言葉の続きを聞くことはできなかった。

 何故なら、突然レイ様の後ろから白い塊が覆い被さってきたからだ。


 その正体は――


「レイっ! 酷いよっ!! 何で僕のこと、なかったことにするんだよっ!!」

「ら、ラメンテ!?」


 突然姿を現したラメンテをみて、私は声をあげてしまった。

 私の声を聞いたラメンテは、金色の瞳を輝かせると、尻尾を大きく振りながら、私の元に飛びついてきた。


 ふわふわな毛が柔らかくて気持ちいい。


 ラメンテは私にひとしきり撫でられると、体勢を崩されたレイ様を睨み付けた。身を屈め、小さくうなり声を上げる。


「もうっ! 僕が一体何をしたっていうんだよ! セレスティアルに近づこうとしたら、突然ルゥナに連れて行かれて、空気読めとか言われるし! やっとのことで戻ってきたら、今度はレイが、僕をいなかったことにしようとしてるし!!」


 プンプンと怒りながら言葉を重ねていたラメンテだったが、私の方を振り返ると、


「話は聞いてたよ、セレスティアル! システィーナの占い、絶対僕のことだよ!」


 そう言って嬉しそうに私の足に身をすり寄せた。

 だがレイ様は、私とくっついていたラメンテを引き剥がし、腕の中に抱きかかえた。ラメンテは抵抗し、体をくねらせているけれど、レイ様の腕の力が強すぎて逃れられないみたい。


 キューンと悲しそうな声をあげるラメンテなどお構いなしに、レイ様がラメンテの鼻先ギリギリまで顔を近づける。


 その目は完全に据わっていた。


「システィーナ殿は『人物』と言ったんだ。お前は守護獣。『人物』じゃない」

「いやいや! それは屁理屈だよ! システィーナが言い間違った可能性だってあるでしょ?」

「いーや! システィーナ殿は、その辺の線引きはきちんとされているし理解しているはずだ!」

「いやいやいやっ! ルゥナへの対応を見ていて、よくそんなこと言えるね!? 守護獣に対する敬意も何もなかったじゃないか、あれは!」


 レイ様とラメンテが言い合いをしている。

 お互いの主張を全く曲げず、話は平行線だ。


「お、お二人とも、そんなに必死にならなくても……」


 私は一歩下がって距離をとりつつ、二人を宥めようとした。

 しかしハッキリとしない私の言動は、逆効果だったみたい。すぐさま間を詰められ、私の視界が、ラメンテとレイ様でいっぱいにされてしまう。


「必死になるよ! だって僕が一番セレスティアルのことが好きなんだもん! ずっとセレスティアルの傍にいるんだもんっ!」

「はぁぁぁ!? 俺の方がお前よりもずっとずっとセレスティアルが好きだからな? それに今もこれから先も、セレスティアルの隣は俺の場所だし、俺の隣もセレスティアル以外座らせないからな!?」

「そんなの知らないし! 僕の方がセレスティアルが好きなんだから!」

「いーーーや! 俺の方がセレスティアルが好きだ!!」


 ラメンテも何を必死になっているの!?

 それにレイ様、言い方っ!!

 

 言い争っていた二人の声が、突然ぴったりと重なった。

 据わった二色の瞳が、私を貫く。


「「セレスティアルはどう思う!?」」


 ど、どうしよう……これ、絶対に正解がないやつだ! 


 それによくよく考えたら、遠回しに告白しているみたいで――って、えっ?


 とても嬉しいことが起こる、と楽しげに語っていたシスティーナ様の声色を思い出すと、かぁぁっと再び顔が熱を帯びた。


 そのとき、


「た、大変だ、レイっ!!」


 屋上に突然、ルヴィスさんが飛び込んできた。

 私たちの視線が、一斉にルヴィスさんに注がれる。


 ここまで来るのに、ずっと走ってこられたのだろう。ルヴィスさんは肩で激しく呼吸を繰り返すと、唾を飲み込み、一気に言葉を吐き出した。


「け、結界の外から、人間がやってきた! それも一人や二人じゃない。大勢だっ!!」


 私は驚きのあまり言葉を失った、同時に、レイ様の腕の中から、ラメンテがスルリと抜けだし、音もなく地面に着地した。


 レイ様は空になった腕を組み、真剣な表情を浮かべながら、冷静に訊ねる。


「……結界の外からって、もしかしてフェンレア王国からか?」


 しかしルヴィスさんは首を横に振り、息を大きく吐き出すと、私の方を見つめながら言った。


「違う。彼らは――クロラヴィア王国からの亡命者だ」 

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