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少し短いですけど、キリがいいので
「では余り者同士、始めるとするか」
「我らの邪魔はさせぬ」
カダツと呼ばれた壮年の男が刀を構え、応えて振られた双刃が空気を震わせる。
刀のカダツと、薙刀のシュカ。
どちらも勢いで流れを味方につけて相手を圧倒する動ではなく、冷静に戦況を運ぶ静の剣士。
この手の剣士は計算高く、安易な誘いには引っかからない厄介な相手だ。迂闊な手を打てばあっという間に詰みに持っていかれることだろう。
血気盛んにぶつかり合うイサナたちとは対照的に、ジグとカダツたちは不気味なほど静かに睨み合っていた。
カダツたちは異様な武器を持つジグを警戒し、数で劣るジグもまた迂闊に攻め込んで挟み込まれることを恐れていた。耳が痛いほどの沈黙が降りる中、睨み合う両者。
先に動きを見せたのはカダツだった。
「一手、馳走になる」
先手を宣言すると同時、カダツの体が前に滑る。
前触れなく動いた相手は意識の間隙を突くように互いの距離を詰めた。
魔術の匂いはない。身体強化ではなく身体操作による技法。
瞬間的に膝を抜くことで前に倒れ込む力を利用した抜重歩法は、冒険者や傭兵にはない独自の技術だ。
「シッ!」
瞬く間に距離を詰めたカダツは正眼に構えた刀を喉元目掛けて突く。
ジグの視点からではほとんど点にしか見えない、特殊な歩法を交えた防御も回避も困難な一手。
「っ!」
会心の一突は、しかしジグを捉えること叶わず。
幾度も見た踏み込みに惑わされる程度ならば、既に彼女に斬られている。
上刃で刀の切っ先を逸らし、同時に踏み込んで下刃での切上げで胴を狙う。
相手の踏み込みに合わせての至近による斬撃。もはや躱せる距離ではない。
「くっ!」
しかし相手は器用にも足裏で双刃剣の柄を受け、蹴り飛ばすことで転がるように後ろへ回避してみせる。空ぶった刃は相手の下衣を掠めるのみに留まった。
ジグは転がるカダツへ追撃を仕掛けず、双刃剣を右に払った。
腿を狙った薙刀が甲高い音を立てて弾き返される。
「ちっ、目端の利く……」
舌打ちをしたシュカが引くよりも先にジグは双刃剣を押し付けた。
長柄武器特有の全体を使った競り合いで主導権を奪い合う。
「この……くっ!」
上から押さえ込む力から逃れようと動く薙刀へ双刃剣は執拗なまでに絡みつき、わずかでも隙をみせれば跳ね上げようと狙っている。読み合い押し合う薙刀と双刃剣が激しく火花を散らした。
「しつこい、なっ!?」
絡み合いで急激に腕の力を消耗させられることに気づいたシュカは武器に魔術を纏わせた。
風を爆ぜさせた勢いを利用して強引に弾こうとする。
これを匂いで察知したジグは発動の瞬間に刃を外して距離を取る。
力の行き場がなくなったシュカがたたらを踏んでいるのを横目に、音もなく迫っていたカダツの刀を受け止めた。
「油断するなシュカ! この男……我らの技を知っているぞ!」
ジグが押し返す勢いに逆らわず、身を翻しながらの袈裟斬りを放ちながらカダツが叫んだ。
「おまけに結構技巧派……鬱陶しい」
腕の疲労感に眉を顰めたシュカが悪態をついた。あのわずかな競り合いだけで激しい素振りを終えた後のように腕が重い。鍔迫り合いは才能ではなく経験が物を言うのは知っていたが、これほど実感させられたのは初めてだった。
警戒を強める二人にジグは眉を動かしつつカダツの刀を受け止めた。
(今のでどちらか一人は仕留めたかったが……)
やはり敵の練度が高い。もうこちらの手札に感づかれた。
多少不意を突いたくらいでは斬らせてはもらえないようだ。
得物も特注品らしく重量差だけで破壊するのは難しい。何かしら隙を作らなければ。
「貴様、何者だ!」
「傭兵」
短く答えながら刀を弾き、刃を寝かせて突く。
上体を軽く動かしただけで躱され、お返しの片手逆袈裟が飛んでくる。
「傭兵だと……? 何故傭兵が冒険者に与する!」
下刃で受け止めて武器を押さえると、刀身を滑らせながら距離を詰めて右の貫手。
打撃ではなく眼球を圧し潰す狙いで放たれたそれは重装兵相手によくやる手段である。視界確保のためのスリット部分に指を突っ込み、目玉を抉り出すのだ。
眼球目掛けて迫る貫手を慌てて避けるカダツ。目という急所への攻撃には本能的な恐怖を抱かずにはいられない。
「金だ」
ジグは避けさせた貫手で相手の長い耳を掴むと、力任せに引き寄せて顔面に頭突きを叩き込んだ。
鼻を叩き潰すつもりの一撃だったが、流石は達人。察して咄嗟に額で合わせられる。がつんという鈍い音と共に衝撃が互いの脳を揺らす。
「ぐ……!」
体格差と高所からという差で受けた痛手はカダツの方が上だ。
このまま武器の使えぬ至近距離で首相撲にでも持ち込めば勝ったようなものだが、これは二対一の戦い。
ジグは耳を掴んだまま体を入れ替え、後ろから迫るシュカへ突き飛ばす。
「これが傭兵? 悪い冗談」
相手も手練れ。ぶつかって隙を晒すような愚を犯す真似はしない。
シュカはするりと躱したが攻めてこず、薙刀で牽制してカダツの体勢が整うのを待った。先の一合で油断ならない相手と知って各個撃破されるのを恐れているのだろう。
若いのによく見えている。
冷静で隙が無い。これでは今のような小技を入れるのが精々だ。徐々にこちらの動きを覚えられれば、斬られるのはジグの方だ。
素早く立て直したカダツは耳から流れる血に小さく笑うと、こちらを見て目を細めた。
「……金か。なら三倍払う、こちらに付け」
「気前がいいな。この仕事が終わったら喜んで受けよう」
”その時にお前が生きていればだが”
カダツは言葉の裏に隠された意味と、冷たさを帯びたままの眼に交渉は不可能だと悟った。
「惜しいな。それほどの腕を金ごときに使うとは」
「生憎”金ごとき”と言えるほど余裕のある生き方をしてこなかったものでな」
大義や使命に生きる者たちを否定はしない。
だがそういったものは多かれ少なかれ”生きる”という最低限を保証された上で初めて抱ける。それでは日々を生き抜くのが精一杯の者たちとは相容れない。
「やるぞシュカ」
「……承知」
カダツたちの纏う空気が変わった。ここからが本番らしい。
漂う魔術の匂いにジグも意識を集中させる。
攻勢に転じる瞬間にこそ隙が出来る。それこそがこの状況をひっくり返す一手となろう。




