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八人の武人たちはただ黙したまま、その時を待っていた。
彼らは老若男女問わずに実力で揃えられた生え抜きの精鋭である。若い者で十代半ばから、最も年嵩で五十に差し掛かる者まで様々だ。
中心に居る頭目らしき壮年の男は腕を組み、静かに目を閉じている。
鍛え上げられた肉体からは無駄が削ぎ落されながらも、細いという印象を全く受けない。誰が見ても分かる強者の空気を醸し出している。
「来たか」
笹穂耳を揺らした男が目を開いた先に二つの人影があった。
一人は報告にあったかつての盟友。タギリ家と並んで武勇に優れたジィンの一族に連なる者。
「……ほう」
彼女を見据えた達人の長、カダツは感心したように声を漏らした。
どうやら想定していた以上に才気に溢れた若者のようだ。努力家だが凡人の域を出ない当主殿の見立てなので話半分に聞いていたのだが……これは認識を改める必要がある。
「ようやくお出まし? 随分待たせてくれるじゃないの、オバさん」
相手の力量を見抜いたカダツが気を引き締める傍ら、対照的な軽い声が上がった。
八人の中で最も若いシャガは幅広の直刀を肩に担いで挑発的にあざ笑っている。
しかし彼もまた優れた武人。軽いのは口先だけで、その眼は相手の癖や得意とする戦い方を読み取ろうとつぶさに観察していた。
「前のめり過ぎると早死にするわよ童。年長者を敬わない無礼者は特に、ね?」
白髪の佳人はあからさまな挑発を軽く流すと、愉快そうに肩を揺らして隣の大男を流し見た。
それに釣られたという訳ではないが、視線を動かしたカダツが眉間に皺を寄せる。
「諸説ある」
短く不愛想に答えた大男は無造作に視線を巡らせ、こちらとの戦力差を測っている。
何の感情も感じさせない、まるで作業でもするかのように向けられたその眼から視線が逸らせなかった。
立ち居振る舞いでジィンの血族に意識を取られたが、この男もどこかまともではない。
我ら武人や、音に聞く冒険者たちともまた違う……どこか異質な空気を漂わせている。目に宿された色は決して油断していい類のものではない。
カダツは経験からそれを察知し、思わず眉を顰めてしまった。
「おんや? 聞いていたより数が少ないねえ……ほほほ、捨て身の足止めってやつかえ?」
縦にも横にも広い巨漢、ナガレが感心したように頷いた。
身の丈ほどもある野太刀を背負った体は大きく、巨大な壁を思わせる圧迫感を持っている。上背こそ相手には負けているが、体重体積では大きく上回っているだろう。
「その意気やよし! 中々に覚悟が決まっているえ」
「今時流行らない」
体格と同じく鷹揚に笑うナガレを、若い女性が冷ややかに否定する。
「カダツ、露骨な足止めだけどどうする?」
冷淡で無機質な顔をした彼女……シュカは薙刀を立てたまま問うてくる。
彫りの深い顔をさらに険しくしたカダツは声に出さぬまま喉だけで唸る。
改めてジィンの末裔を見やる。一目で分かるほどに若く才気溢れる佇まいをしているというのに、天才特有の驕った気配もなく落ち着いている。余程指導者に恵まれたか、腕を競える相手を見つけられたのか。
次いで独特な空気を持つ大男を注視する。
双方向に刃の付いた異質な武器を慣れた様子で携えている。魔術が得意でないのか、手甲や胸当てなどの防具も頑丈な作りをしている。冒険者とも武人ともつかないが、戦い慣れていることは間違いあるまい。
「……」
ややあってからカダツは止む無く、といった様子で息をついた。後詰めで用立てた四人に声を掛けて、遠くに聞こえる蹄の音がする方を顎で指す。
「お前たちは魔術師を追え」
激しい蹄音から判断するに馬車は飛ばしているが、アルクゥラ周辺は悪路が多い。街を出てしまえば地の利と健脚さを有した武人から逃れることなどできぬ。
指示を出したカダツは敵を見据え、静かに鯉口を切った。
「は?」
彼自らが相手をする気であると知ったシュカが目を丸くする。てっきり魔術師を追うのは経験豊富なカダツとナガレ、若き俊英であるシャガにシュカだと思っていた。
凡百からすれば同じ域にいると思われる八人だが、前者四人と後詰め四人とでは明確に実力差がある。
セイザンから下されたのは障害となる四人の排除。中でも魔術師には要注意であり、必ず始末しろと厳命されていた。主命を重んじるなら役割は真逆になるはずだ。
「いいの? 魔術師を優先しろって指示」
「責任は俺が取る」
不審に思ったシュカが異を唱えるも一顧だにされなかった。いつになくカダツの意志が固い。
「……承知」
不承不承でありながらもシュカは大人しく首肯する。
当代有数と謳われる武人であるカダツがそう言うのであれば、従う他なかった。
「ゆくぞ。セイザン殿のため、我らで道を切り拓く」
四人が馬車を追いかけ始めるのを横目で見る。
多少なりとも時間は稼げた。こういう事態も考慮してなるべく出口付近に宿を取っていたため、彼女たちが街を出るくらいは問題ないはずだ。運が悪ければ門付近で爆発音が聞こえてくるかもしれないが……そこまでは責任が取れない。
自分たちはともかく、シアーシャとシャナイアには自分の身を優先するよう言いつけてある。追っ手が予想以上の手練れであれば周囲を顧みない魔女の力が見れることだろう。
護衛という立場を考えるとすぐに追いたい気持ちは山々だが……手に手に得物を抜き始めた眼前の敵を思えばそうもいかない。
刀、直刀、薙刀、野太刀。
それぞれに大きさや形が違えど、彼らの文化を象徴するような武器がずらりと牙を剥いている。
「四人か。まあまあね」
「さて、どうだろうな」
”厄介な方が残っている”
言葉にしなかった部分を十分に理解しているイサナが、刀の柄に手を掛けたまま小さく笑う。
二人はどちらともなく、互いの邪魔にならないよう歩き出した。
「好きな方を選べ」
「あら紳士。じゃ、お言葉に甘えて―――」
”キン”と、音がした。
手首で刀の鍔を弾いて、鯉口を切る。
無作法かつ露骨なまでの音を立てて注目を集めたイサナが、ゆっくりと刀を鞘から引き出していく。
刀身の刃文を見せつけながら、己の戦意を滾らせながら。
しゅらりと鳴らして抜き放たれた愛刀の切っ先を、野太刀を背負った大男へ。
「ほう、拙者かえ?」
「近頃、デカいのと縁があってね。験担ぎには丁度いい」
「おうおう。若い娘さんからの御指名とあっちゃ、断るわけにはいかんえ!」
ナガレは腕を組み、夜半であることを忘れるほどに闊達な笑い声を上げる。
「カダツ、良いな?」
「……仕方ありませぬ、油断召されぬよう。シャガ、ご助力しろ」
「へいへーい」
カダツが鋭い視線のまま首肯する。ナガレの方が年上らしく、頭目といえど敬意を払っているのが見て取れる。
ついでの扱いにシャガが不貞腐れた返事のまま直刀を雑に抜いた。
「……と、いう訳だえ。主命ゆえ、一対一とはいかぬが……」
「上等よ。まとめてかかってきなさい」
翠眼を光らせたイサナが応える。足を滑らせ、向けた切っ先をそのままに肩口へ、霞に構える。
「ハッハァ! よくぞ言うた!!」
美しくも実戦で鍛え上げられた構えにナガレが吼え、背の野太刀に手を掛けた。
右手で柄を、左手で鞘の中ほどを掴み、打ち上げるように上へ扱く。
鞘から飛び出た刀身の真ん中を右手で掴むと同時、左手の鞘を引くことで長い刀身を一気に露出させる。後は重力に任せれば、右手を支点に重い柄が勝手に前にくる寸法だ。
付き人でもいなければ抜くことすら困難であろう長大な武器を流れるような動作で抜刀した。
ただそれだけで、ナガレの実力が推し量れるというもの。
まるで見得を切るかのように野太刀を肩に担ぐ、イサナと正反対の構え。
「男も女も、老いも若きも、過去も今も! 我らが語るにはコレ一つで十分! ゆくぞぉおおおお!!」
「来ぉい!!」
書籍版「魔女と傭兵」八巻、本日発売です。
いじらしいシャナイアの内心が全開になる♡フルストーリーも加筆されておりますので、是非。




