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「止まれ。見慣れぬ顔だが……どこの家の者だ?」
イサナを先頭にタギリ家の門へ近づくと、当然ながら止められた。
門番は不審な者を見る目を向けており、腰の刀へ片手を掛けて抜かないまでも警戒している。肩に余計な力が入っており、全体から受ける印象が妙に硬い……その立ち居振る舞いには、どこか型に嵌り切った者が持つ特有のぎこちなさが見受けられた。
不思議なことに、ラーマにいた門番と比べると腕が落ちるようだ。仮にも名家の門番のはずだが……あるいはラーマの門番が優秀だっただけか。
ジグと同じ疑念を抱いたイサナは眉を顰めたが、とりあえず予定通りに動く。
アオイから借り受けた書状を懐から取り出すと、門番へは渡さぬまま一方的に告げた。
「ハリアンギルドの冒険者よ。タギリ家の救援要請に応じて参上したわ」
「何を言うかと思えば、冒険者だと? 誇り高い我らタギリ家が、ハリアンなどという田舎の猟師風情に助けを乞うなどあり得ぬ。失せろ」
門番はまともに取り合わず、犬を追い払うように”しっし”と手を振った。
ここまではジグたちの予想通り。
ラーマに来たときは運悪く魔獣が現れたから話が早く進んだものの、最初は同じような対応をされた。より家格が上のタギリ家で門前払いされるのは当然と言えよう。
「書状にはタギリ家の印もあるわ。ラーマ族長であるクホウ殿からも一筆頂いている」
冒険者のことを”田舎猟師”と揶揄されたイサナの耳がピクリと神経質に一度動いたが、流石に彼女もそのくらいで怒り出すほど短絡的ではない。表面上は落ち着いた様子で証拠を見せていく。
つまらなそうな顔でそれを見た門番は、呆れた様子でため息をついた。
「作り話にしては頑張った方だが、それが本物である証拠はあるのか? もっとも、私はそれを判断できる立場にないがな。もう一度だけ言うぞ? ―――失せろ。斬り捨てられる前にな」
彼はそう言うと拙いながらも殺気を滲ませ、声を低くして凄んだ。
これ見よがしに音を立てて鯉口を切ると、傷や汚れ一つない綺麗な刀身を覗かせて脅してくる。
「……」
怪しい輩への対応としては比較的真っ当な部類だろう。
仕える家への侮辱と聞こえなくもない発言をする不審者など、場所によっては問答無用で引っ捕らえることも珍しくない。脅してあしらうなら優しい対応だ。
門番としては及第点だ……彼我の実力差が見抜けないことにさえ目を瞑れば。
「―――タギリの盆暗当主に伝えなさい」
いつの間にか、至近にまで距離を詰められたことに門番が瞠目する。
イサナが小さく動き、”キン”という小さくも甲高い音が、門番の握る刀から聞こえた。
驚いて咄嗟に抜こうとした刀が、妙に軽い。
「……っ!?」
違和感に目をやれば、柄から先の刀身がすっぱりと両断されていた。
鞘には傷一つない綺麗な刀身の断面だけが見えており、初めからそう造られたのではないかと思うほどに鮮やかな切り口であった。
恐る恐る視線を戻す。
刀を抜きかけた半端な動きで固まった門番とは対照的に、既にイサナは逆手に持った刀身を納めている。
自分が抜くよりも速く抜刀して刀身を切断し、納めた。
信じられぬことだが、結果はそれを示している。
そこで彼は今更ながらに、侮っていた相手が遥かな高みに達していることにようやく気付いた。
驚く間もない早業に半端な顔で固まった門番。
彼の顔を冷たい汗が伝うのにも構わず、イサナは顔を近づけて前髪をかき上げた。
雪のような白髪から覗くのは、額に描かれた特殊な紋様。
褐色のキャンバスに描かれた紋様は、彼女が籠めた魔力に呼応してわずかに光を帯びている。
「……まさかッ!?」
それを目にした門番が、今度こそ驚愕に顔を歪ませた。
「”ジィン”の一族が、戻ってきたわよ」
イサナの機転で中に通された……這う這うの体で報告に走った門番の後をついていった事を中に通された、と表現していいのならばだが……ジグたちは人気のない広間で足を止めていた。
”そこで待っていろ!!”と言い残した門番を見送り、過剰な装飾で目が痛くなりそうな広間を見渡す。
タギリ家とは随分と自己顕示欲の強い性格をしているようだ。
金で作られた蛙が池に飛び込む様子を模した置物など、趣味の悪い品がそこかしこに飾られている。
「作戦通り中に入れましたね。たぎり家……とどんなお話をするんですか?」
シアーシャが置物をいじりながら言い難そうに口をもごつかせている。場所が変わると単語の発音が独特なのはよくある現象だ。
「……」
ジグはすぐには答えず、無言でイサナに視線で”聞き耳を立てている者はいないか”と伺った。
彼女が首肯するのを見届けてから、それでも小さな声で今後の動きを伝える。
「当たり障りのない魔獣被害について触れながら、奴らの思惑を探る。聞いている限りだと、アルクゥラが積極的に他の部族を助ける理由が弱すぎる。魔獣の被害にかこつけて恩を売るにしては、やり方が気に入らない」
「気に入らないとは、ジグ君らしくない言い方だねぇ?」
犬の銅像に腰かけたシャナイアが背を反らして意味ありげに見やる。
さして長い付き合いでもないはずだが、随分と知ったような口を利いてくれるものだ。
「”やり口”じゃなくて”やり方”な辺りがあなたらしいけど……何か気づいたことでもあるの?」
事情は不明だが、自分たちを追い出した部族の長がもうすぐ現れる。
そのことでどこかピリピリとした空気を纏うイサナは、いつになく真剣な顔をしていた。
「そうだな……」
三者三様で落ち着きがない彼女たちを他所に、ジグにはずっと考えていることがあった。
「あの胴元も言っていたが……魔獣の被害で手一杯な現状を維持すれば、アルクゥラが他の部族を取り込むことは時間の問題だ」
「武人としてはそれを否定したいけど……誇りや矜持なんて、環境の変化でいくらでも移ろうって知っちゃったからな」
生まれ故郷の卑怯卑劣を認めたくない感情と、自身がこれまで見てきた同胞たちを思い起こしたイサナが独り言ちる。
「やり方それ自体は何も問題ない。労せず戦いに勝利できる、最善の手だ……イサナには悪いがな」
「ふんっ、気遣い? らしくないわね」
イサナはわざとらしく鼻息荒げてそっぽを向く。
彼女も出会った当初から様々な経験をして随分変わっている。今も不満そうにしているのは表面だけで、言葉ほどには気にしていない。
「タギリ家が本当にかつての誇りを維持しているのならば問題ない。だがもし、そうでなかった場合……奴らは何らかの目的があって他の部族を手助けしていることになる」
「ジグ君はその目的とやらが、祖先の技術と何か関係しているんじゃないか……もっと言えば、祖先の技術を探しているんじゃないか? そう言いたいんだねぇ」
意図を察したシャナイアが言葉を継ぐ。
皆に驚きはない。誰もが薄々感づいていたことだ。
「澄人教を見かけたって時期とも重なりますし、入れ知恵でもされたんですかね?」
「分からん。いずれにしろ、これから当主と面会できれば―――」
ジグの話を遮るように響き渡ったのは、どこか空気を読まない場違いな……牧歌的とさえ感じる老人の言葉だった。
「おんやまぁ! あん時の、話好きなお若いの!」
「「!?」」
いつの間にか全員が腰を浮かすような距離にいたのは、いつぞや見かけたご老人であった。
誰もが驚きに目を見開く中で一人、ジグだけは本気で辟易したようにため息をついた。
「……話が好きなのは、俺ではない」
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みんな大好きミステリアス美女、エルシアさんが大かつやくです。
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私の右腕を破壊するべく300近い数を用意したようですが……ボタン連打で鍛え上げられたこの腕を壊すには一桁足りぬ! と申しておきましょう。




