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昼時の繁華街はその地の顔と言ってもいい。
ここの盛り上がりが街の発展・繁栄度を示しており、どこかが機能不全を起こしていれば必ずここに表れる。ヒトモノ問わず、何かに異常があれば血管が詰まったかのように問題が表面化するものだ。
そう言う意味ではここ、ラーマには分かり易い問題が出ていた。
魔獣による農地と作物への被害や、それに伴う寒期への備えに不安が生じた住民たち。先への不安や現状への不満、苛立ちといった感情を街行く人たちから感じとれる。
それは既に一部が形となって表れており、時折喧嘩や言い争う声が飛び交っていた。
「あまり穏やかではありませんね。早いところ情報を集めて所在を突き止めないと」
アオイは辺りに漂うピリピリとした空気にも動じず、淡々と自らのやるべきことに意識を向けた。
彼女はワダツミの二人を引き連れ、祖先の遺物が眠る場所の情報収集をするためにラーマを歩いていた。
「しっかし探るのはいいけどよ、何から調べりゃいいんだ?」
「見当も、付かない」
ベイツとグロウ。二人は厳つい顔に似合わぬ愛嬌のある仕草で首を傾げた。
冒険者としてベテランであり、長い年月を生きた先人であろうとも不得手なことはある。特に宗教絡みの訳の分からない不思議技術の隠し場所など専門外だ。
「あのクホウって狐顔を締め上げるか?」
「彼にも隠している事はあるでしょうが、仮にも集落の長。易々とは口を割らないでしょう」
”それは最後の手段です”と言葉にしない部分だけを目で語るアオイ。
「そういうもんかね。ま、なんだっていいや。俺らはあんたの指示に従うよ」
ベイツはそう言って言葉を切ると、余所者に向けられる不躾な視線に睨みを返した。
獰猛な顔つきで歯を剥いて笑い、これ見よがしに戦斧を背負いなおして見せればチンピラ程度なら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「にしても、イサナの出身地って割には骨のない奴らが多いな」
「うむ、拍子抜け」
二人して好き勝手言いながら肩を竦める。
特に喧嘩っ早い彼女と比べられるのはラクシャナの民も文句を言いたいだろうが、口を挟める度胸のある者はここに居なかった。
そんな彼らを振り返りもせず、アオイが口を挟んだ。
「やる気があるようで結構です。これから骨のある方たちの場所へ向かいますので」
「あ? どこだよ」
「先日皆さんが霧食みの馴鹿を撃退した後、とある部族から救援が来ました」
「確か、アルクゥラ……だったか?」
「はい。かの部族から派兵された一団がまだ残っているそうです」
この件についてはジグが発つ直前に報告を受けていた。
クホウに尋ねると、彼らはアルクゥラから送られてきた支援隊とのこと。
「……ほぉん」
「……ふむ」
ベイツは胡乱げな顔をして相棒と顔を見合わせる。
魔獣の活性化による被害が出始めたのはここ最近のことだ。ラーマだけでなく他の部族にも被害が出ているらしいので、一番大きい部族のアルクゥラが救援に向かうのはそこまでおかしなことではない。
だが古くから争い合っていたという部族が、突然手の平を返したように助けに来るとはどういう風の吹き回しだろうか。
「まだ邪推の段階か。細かいことは置いとくとして……なんでまだそいつらが残ってるんだよ」
「魔獣の被害そのものが無くなったわけではないので、有事に備えて待機しているとのことですが……クホウ殿もかなり怪しんでおられました。私にこの情報を流したのは恐らく……」
「代わりに探って来いってか? いいように使ってくれるじゃねぇか」
部族間のやり取りで極力弱みや借りを作りたくない彼らにとって、冒険者という外部の人間は色々と都合がいい。
「……食えぬお方です」
もしかしたらクホウはこちらの目的が他にあることを薄々感づいているのかもしれない。
だからこそ領内を好きに動ける調査を頼んできたり、こちらが一見魔獣の調査とは関係のない情報収集に動いていても咎めては来ない。その代わりに向こうも都合よく使う。
「仕方ねぇか。ジグやシアーシャちゃんに、アランやノートンたちも動いてんだ、こっちだけ手ぶらってんじゃあ恰好が悪い」
「先輩冒険者として、恥ずかしいところは……見せられない」
肩を回してやる気を見せる二人を他所に、アオイは一人難しい顔で眉間に皺を寄せた。
陰険眼鏡……上司であるカーク=ライトから、この遠征に出向く際に受けた忠告が彼女の頭を過る。
”ノートン=ウィルサーには何かある”
端的な忠告にはいったいどのような意味があるのか、アオイには分からない。いや、カーク自身も何があるのかは掴みかねているからこそ、こんな曖昧な事しか伝えていないのだろう。
普段であれば確証のないことはあまり口にしないカークがあえて言ったのだ。そこには何かしらの意味があるはず。
ギルドの受付嬢とは思えぬ仕事に思わずため息がこぼれそうになる。
本当に人使いの荒い上司だ。一度、本当にシアーシャに殴ってもらえばいいと思う。
「これが終わったら、休暇を取りましょう」
アオイの視線の先、どこか不穏な気配を漂わせている兵たちの詰所。
そこでは未だ物々しい空気を帯びた兵たちが武装したまま周囲を睨めつけていた。
大した責任感だ、いつ魔獣が現れても問題が無いように備えている。
「……そのためにも、はっきりさせなければなりませんね」
「……本当に行くのか?」
「何をいまさら。怖気づいた?」
眼前にあるのは大きな門。
家としての顔だけでなく外部からの侵入を防ぐための意味を持つそれは、高い塀と壁を備えた防御施設でもある。ラクシャナ最大勢力の名家だけあってその壁は高く、ジグやイサナでも飛び越えるのは不可能だ。登ることは出来るが。
ジグの気が進まないのは、何も大きさに気圧されたという訳ではない。戦時にはこれよりもさらに高い砦を攻めることもあったので見慣れている。だが大抵の場合、城攻めにしろ防衛にしろ相応の頭数がいる。
たった四人で踏み込むのに抵抗を覚えるのは兵の性か。あるいは自信満々のイサナを信用しきれないせいか。
「なかなか大きい……まー私ならもっと大きい壁作れますけどね?」
シアーシャは門の威容に対抗意識を燃やしたのか、独り言を口にしながらこちらを見てくる。
反応すると面倒そうなので聞こえないふりをしておく。
いつぞやストリゴで展開した防壁の大きさはどのくらいだっただろうか。確かにあれの方が大きかったような気がしないでもないが、遠目だったので記憶が曖昧だ。
「はん、でかくするだけなら誰にでもできるさぁ。大事なのは質だよ質」
新調した服が気になるのか、事あるごとに自分の姿を見下ろしながらシャナイアが悪態をつく。
機嫌が良いせいで口調が浮ついており、普段よりも言葉にキレがない。
イサナはイサナでやたらと前のめりで、どこか落ち着きがない。
「……不安だ」
ついにジグの口から懸念が漏れた。全体的に緊張感に欠けている。
戦力としては申し分なくとも、これでは何か大きな失敗をしでかしそうだ。力に任せた安直な手を潰してきた側の人間だからこそ、場所を選ばぬ力押しには抵抗感が強かった。
「探し物ってのは頭数よ。私たちがちょろちょろ情報探ったくらいじゃたかが知れてるじゃない。だったら知ってそうな所に無理やり聞く方が効率はいいでしょ」
「間違ってはいないがな。些か短絡的過ぎはしないか」
「じゃあ昨日みたいに怪しいところをバンバン虱潰しにする?」
それしか手段がないのならば、虱潰しも視野に入る。
だが真っ先に怪しい場所があるのならば、そこを突くのは決して悪手ではないのだ。
「……仕方がない。シアーシャ、構造上脆い場所を探しておけ。いざとなれば建物ごと崩す」
「おお、ジグさんが手段を選ばない状態に……がってんです!」
今回の目的は祖先の遺物の確保、破壊だ。
ラクシャナの民を護るのは表向きの仕事内容であり、依頼の本質ではない。またストリゴの再来を防ぐためであれば多少の犠牲も止む無しだ。
ジグは傭兵であり、正義の味方ではないのだから。
また依頼とは別に、魔女という生物の本質を調べるのがジグの個人的な目的だ。
これからもシアーシャたちと関わっていく以上、彼女たちのことをこれまで以上に知る必要がある。祖先の技術で作られたという化け物に何故魔女と同じ気配を感じたのか……それを知るためにジグはここに来た。
「……」
ふと、自分の手を見る。
仕事とは関係ない個人的な目的という、これまでにないジグの動機。
そこに自身の意志があるのを確かめるように、一人静かに拳を握った。




