99話 「疑惑」
「厳密には……?」
曖昧な言葉で返されたファルベは呟く。一応否定ではあるが、厳密にはという単語の内容次第ではファルベの判定的に犯人と断定できる可能性もある
だが、こうして迷っている時間はない。実際は他の人間が犯人で、この男に気を取られている間に被害が拡大するということも考えられるからだ。
そして、目の前の男を即座に捕らにいくのが出来ず、相手の返事を待っているのも先の理由が関係している。
この男は以前戦った際に正体不明のスキルでファルベの攻撃を全て防いでいた。そのスキルの効果や使用条件といった詳細を知らないまま戦っても前回の二の舞になるだけだ。
一応、ファルベはこれまでの犯罪者たちとの戦闘である程度敵のスキルを看破する技術や知識を持っているし、推測することもできる。
だが、それらはあくまで推測でしかない。実際、ファルベの推測とは違ったスキルを持っている敵を間違った推理で誤解したまま敵を捕らえたこともある。
完全に見破れる証拠がない以上勝てる保証はなく、長引けば先ほどの通り、他に犯人がいた場合一層被害が拡大する恐れがある。
その迷いが生み出した静寂を男の声が破った。
「そうだね。厳密には。だって――」
男が自分の真意を説明しようとした瞬間、
「シエロ、あなたどういうつもり? ここであの村の住人を皆殺しにして冒険者狩りを誘き寄せるのが私たちの役目でしょう。あなたがちんたらしているせいで村の連中に逃げられちゃったじゃない」
男の後方から女の声が聞こえてきた。他にも仲間がいたことに驚いたファルベはそちらに目を向ける。
男から少し離れた位置からこちらに歩いてくるのは高身長な女性だった。ファルベや男――シエロと呼ばれていた彼より遥かに大きく、180センチはあろうかというほどのものだった。
金色の長髪を揺らし、整った顔つきをしている。スタイルも良く、普通に生きていればモデルとして食っていけていただろう。普通に生きていれば、だが。
「皆殺し……?」
聞き捨てならない言葉が聞こえて、ファルベは思わず呟く。彼女からその言葉が出てきたということは、あの女こそが事件を起こそうとしていた人物であるということになる。
しかし、女の言い分を信用するなら、シエロは被害を受けるはずの住人たちを逃しているらしい。それが意図的かどうかは分からないが。
シエロの行動の真意と彼らが所属する組織の目的が分からず、ファルベの脳内は疑問で埋め尽くされていた。




