96話 「善行の対価」
傷の治療を頼んだルナの言葉を二人の衛兵は快く受け入れた。
ああ、それぐらいでしたら、是非ともお任せください」
「あ、ありがとうございます!」
深くお辞儀してルナは感謝を伝える。お腹を押さえるメルトに近づく衛兵。
「すみません、傷口を見せてもらってもいいですか? 嫌でしたら拒否していただいても構いませんが」
「うーん……大丈夫、です」
見知らぬ男性に素肌を見せることに若干の抵抗があったようで、一瞬迷うように視線を泳がせた後、肯定の意を示す。
余計な部分が見えないよう衛兵たちは気を遣って服を捲っている。少し気になったルナも彼らの後ろからこっそりと覗く。
メルトの鳩尾には青いアザが大きく刻まれており、それが一朝一夕では治らない重症であることを示していた。
「ふむ……これは大変ですね。これほどの傷を治せるほどのスキルを私たちは持っていません。然るべき能力を持つ者の元へあなた――メルトさんを運びたいのですが、構いませんか」
「あ、それは……」
随分と大事になりそうな予感がして、メルトは遠慮気味になる。
「きちんと治療しないと今以上に酷くなってしまうかもしれませんし、私たちにはその傷を治せるだけのスキルを持った人物に心当たりがあります。悪い話ではないと思いますが」
確かに、悪い話ではない。たとえファルベの元へ連れて行っても、彼ではメルトの傷は治せないし、ラルフの権力を頼るにしても取り次ぐまでの時間がかかる。
なるべく早く治すのなら、この提案に乗るべきだ。ルナはそう考えて、
「メルトさん、ここは提案を飲んでもいいかもしれません。やっぱりできる限り早いうちに直しておいた方がいいですよ。それに、衛兵さんたちの好意を無碍にするのもアレですし……」
メルトの耳元で囁く。そんな様子に何か気になることがあったようで、衛兵が口を開く。
「ああ、メルトさんだけついてくるというのが不安でしたら、そちらのお嬢さんもぜひ、付き添いとしてついてきて頂ければ」
そう言って、ルナにもその矛先を向ける。衛兵だから変なことになるとは思えないが、メルトを一人で行かせるのに不安があるのも事実。どうしたものかと考えていると、
「いや、私一人でいいわ。ルナちゃんはあいつ――ファルベのところに行ってあげて。ファルベもなんか厄介ごとに巻き込まれてるみたいだし。ルナちゃんの力が必要になるかもしれないから」
「……分かりました」
先程、ルナがファルベに助けを求めて連絡を取った際、彼もまた何かの対処に追われているようだった。それの援護にも行かなければいけない。だから、ルナはメルトの言葉を受け入れ、頷く。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
ルナは衛兵たちに言い、深くお辞儀する。そして、ルナはその場から離れて、ファルベの元に向かおうとする。
小走りで立ち去るその寸前に、今回の騒ぎで集まった野次馬の中から、
「この街の衛兵に、あんな顔の人いたっけ?」
「さあ? 俺は見たことないけど、衛兵って言ってるし格好もそうだし、あってるんじゃね?」
「うーん……」
そんな声が聞こえた気がしたが、先を急ぐルナの頭はその言葉をただの雑音として処理し、どこかへ放り捨ててしまった。




