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95話 「騒ぎの終結」

 頭部に煉瓦が直撃した男は、意識を失ったのか膝から崩れ落ちる。それを見たルナは二人の元に駆け寄る。


「メルトさん! 大丈夫ですか!?」


 大男の腕で殴られたメルトの傷は浅くない。ルナは倒れるメルトの肩を揺らして反応を待つ。突然の出来事に驚く観衆の様子も気にならないほどの焦りに突き動かされたルナは、荒く息を吐く。


「――ん、いっつつ……」


 苦しそうに呻くメルトの姿を見て、息があることを確かめる。

 ルナが不安視していたのはメルトが男の拳によって絶命することだった。しかし、呻き声とはいえ、声をあげていたということはまだ息があることの証明だ。取り敢えず最悪の事態になっていないことに安心する。

 とはいえ、楽観視できる状況でもない。メルトが浅からぬ傷を負っている事実は変わらないからだ。


「メルトさん、大丈夫ですか! メルトさん!」


 何度も声をかける。すると、


「……ぁ、ル……ルナ、ちゃん……?」


 目を開けるのもままならないと言った様子でルナの名前を呼ぶ。


「そうですよ! ルナです! メルトさん、大丈夫ですか」


「う、ん……ゲホッ、まだちょっと痛いけど、なんとかって感じかな……」


 メルトは苦しそうな表情を浮かべてお腹を押さえつつ、言う。ちょっと痛い、という程度で済ます反応ではないだろうが、彼女の見栄に突っ込むのも野暮だろう。


「それならよかった……っと、それはそれとして」


 安全確認が終わってルナは一旦話を切り替える。


「どうして作戦と違うことしたんですか……あんな、危ないこと。心配しましたよ……」


 本来の作戦では、メルトが犯人の男に触れて中に浮かせるはずだった。だが、メルトが実際にやったのは犯人の男の頭に煉瓦を落として昏倒させるというものだ。

 その違いに困惑するルナに、メルトは優しく微笑んで、


「私もね。最初は作戦通りしようって思ってたんだけど、やっぱり確実にこの男に触れるって自信はなかったから……保険として次善策を置いといたの。最初の作戦通りにいけてたらこんな手段使わなかったわ」


「それは、そうですけど……」


 メルトの言いたいことはルナも理解できていた。実際、犯人は意表を突く形でメルトを襲ったのだ。メルトの考えはこれ以上ないぐらい正しいものだといえる。


「でも、心配してくれてありがとね。ルナちゃんのそういうところ、私は好きだよ」


「むぅ……」


 素直に褒められてルナは頬を染める。それが愉快だったのか、メルトは小さく笑う。その直後、


「この騒ぎはなんだ!」


「道を開けてください!」


 二人の男性の声が聞こえた。声の方向に視線を向けると、胸当てや兜をかぶった軽装の衛兵が

人ごみをかき分けて騒ぎの中心であるこちらへ向かってきているようだった。


「あ、ちょうど衛兵さんが来てくれたんだ。よかった。後の処理は私たちがやらなくてもよさそうね」


 ホッとしたのか、一つ息を吐いて安心した様子を見せるメルト。そして、衛兵がこちらまでようやくたどり着いて、


「君たち、これは一体どうなってる?」


 問う。それに答えようとルナが口を開きかけた瞬間、メルトの代わりに人質から解放された男がこちらに駆け寄ってきて、


「この男が俺を人質に取って訳の分からないことを叫んでたんです。こちらにいる女性が俺を助けてくれて……」


 どう答えようか迷っていたルナの代わりに説明役を買って出てくれた。


「そうか。事情は把握した。そちらの方の名前は?」


 衛兵はそう言って、メルトに指さす。


「私は、メルトと言います」


「そうですか。メルトさん、何かお礼をしたいのですがこの後ご予定は?」


「……どうしよっか?」


 困ったように眉を寄せて、メルトはルナの方を向いてきて助けを求める。少し逡巡したルナは意を決すると、


「お礼なら、メルトさん怪我の治療をお願いします!」


 はっきりとそう伝えた。



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