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64話 「再びの交戦」

 屋敷の外に出ると、何やら村人たちが忙しく動いていた。

 何がどうなっているのか、それを確かめるべく行動しようとした直前、慌ただしく動く村人の一人が屋敷の入り口辺りに近寄ってくる。


「ラウラさん、大変です!」


 その人物は若い男性だった。装飾のないシンプルな衣服が着崩れており、それが彼の焦燥感を如実に表していた。

 見れば、息も切れていて、相当な勢いで走ってきたのだろう。額には若干の汗が浮かび上がっている。


「そんなに慌てて、一体何があったんだい? あんたの様子を見るに、余程の事態があったんだろうけど」


 ラウラは観察するように青年の全身を眺め、落ち着いた口調で話す。彼女が焦っている状況は少なくともルナがここに来てからは見たことがないが、やはり彼女のそういった態度は相手にも安心感をもたらすようで、青年は顔を上げると落ち着かせるように深呼吸して、


「国境壁付近にて、またもやあの魔物が暴れているようです!」


「……またか。ここ最近でそんなに高頻度で出てこられると困るんだよねえ。それで? 奴が出てきただけじゃそこまで慌てる話でもないだろう。他に何があったんだい?」


 何故か急にこの国の周辺に姿を見せ始めたあの魔物ではあるが、それだけならここまで焦ることもないだろう。被害も出るので恐るべきではあるが、この村に直接的な損害が生まれるかといえばそうではない。


 だとすれば、彼らがこうして焦っている理由にはもっと別のものがある筈だ。


「アイナハル王国からこの村に立ち寄る予定の商団が、奴に襲われ立ち往生しているとのことです。一度彼らを自国へ帰してしまえば次に立ち寄るのはいつ頃になるのか予測が立たず、そして生活用品や食料品の備蓄の残量もふまえて考えますと、この機会を逃すのは厳しいかと」


 商団と呼べるほどだ、その積み荷も相当なものだろう。それが襲われたとなれば、かなりの商品がこちらに入ってこなくなる。その上、次に来る場合は、安全な経路を確保できる日に日程を調整するので、それがいつになるかは特定できない。


 この村の備蓄がどうとかそういった情報はラウラではなく村長が管理しているので、それをラウラに言われても正直理解し切れるものではないが、現状がどれほど危険な状況なのかというのは分かる。


「それと、あの場には商団のみならず、見覚えのない少年がいるようで……このまま放置するのは得策ではないかと。今は商団に付いてきた冒険者が対応に当たっていますが、それもいつまで持つか……」


 深刻な表情で伝える青年を見ていると、流石にルナにもことの大きさは理解できる。

 迷っている時間はない。なら、ルナがすべきことは、


「ラウラさん、行きましょう。商団の方々のこともそうですが……恐らく、その少年というのも」


「ああ。ほぼ間違いなくファ……あの子だろうね」


 どうして屋敷にも戻らずそんなところまで出て行ってるのか分からないが、彼の状況は相当危険だ。スキルを使えているのもほとんど奇跡に近い体調で、あの魔物と対峙しているのだから。


 そもそもファルベは対人特化で、魔物との戦いを極端に苦手としているのだ。


 実際、馬車でこちらにファルベが向かっている最中に襲われた時も、対処はラウラとルナに任せて彼は国境壁を越えることを優先させていた。それが正しい判断だし、それなら尚更今の危険さが際立つ。


「じゃあ、取り敢えず向かうよ」


「はい。早く向かわないと、ししょーが危ないですからね」


 ラウラに指示に勢いよく頷くと、彼女が手配した馬車に乗り込む。


「あ、あの、ラウラさん。その女の子も連れて行くおつもりですか。それはいくらなんでも……」


「この子に関してはそんなに心配しなくてもいいさね。それより今交戦してる奴らの方が優先だ。じゃ、村の方は任せたよ」


 ラウラはそう言い残すと、走り出そうとしている馬車に華麗に飛び乗る。


 馬車は加速を始め、商団のいる方向に向かって行った。



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