59話 「本当の理由」
「五年前の……真相……?」
ファルベは理解ができないように首を振る。五年前――ファルベが追放されたあの日。その時に何があったというのか。
「あの日、あいつらは、俺が邪魔だったから、役立たずだったからって俺を追放したんだ! それ以外の真相なんざありゃしねえんだよ! 自分たちが中級冒険者に昇格したことに浮かばれて、こき使ってた俺を切り捨てただけだ!」
元パーティーのリーダーは、当時給仕としてこき使っていたファルベを、孤児だったファルベを引き取ったのにも関わらず追放したのだ。
理由は「中級」に昇格したことで、雑用係もファルベに拘る必要がなくなったというものだったが、それも恐らく嘘だ。
ただ、子供だったファルベが、戦闘において役に立たなかったファルベを排除したかっただけだ。
「そうだよ! あの時だって、誰も……パーティーメンバーの誰も、俺の追放を止めやしなかっただろ!? 結局あいつらはその程度の人間でしかなかったんだよ!」
ファルベは孤児で、身寄りがなかった。親は元より親戚も、守ってくれる誰かもいなかった。リーダーはそれも知っていて、ファルベを追放したのだ。
つまりそれはファルベを引き取った責任を放棄し、死が確定している未来に放り出したことに他ならない。
それ以外の事実なんてあるはずがない。
叫び声に近い声をあげて息切れしたのか、荒い呼吸を続けるファルベに対して、
「まあ落ち着きな。確かにあんたを追放したのは事実だ。それにあんたのことを役立たずだとか何とか言ってたのも事実だ。――表向きはね」
「表……向き……?」
表向きも何も、それ以外に何がある。現にファルベははっきりと言われたのだ。お前はいらない、必要ない、と。
「あんたが自首した後、アタシはあんたがどうして追放されたのか、それを調べようと思ってね、色々話を聞きに行ったことがあるんだ」
「何でってそんなの決まって……」
「あんたは一度も、自分が追放された理由を疑ったことはないのかい? 本当に、奴の言い分が何の非もない、正しいものだと思っていたのかい?」
ラウラの言いたいことが分からない。当時ファルベは戦闘には参加できず、役に立たないと言われていた。それ自体は何も間違っていないはずで、どこを疑う必要があるのか。
「たとえあいつらのパーティーが『中級』に上がったとして、どうしてすぐにあんたを追い出す必要があるんだい? 中級冒険者として何年も活動して、資金を貯めているならともかく、昇格してすぐなんて『下級』だった時と資金はほとんど変わらないさね。それで新しい雑用係を雇ったって、そいつにちゃんと報酬を払えると思ってるのかい? あんたを拾った理由は、元手がなくても雇える人間が欲しかったからだろ? そんな切迫したパーティーがする判断として、本当に正しいものなのかねえ」
「それは……でも、それなら……どうして……」
「今すぐにでも、戦闘技能のない人間を外さなければいけない事情があったのかもしれないねえ」
ファルベの知らない事実を、知ったような顔して語るラウラに、困惑が隠せずにいるファルベ。
「その、事情って……」
「そうさね。順番に話していこうか。先ず、あんたは自分の所属していたパーティーがどうして『中級』に昇格したのか、その理由を知っているかい?」
「それは……普段の功績が認められて、昇格することになったっ……て……」
確か、ファルベがリーダーから離されたのは自分が追放される数日前。簡単な依頼ばかりだったが、達成した総数が他の冒険者より多く、街――ひいては国に対して莫大な功績をあげることができたのが、昇格する要因になった、と。
あの当時は一切疑うことなく、鵜呑みにしていたのだが、
「違うね。アタシも情報を収集しているときに聞いたけど、あんたのいたパーティーは昇格できるほどの成果を出していない。下の下、いやギリギリ下の中ってところか。あんた達の実力なんて実際はその程度でしかなかったんだ。それじゃあどうして、あのパーティーは昇格できたんだろうね」
ファルベは実際に戦闘に参加していなかったので、実際にパーティーメンバーがどういう功績をあげたのか、実績を得たのか、それを直接見たことはない。
忙しなく働く雑用の仕事で手一杯になっていて、周りが見えていなかったというのもその一因ではある。
朝から晩まで休みなく働いているのだから仕方がないと言いたいところだが。
だが、ギルドからの依頼をこなしていても大した功績がなかったのなら、どうして昇格できたのか。
「もしかして……『中級』に一気に上がるだけの大きな仕事をこなしたから……か?」
下級程度の冒険者ではそれほど強い魔物と戦えない。だが、下級より上に行けば、より強力な魔物を討伐対象とした特別な依頼を受けることができる。
それをもし仮に、下級の冒険者が偶然……本当に偶然、達成することができたなら、そのほかの実績に関わらず、昇格することができる。
下級の依頼の成果で昇格できていないのなら、そっちを達成したのだろうが、それは口で言うほど簡単なことじゃない。
『卑怯だよな? ギルドに朝早くから並んでさ。簡単な依頼を奪っていくなんて』
ファルベは、かつて言われた言葉を思い出す。そうだ。ファルベのいたパーティーは、簡単な依頼を他の冒険者から取られないようにしないといけないくらいのレベルだったのだ。
簡単な依頼でないと達成できない程度の実力だったはずなのに、そんな連中に中級冒険者が任されるような討伐対象と戦えるものか。
偶然、依頼関係なく遭遇することだってあったかもしれないが、その場合は一にも二にもなく、逃亡を選択する筈だ。
「厳密に言えば、違うけど……まあ、概ねその通りと言っても過言じゃないさね」
そんなこと、聞かされていなかった。知らされていなかった。もちろん聞く時間がなかったのもあるが、小耳に挟むようなことすらなかった。どうして、リーダーはそれをファルベに隠していたのか。
「具体的には、ここ――カリアナ王国を脅かす、強大な魔物に致命的な傷を負わせたことが原因で、昇格することが決定されたんだ」
「そんな……魔物なんて、いる筈が」
「いるんだよ。あんたもつい最近出会っただろう?」
この国を脅かす強大な魔物……五年前からいる、力の持った魔物。それと最近出会った。それは、つまり――
「あの森から出てきた巨大な魔物が、それだってのか」
「その通りだ。これがきっかけで、あんたは追放されることになる」




