裏切り
目の前が真っ赤に染まる……
始めは小さかった火は木造建築だったことで、みるみる周りに広がった。
家が炎によって包まれて壊れていく。
木は灰になり、屋根や柱はもろく折れてゆく。
絶望でしかなかった。
いろんな思い出の詰まった家が燃える……
僕は笑っていた。
引く染み、恨みの悪感情が合わさる、とても醜い笑み。
貴族はクズだ。
僕の大切なものを奪っていく。
「くそっ! くそっくそおぉぉぉぉ!
復讐、復讐してや……」
憎しみにとらわれようとしていた瞬間、母の言葉が頭をよぎった。
「苦しい時こそ笑顔でいなさい……」
「自分の子どもが母さんの命よりも大切って思っているからだよ……」
「同じような苦しい思いをしている人達を助けられるんじゃないかな……」
……そうだ、僕はたくさんの人を助けるんだ。同じような苦しい思いをしている人たちを。
母が残してくれたものは全て、メラメラと燃えている。
食料も、思い出も、お金も。
だけど伝えてくれた想いは心の中にある。
この数日間、母が僕に託してくれた。
それが貴族の策略によって潰されたのは許せない。
そう、こんな時だからこそだ。
あの混乱をもう繰り返さないために、母の思いを無駄にしてはいけない。
僕は落ち着き始める。
手遅れでもいい、家が丸焦げになってもいい。
今は家族で過ごしたこの場所を守りたい。
僕は近くに流れている川から水を運んで家にばらまいた。
それでも火の力は強い。ほとんど消化されなかった。
こんな少量の水じゃ消せないことくらいわかっていた。
ただ、家を守りたい、その一心だったので、諦めるという選択はなかった。
同じ行動を何度も何度も繰り返す。
「お願い、消えて……お願いします!」
祈りながら消化作業をすると、幸運なこと空から雨が降ってきた。
ザアアァァァァァ
弱かった雨はすぐに強くなり、家の火は徐々に小さくなる。
「ふぅぅ、よかった……」
家は真っ黒。
太い柱が二、三本日に耐え抜いて気高く立っていた。
原型の姿などほとんどない。
そんな中でも、この柱を守ることが出来た。
それだけで心は満足していた。
他に事故報告をすると、森林には日が移っていない。
火事を最小限に抑えた。
しんどい作業にひと段落するとおなかが「ぐうぅぅ」と音を立てた。
大きな音だったので恥ずかしけれど頑張った証拠と捉えたい。
おなかを抑えながら立つ。
家に入ろうとするがキッチンがなかった。燃やされたからしょうがない。
ならば焚き火をしようとするが雨が降っていて消えてしまう。
次いである問題に気付く。
食料だ。
家に全部あったからどうにもできないな……
一つ乗り越えて、また壁にぶつかる。
そんな現実に頭を抱え込んでいると頭がふらっとした。
そのまま目眩がして倒れこんでしまう。
体が重い……
貴族に家を燃やされたこと。
火を消すために頭や体を酷使したこと。
無意識に疲れ溜まっていたのだろう。
全身の力が根けて寝入ってしまった。
気づくと日は出ていないが辺りが明るくなっていた。
五時くらいかな……
目が覚めると昨日の事件は夢じゃなかったということを実感した。
家がやはり黒い。
雨がやみ、余計に火事の被害が分かる。
起きると川で顔を洗い、食料問題をどう改善するか考える。
家に食料が余っているか調べるも、全て灰。
家の周りも探す。
それは奇跡のように存在していた。
火事を早く鎮火できたことで近くにある倉庫が無事だった。
その中には食料もある。
とはいっても少ない。ヤリクリして一ヶ月持つか持たないかくらいだ。
もしセクアナが帰ってきたら二週間……
一日一食にしたら二カ月持つのか……
そんな生活で僕の体は健康を保てるか……
まだお金をどうやったら稼げるのか知らず、不安と焦りが高まる。
もういっそ家も燃えてしまったし、一人でどこかへ旅にでも出ようかな。
僕がいなくなればセクアナが苦しむこともないし……
そんなことも思いついたが、唯一の家族と離れる勇気がなかった。
差し詰め、今を生きるために食料を探すことにした。
帰ってきたセクアナに心配されるのはいけないからな。暴走した僕を助けてくれたし。
僕は山に登った。
ここは大自然。
動物や果物がたくさんある。
なにかはあるだろう。
置くまで潜って探し回る。
成果は木の実、数個。
これから空腹と戦う日々が続くことを思い知らされた。
今日の学校。
いつもと変わらず一人、ひっそりと過ごした。
ついでにいいニュースも。
セクアナが元気になり、久しぶりに学校へ来ていた。
セクアナはみんなを助けたヒーローだ。だから学校に来たら様々な人に感謝されていた。
教室に登場して、しばらくはすさまじい歓声だった。
「わーー、すごい。やっと元気になってくれた!」
「僕達の誇りだね!」
「自分の限界を感じながらもみんなを助けるなんて、まるで女神だよ!」
たくさんの人がセクアナの方に集まって褒め称えた。
この光景にはセクアナは驚いていた。
クラス中から囲まれたので顔を赤くしながら、とても喜んでいた。
完成のピークが終わるとみんな席に戻ろうと後ろを振り向いた。
大体の人が僕と目が合う。
今までキラキラしていた目は、急変する。
「あっ……目が合ってしまったよ」
「どうしよう、私呪われたかもしれない」
「同じ兄弟なのにセクアナちゃんと比べてあいつは出来損ないだな!」
小さな声で陰口を言われ、一気に静かになった。
苦しい空間だ。
「トモヤ! 久しぶ……」
「ねぇ、セクアナ、あっちでみんなと遊ばない?」
僕に話しかけようとしたが、友達によって遮られた。
少し前までセクアナの横の席だったが、休んでいる間に席替えがあり、僕は端。
セクアナの反対側になり、離れた。
学校では常に友達に囲まれていたことや、家にまだ帰ってこないこともあり、喋る機会がほとんどない。
今日も一人だから足早に家に帰ろうとする。
帰宅すると、サバイバル生活をしていた。
簡単な魔法の修行をしたら、食糧探しのために森へ入るのが最近の日課だ。
一応、修行にもなる。
森の中は障害物がいっぱいあるからだ。
草木を退けるために木刀で切り進んだり、不安定な地面を踏みしめて、どんな体勢でも攻撃できるようにしたり。
夜まで念入りに潜った。
だけど収穫は木の実10個くらい。
この事実はさすがにきつい。
家事全般は母に教えてもらったから、独り暮らしはちゃんとできる。
ごはんの炊き方はマスターしているつもり……
しかし、家事ができても無意味と思えるほど食べ物がない。
サバイバルはそこまで学ばなかったので余計に深刻だ。
そんな中だからこそ、子供の頃に作っていた工作がとても役に立っている。
特に懐中電灯は魔石がない今、とても嬉しい道具だ。
暗い夜もこれで明るくなる。
その光を見ながら今日の成果を自分なりに反省する。
この生活をこれからもっと良くしないといけない。
セクアナに心配かけないためにも。
目の前の晩ご飯はおにぎり一個と、見つけた木の実……それぞれしっかり間で蓄えた。
悪態をつきながら、耐える。
明日も忙しい。
食事が終わるとすぐに寝た。
約一周間が過ぎた頃、体が痩せた。
顔色も悪く、空腹をしのぐ日々。
とても大変だということを痛感した。
「うぅぅぅぅ……お腹すいた……」
今まで以上に顔色が悪くなり、お腹がすいて寝れない。
目次が悪いから、とても僕は恐れられた。
「ひっ!?」
「来たよ……あんな怖い目付き絶対危ない」
「早く逃げよ、近づいたダメよ」
足早に逃げるクラスメイト。
教室のドアを力強く閉めた。
まるで入ってくるな、近づくなと言っているように。
(はぁ、苦しい……)
一人で過ごすようになってからストレスや不満んがだんだん積もってきている。
今日までどうにか耐え忍んでいた。
耐えようと努力していた。
全てはセクアナが帰ってきて心配させないために。
また一緒に暮らせる、そう信じていた。
ただ、それは幻想でしかない。
溜まったストレスや不満。
空腹による苦痛。
その抑えていた憎しみの感情は、ある光景を見て抑えきれなくなった……
今日は日直ということで、いつもよりかえりは遅くなる。
しんどいし、ゆくっり帰ろう。
綺麗な夕焼けの中、そんなことを考えながら歩いていた。
「じゃあ、この馬車に乗れ!」
「はい、分かりました」
夕暮れに見惚れていると、聞くだけで吐き気がする、カールの声が聞こえた。
ああ、立派な馬車で学校までお迎えですか。いいですね、貴族は楽できて。
どうせ夜はたくさんの豪華な食事が並んで、お腹いっぱい食べるんだよな……
愚痴をこぼして、自分の黒い感情を抑える。
……え?
ふと、貴族が乗ろうとしている馬車が気になり始める。
カール意外に聞き覚えのある、いや、いつも横にいてくれた大切な人の声が……
「わざわざありがとうございます、貴族様。この私がこんなきれいな馬車に乗ってもよろしいのでしょうか?」
「ああ、お前には大事な用事がある。いいから乗れ!」
「またまた、大事な用事だなんて嬉しいな!」
セクアナは笑っていた。楽しそうにカールと話していた。
困惑して、しばらく状況が理解できなかった。
「うっ……嘘だろセクアナ……」
そんな声も届かず、嬉しそうに馬車に乗って去る。
何で……何であんな奴に笑顔で付いていけるんだ!
友達を、お母さんを、思い出を、僕のすべてを奪ったクズな奴らにどうして……
まさかお前も裏切るのか。
いや違う、僕は信じていたセクアナにも裏切られたのだ。
この思いが強くなるにつれ、あの時のように魔法が暴走しそうになる……
はぁはぁ……落ち着け!
また同じような事件を繰り返すな!
自分の存在が危険と感じて、すぐに学校かを離れた。
森の奥深くへと走る。
くそっ、くそおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
ドッカン! ビリビリ!
感情が高まり、暗い暗い中、真上に向かって特大の雷が打ち上がる。
誰にもバレない所ではあるが危ない状態だった。
何かをぶっ放して気持ちが落ち着いた。
とはいってもセクアナのあの笑みを忘れられず、怒りの感情が湧く。
信じてたのに……ずっと信じてたのに!
あの言葉も嘘だったんだな。
この世界を救う……なにが女神だ。
権力に屈して結局誰も助けない、臆病者が!
ああ……誰も信用できない。
この時、僕は目つきを変えてこの世界、全てを憎むようになった。




