子どもへの想い
自分の部屋から出ると、魔石の光が眩しくて目をしっかり開けられなかった。
後ろを振り返ると、部屋の中は暗い。
相当、思い詰めていたことが分かる。
母が晩ご飯の準備をもう終えて、座っていた。
「早く食べましょう、冷めてしまうよ」
僕も椅子に座り、食べ始めた。
食事はとても静かだった。
母は何も聞くことはなく、黙々と食べていた。普段ならとても気まずいが今日はなぜか心地よかった。
あまりに静かで、外から吹く風の音や夜に奏でる鳥のさえずりなど、自然を感じれた瞬間だった。
とても落ち着ける……
体がリラックスされる。
すると、トントンとドアをノックする音が聞こえた。
「はーい、たぶんセクアナね。お母さんが出るからしっかりご飯を食べなさい」
そう言いながらセクアナを迎えに行った。
「おかえり、セクアナ……」
元気よくドアを開けていたが、途中から疑問に思う喋り方をしていた。
どうしたのかと、様子を見に行こうとする。
玄関には誰かのお母さんが僕の家に来ていた。そして暗いトーンで僕のお母さんに何か伝えていた。
「夜分にすいません。その、実は、セクアナちゃんのことで来まして……セクアナちゃん、たくさんの人を助けるために魔法を使いすぎて、倒れてしまいました……」
「えっ、本当ですか! 娘は、セクアナは無事なんですか?」
倒れたことを聞いて、声を大きく張り上げていた。
「はっ、はい、セクアナちゃんは無事です。娘の友達だったので、今は私の家で寝かしているので安心してください」
母はセクアナが安泰なことを聞くと、強張っていた体から力が抜ける。
手を胸に当てて安堵していた。
「ふぅー、良かった」
「はい……あっ、すいません申し遅れましたが私はセクアナちゃんと同じクラスのチアキの母です。
でっ、その……いきなりの提案なんですけど、しばらくお預かりしてもよろしいですか?」
母はしばらく止まっていたが、言葉の意味を理解してすぐに反対した。
「いやいや、そんな迷惑かけられません」
「全然迷惑なんかじゃありませんよ。セクアナちゃんは私の命よりも大切な娘を助けてくれたんです!
これくらいの恩返しをさせてください、お願いします!」
母に頭を下げて頼む。
急にそんなことをされて驚きながらも、母は内心、セクアナの成長に喜んでいるように見えた。
チアキの母の両肩に手をのせて優しく言う。
「頭を上げてください、じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「はい、責任を持って看病します! 本当にうちの娘を助けて下さり、ありがとうございました!」
「いえいえ、その言葉は私ではなくて、目覚めたセクアナに行ってください!」
元気よくチアキの母は返事した。
セクアナの話が終わると、
「それにしてもお子様が大好きなんですね!」
「えへへ、そうなんですよ。そんなことを言うあなたも大好きですよね。話していたら分かります」
気づくとママ友会が行われていた。
母は同じようなことを話せる方と出会い、ご機嫌のよう。
お互いの子どもの話をしている後ろで、僕は茫然と聞いていた。
「それにしても子どもって本当に親の気持ちを分かっていませんよね」
「本当、そうです」
母はため息をつきながら、
「いつも選択や料理などの家事で疲れます。なのに、そんな苦労を知らないで、うちの子達は修行をして家を汚したり、物を壊したりするんですよ。そんなのが続くと、お母さんの気持ちも考えて、と思うんですよ」
「そちらの家も大変ですね。私の家は嫌いな食べ物を残したり、おこったら、対抗してすぐに口喧嘩になったりするんです!」
ん? 途中から子どもに対して、お互いに愚痴をこぼし始めたぞ。
一応、近くに子どもいますが……
「子どもは私たちの気持ちなんて考えてくれない……」
「そうですよね」
しばらく愚痴をこぼしてお互いにスッキリしたようだ。いつの間にか二人とも優しい目をしていた。
「……でも」
「……でも」
「私の子どもでいてくれて本当に良かった!」
同時にそんな言葉を言う。
「やっぱりそう思いますよね」
「ええ、母親はそういうものよ。トモヤやセクアナのことを考えると、胸が温かくなるの」
「そう、温かくなります。たくさん起こった入り、嫌われたり、疲れる事があっても、家族みんなで一緒に楽しく暮らしていることを思い出すと嬉しくなります!」
「どうしても、何かしてあげたくなってしまうのよ」
そこには、愚痴をこぼし合っていた二人はいなく、子どもへの愛を語り合っていた。
ああ……苦しい。
母がこんなにも僕達のことを思っているとは知らず、胸が締め付けられる。・
僕はなんてことをしたんだ。こんなにも愛のある人たちの宝物を魔法が暴走して傷つけてしまった。もしかしたら殺しているかもしれない……
やらなくちゃ、今の僕にできる事をしないといけない。
思いが強くなると、勝手に体が動いていた。
母のもとに行くと、
「すいませんでした! 僕のせいでチアキさんを危険な目に遭わせてしまって!」
いきなり僕が来たから、しばらくチアキの母は混乱していた。
「ああ、えっと……私は全然大丈夫ですよ。セクアナちゃんが助けてくれたから。でも、ありがとう、わざわざ謝りに来てくれて!」
「すいません、僕の心が弱かったせいでこんなことになってしまって……
とても迷惑をかけました」
僕の姿を見て、母も僕と同じように頭を下げてくれた。
「ええっ!? うちは本当に大丈夫です。いきなりこんなことされても、困惑するだけなのでやめてください!」
言われた通りに頭を上げる。
その後は、しばらくセクアナのことを話していた。
もちろん僕は置いてきぼりで。
ふっと母が一息つく。
話が終わったようだ。
「すいません、お騒がせしました」
「いえいえ、こちらもセクアナのことをわざわざ言いに来て下さりとても感謝しています。ありがとうございました。暗いですけど、危なくないですか?」
「家はここから近くなので大丈夫だと思います」
後ろを向いて帰る間際、「あっ」と声を上げて振り返られた。
「トモヤ君だっけ? 君は雷魔法で大変かもしれないね。でも君はとても優しい子だよ。自身持ってね!」
僕に手を振りながら帰られた。
ちゃんと内面を理解してくれる人だったな。暴走してもこんな人がいると知って、感動した。
次いで、ある覚悟を決める。
「お母さん! 僕、怪我をさせた人たちと向き合いたい。たくさん苦しい思いをするかもしれない、罵倒されてしんどいと思う。でもちゃんと謝りたい!」
僕の言葉を聞くと、にっこりと笑ってくれた。
「それならお母さんも手伝うよ」
「いや、お母さんはやめて。僕のために傷つかないで」
「いいのよ、私は傷ついても。私よりトモヤが今日みたいに悲しんでいるほうがお母さんは悲しいな。こういう時はお母さんを頼りなさい!」
頭をポンポンと撫でてくれた。
「お母さん、お願い……」
不安な気持ちもあり、自信を持って言えなかった。そんな時でも母はたくましく、胸に手を当てて、
「任せなさい!」
母の声に少し自信がつく。
次の日になった。
学校があり、正直休みたかった。
でも逃げているようで嫌という変なプライドがあり、休まなかった。
昨日の事件は学校中に広がっていた。
虐めや陰口を言われなかったが、教室に着くまで僕の5メートル圏内に誰も入ってこなかった。
みんな僕を恐れて近づかない。
僕と目が合うだけで、泣いている低学年の子もいた。
いつも隣にいてくれたセクアナは魔法の使いすぎで倒れているし、カナメたちにも見放されて独りだ。
母が僕のことを信じてくれているから嬉しかったが、学校では独りになってしまうから苦痛になる……
教室に入ると、会話が止まってとても静かな沈黙が訪れる。
そして僕の姿を見るとぞろぞろと離れ、教室の隅に行くと再び話を始また。席もちょうどど真ん中だったから周りの人、全てから机を離される。
孤独の気持ちはさらに強くなった。
昨日まで普通に話していたホノカやカナメはお互いに気まずいのか、二人とも別々の友達と話していた。
昨日の出来事によってみんなの絆は崩れ去ったていた。
先生からは何も言われず、今日の一日を終えた。
居場所のない教室から足で家に帰る。
母は休みだったらしくて、帰るとはにかみながら迎えてくれた。
「おかえり!」
「うん、ただいま」
学校はいつも以上に苦しかった。
改めてセクアナが隣にいてくれるありがたみを知った。
帰ると、すぐに準備して、迷惑をかけた人に謝罪する。
全ての人を覚えているわけではないが、自分の記憶や、先生にも協力してもらい、約二十件くらいの家に謝りに行くことになった。
ついでにいいニュースも聞いた。
誰も死んでないということを。
僕の魔力が弱かったのか、セクアナが必死で回復魔法をかけてくれたおかげか分からないが、そのことを聞いて僕と母はほっと胸をなでおろす。
「さぁ、準備は出来た?」
「うん……できたよ」
出発の字準備は整う。
そんな中、僕の心から自信がなくなり始める……
「大丈夫、トモヤは独りじゃないよ。何があっても守るから安心して!」
「うっ、うん」
母に寄り添ってもらいながら、たくさんの家を周る。
まだ日が照っている時間だったので、明るいうちにたくさんの家を訪ねた。
コンコン
「すいませーん」
「はーい」
いざ目の前にすると、心が落ち着かなくてほとんど母に任せてしまった。
中から女性の声がして、ドアが開けられた。そしてこの家のお母さんらしき人が出てきた。
「この度は息子さんに怖い思い、ひどい怪我を負わせてしまって申し訳ありませんでした」
「も、申し訳ありませんでした」
出ると、すぐに頭を下げたので驚かしてしまった。
しばらく体が硬直するも、すぐに冷静になったようで僕たちのことを受け止めてくださった。
「あの……もしかしてあの事件を起こした方ですか?」
「はい……本当にすいませんでした」
「ああ、そうですか……」
少しの間、沈黙が訪れる。
この何もしゃべらない時間はとても恐ろしい。
魔法の暴走に巻き込んでしまったから、どんなことを言われるか分からず、体を震わしていた。
「うちはとても元気なのでいいですよ」
その一言で、震えが止まる。
「確かに機能の事件のせいで、怖がっていましたが、いまは逆にとてもすごい魔法を見れて、もっと頑張らないとって努力しています。新たな盗子の成長を見れて私はとても嬉しいです。だから、謝りに来てくださりありがとうございました!」
自分の罪を許してもらえた時、人はここまで嬉しい気持ちになるんだな……
話も終わり、次の家へ行った。
だが、今のように簡単に許してもらえるほど世の中は甘くはなかった。
三件目を周り終えて、今日は次の家が最後だ。
僕をを見ると怖がられて、僕を遠ざけて母だけが謝るようなこともあったが、平和的に解決した。
僕一人だけじゃなくて母もいたおかげで、というかほぼ母が積極的に僕をリードしてくれるから、感謝しかない。
「次で今日は最後だよ。トモヤ、下手くそでもいいから笑顔を向けて、いい印象を与えるんだよ」
「う、うん……笑顔だよね……頑張るよ」
母にアドバイスをもらっている間に、家の前まで来ていた。
「すいませーん、誰かいますか?」
何も反応がなかった。
「すいませーん、すいませーーん!」
「うるさいわね!」
怒鳴るような声が中から聞こえてきた。
強くドアが開けられる。
「今は家事や息子のことで忙しいの、邪魔しないで!」
この家の母は僕たちを睨む。
とても怖い顔をしていた。
「それは申し訳ありません。雷魔法の暴走を引き起こしてしまった謝罪に来たのですが……少し時間はありますか?」
その一言を言った瞬間、パチンッと大きな音が鳴り響いた。
母の右頬が赤くなっていた。
「あんたが、あんたが、いやあんたの息子のせいで……いまさら何しに来たんだ!」
「本当に、すいませんでした!」
「すいませんでした……」
僕達は深々と頭を下げたが、それだけでは許されない。
まぁ、これが普通だよね……ひどい目に遭わせたんだから。
「お前の、お前のせいでうちの息子がどれだけ塞ぎ込んでいるか!
いつも明るくお母さんって呼んでくれた息子が部屋から出てこなくなったのよ! よく怖い怖いって言って……幸せな日々がお前のせいで潰されたんだ!
この……悪魔!! 汚らわしい悪魔が私達に近づくな!」
……悪魔………
………悪魔!!
脳裏に何度もその言葉が繰り返された。
頭が狂いそうになる。
急に黒いもやのかかった、たくさんのひとたちに囲まれているように錯覚する。
下を向いて僕が帰ろうとすると、まさかの声に目が開いた。
「取り消してください……」
「はぁ? さっさと消えて!」
「お願いです、取り消してください……」
母は静かに言い返す。
「なんだよ、その目は。そう思えばあなたはこの悪魔の母親だそうね。やっぱり悪魔なんて生んだ母親も出来損ないですね!」
僕の頭に一気に血が上った。
僕だけならいい、でも母が侮辱されることに耐えれるほど僕の心は出来ていない。
地面を蹴り、一歩踏み出そうとしたが、動けなかった。
母は土下座をしていた。
僕のためにやってくれた。
どうして、どうしてそこまでやれるの……
「お願いです……私の息子を悪魔と呼んだことを取り消してもらえませんか?」
まさかの行動に相手もびっくりしていた。
ずっと強い口調で罵っていたが動揺する。
むしろ怯えているようにも見えた。
「悪かったわね……」
小さく謝ってドアが閉められた。
日も暮れ、薄暗くなっていく中、憂鬱な雰囲気で家に帰ろうとする。
「ふぁー、最後の人は相変だったね!」
明るい声で両手を上にあげ、背伸びをしていた。
「どうして……」
僕のためにあそこまでの行動をする人を今までに見たことがなく、疑問しかなかった。
「ん? 何か言った?」
「どうしてあんな行動ができるの!
嫌なこと言われたのに対抗せず、僕のために土下座なんて!」
「フフフ、トモヤは分かってないな……
そんなのトモヤが大好きだからだよ!」
強い風が髪を揺らす。
心が温かくなった。
親の温もりを今まで知らなかった。
前世でもおじさんおばさんに育てられた。
早くに死んでしまって両親の記憶などない。
そんな何も知らない空っぽの僕に、母は愛情を教えてくれた。
ヤバイ、感動して泣きそう……
気恥ずかしくて表面には出せない。
「お母さん、さすがにあれはやりすぎだよ……自気持ちは嬉しいけど、僕にはお母さんにも傷ついてほしくないんだ。
あと、ごめんね……お母さんにほとんど任せちゃて……こんな弱い僕なんかが魔法騎士なんてなれるかな……・」
自分の意気地のなさ感じてネガティブになっていた。
「違うよトモヤ、そういう時はありがとうって言うんだよ! 謝るより感謝されるほうが嬉しいの」
「アハッ、アハ、そうだね。ありがとうお母さん!」
「それに魔法騎士には絶対なれるよ!
なぜならトモヤはとっても優しいじゃない! 今だってお母さんが悪口を言われると注意しようとしてくれた」
「いや、僕はそんな人じゃ……そのせいで魔法が暴走してたくさんの人を傷つけた。今も注意じゃなくて暴力で解決しようとしたし……」
「そんなことない。たくさん人を助けているよ。ほらっ、前もお友達を助けていたじゃない」
「でも、僕は弱い。皆からも嫌われているからどうにもできないよ」
「確かに力がある人は大抵のことは出来るね。でもトモヤはたくさんの苦しみや、辛さや、自分の弱さを知っている。
そういう経験をしているからこそ、同じような苦しい思いをしている人を助けられるんじゃないかな。
強さとは力がすべてじゃない。
思いやりや優しさで、周りの人を幸せにすることが本当の強さだとお母さんは思うな!」
日の落ちる真っ暗な中、母の笑顔だけが輝いていた。
星々がきれいに輝く中、反射によって光る道を歩く。
いつもはセクアナもいるが、二人だけだから不思議な感覚だった。
「あっ! お母さん顔に泥がついてるよ。今日はお風呂、僕が入れるからゆっくり休んで」
「……はぁ、いまいいこと言ったのに、話切り替えるの早く気がするよ。ちゃん聞いてたのかな?」
ちゃんと聞いているに決まってるよ。
あんな嬉しい言葉……
家に帰り、お風呂を沸かした。今日は一番に入ってもらわないと。
ちゃんと疲れを取ってほしいな……
「そろそろご飯ができるから、入ってきなさい!
「はーーい」
お風呂の準備を整えて机に座った。
「あれ? お母さんはご飯食べないの?」
「ああ、うん。ちょっとダイエット中だから今日はいらないかな」
そう思えば、いつもの食事より今日は少ない気がする。
それに昔に比べると母の腕が細い気が……
軽く考えており気にせず食べ続けた。
「明日はトモヤは学校休みだよね。¥おかあさん、明日仕事だから謝りに行くのは出来ないね。けど、セクアナがいない分、何もできないトモヤにはしっかり家事を教えないといけません。明日は覚悟しておいてね!」
「うっ……はい……」
すこし母の目は怖かった。
厳しく指導されられそう……
それを言うと、母はすぐにお風呂に行ったから、何をするのか教えてくれなかった。




