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雷魔法が最弱の世界  作者: ともとも
17/22

お母さん

私は取り巻きの男たちに殴られると思い、咄嗟に目を瞑っていた。


だけどいつまでたっても痛みを感じない。

びくつきながらもゆっくり目を開くと、衝撃の光景が広がっていた。


私を殴ろうとしていた男性たちは黒く焦げている。この三人だけならよかったのだがけど、他にもたくさんの人達が倒れていた。


その中心にトモヤがうずくまってる。


その姿を見て何が起こったのか分かった。


雷魔法が暴走してしまったのだ……


私はトモヤに手を差し伸べようと前に出した。


何か、何か言って助けないと。

そう思ったが私の弱い心では、何も言い出せなかった。


大丈夫、気にしないで。


そんな言葉、トモヤの気持ちが分からない私には無責任で言えない……

いつの間にか差し伸べようとしていた手は下がっていた。


でも、今やるべきことをしないといけない。


すぐに行動へ移した。


まずはホノカとカナメの怪我を治さないと。

そう考えるとすぐに私は二人のそばに行く。


回復魔法はトモヤに何度もかけていたから慣れている。

だからどんな怪我でもすぐに治せるようになっていた。


「はっ!」


深く負っていた傷はほとんどに癒えた。

ただ、カナメのおでこに跡が残り、ホノカは右頬に切り傷が残った。


何度も魔法を使ったが、この傷跡は消えなかった。


「大丈夫! 二人とも!」


私の叫びに気づいた二人は震えながら起き上がる。


「あれ、痛みが消えている。セクアナが治してくれたの?」

「痛かったよー! セクアナ」


カナメは冷静だった。それに対してホノカは、痛みを耐えた時の弱音が一気に来たのか、大粒の涙を流していた。

力強く私に抱き着いてくる。


「よく頑張ったね、ホノカ。よかった、無事で!」

「ぐすん、うん……」

頭を撫でて慰めた。


二人の声を聞いて、うずくまっていたトモヤも立ち上がって、こちらへ来た。

「良かった……生きていてくれた……」


しかし、トモヤの姿を見た瞬間、目の色を変える。

「ちっ、近寄らないで!」


ホノカの発言にトモヤは固まっていた。

目を見開いた後、失望する。


ホノカは恐怖に支配されて、まるで化け物を見るような視線を向けた。


意識がもうろうとする中で、暴走したところを見ていたんだろうな……


「ごめん、トモヤ……もうあなたとは一緒にいれないよ……」

そう言いながら後ろにゆっくりと後退りする。

距離を取ると、涙を流して走り去っていった……


カナメもトモヤの方に近づく。


「トモヤ、ごめん……あれを見たら僕も君のことが怖くなった。ちょっと距離を保たせてくれ……」


その一言だけ言うと、ゆっくり歩きだす。

サッとトモヤの肩をすれ違って行ってしまったしまった。


トモヤはドサッと音を立てて膝をつき、また四つん這いの姿勢になる。


泣いていた……



今までにそんな姿を見たことがない。

どんな苦しいことがあっても耐え抜いていたトモヤが、小さな声で泣いていた。


私のせいだ。私が事世界に呼ばなかったらこんな苦しい思いをしていなかったのに。


私は今のトモヤを助けるほどの言葉をかけれない。


でも少し安心してくれると嬉しいな。

そう小さく願って言う。


「トモヤに誰も殺させないよ。私が全員の命を守る。だから一人で考え込まないでね!」


肩に手を置いて伝えると、私は倒れている人たちの元へ行った。





僕は暗闇の中にいた。

どこまでも続く真っ暗な場所に。


衝撃的な出来事が多すぎて頭が混乱しているのだろう。

悲しい現実を目の当たりにして無力になり、その場所に孤独で座る。


ああ、このままここにずっといるのかな。

誰にも邪魔されず、静かに死ねるのならこのまま……


そんなことを考えていた時、一筋の光が差し込んだ。

誰の言葉かわからない。

何を言っているのかも聞き取れない。

だが、その光はとても眩しく、暗闇は晴れた。


意識が戻ると広場にいた。


目の周りには涙の跡が残り、手や服がドロドロになっている。


そして正面には、セクアナが頑張って、たくさんの人に回復魔法をかけていた。

前の記憶の時より倒れている人は少ない。

自分の不甲斐ない姿に苦しくなる。


僕はとぼとぼと、思い足を動かしながら家に帰った。


この日からうまく笑えなくなった……



家に帰るといつも遅くに帰ってくるはずの母がいた。


「おかえり!」

笑顔を向けて僕の方に寄ってくる。


やめて、こないで……


母に自分のやってしまったことを話すのが怖くて、自発的に後退りしていた。


「あーあ、またこんなにも服を汚して帰ってくるなんて。今からお風呂を沸かすからきれいに洗いなさい」

「なんで、どうして家にいるの……」

「ん? なにか言った?」


はぁはぁはぁ……はぁはぁ!


心拍数が上がって呼吸がしんどい。

そんな優しい顔でこっちに来ないで。

やめて。

もうだれも信用できない。


今の状況に我慢ができず、僕は母を押しのけて自分の部屋に閉じこもった。


「えっ、ちょっと! どうしたの?」

自分のこんな姿を見るのは初めてだったから母は戸惑う。



部屋に入った途端、僕は耐えようと頑張っていた感情が噴き出した。


体操座りをして縮こまる。



ああ苦しい。今まで一緒にいてくれた友達が去っていった。

伝承の通りに魔法が暴走してしまった。


僕は人殺しなのか……


そう考えた瞬間ホノカとカナメが血まみれで倒れていたことが鮮明に浮かぶ。

自分の手に赤い血がついている幻覚が見えた。


やめて、やめて……

違う、僕はやっていない!


また酸素を取り込めなくて、過呼吸になる。


「はぁはぁ、げほっ!」


自然と涙が流れていた。


「助けて……ねえ、誰か助けてよ!」



真っ暗の中、独り苦しんでいると、キキキっと音が鳴ってドアが開いた。

見ると母が立っていた。


怖い、近づかないで!


そんな風に思っていると、母は僕に近づこうともせずその場に座った。しばらく何も言わずに僕が落ち着くのを待ってくれた。


「はぁ……はぁ……」

「落ち着いた?」

「う、うん……」

「何かあったんでしょう、お母さんに話して」


しばらく僕は黙り込んだ。


母なら信じてくれると思ったが、やっぱり怖くて言えない。


「なにがあってもお母さんトモヤのことを受け止めるよ。あなたは息子だもの。だから絶対に見捨てたりしないわ」


その言葉を聞いても、まだ言い出せなかった。

今までずっといた二人に見捨てられたことを思うと、同じようなことになるのではないかと想像してしまう。


「大丈夫、ずっとそばにいる」


怖い、苦しい、しんどい。

母も巻き込んで悲しい思いをさせるなら一人で考え込む方がいいかもしれない。


でも母は温まる言葉を言ってくれた……



僕は母を信じることにした。

勇気を振り絞って、今日起こったこと話す。



「そっか……」


喋り終わると軽く返事をして母は僕を抱きしめる。


母は手を震わせて、僕と同じように泣いてくれた。


「よく、よく頑張ったね。

よく一人で耐えたね。

苦しかったね。

辛かったね」


優しい香り。

胸に抱きよせられて、暴走した時に芽生えた黒い感情がだんだん消えていくように感じた。


「トモヤは私のとても、とても大切な子ども。

何があってもあなたを守る」

母の顔を見ると、目を潤ませながらも笑っていた。


僕は、まだ一人じゃないんだね……



いくら慰めてもらっても不安はたくさんある。

自分を落ち着かせるために、たくさん相談した。


「ずっと、ずっと、僕のそばにいてくれる?」

「そんなの当たり前じゃない。この世に生まれて独りぼっちなんてことは絶対にない。いつかトモヤにも仲間ができる。その時までお母さんはそばにいるよ!」


「でも、お母さんに迷惑をかけてしまった。

また、雷魔法が暴走したりすることもあるかもしれない。こんな僕でも仲間は出来るのかな?」


「大丈夫よ、トモヤはとても優しい子だから。どんな強大な人でも友達を守るために立ち向かったじゃない。そして、誰かを守るために、苦しい修行を続けているよね。お母さんはトモヤのことを誰よりも見てきたの。仲間は必ずできるよ、お母さんが保証します」


落ち着く声だった。

不安に思っていたことが徐々に解消される。


「雷魔法は暴走しないようにお母さんが止めるから安心して」


「僕はお母さんの言っているような人じゃないよ……」


「トモヤ……」

母は僕の肩に手を置いた。


「てい!」

「ぐふっ、げほげほ! 痛ったあぁぁぁ! いきなり何するんだよ!」


肩に置いていた手は両方が首にドンっと衝撃を与えた。

首に当たったこともあり、呼吸を一瞬だけできなかった。


「ぷっふ、あはははは」


「えっ、なんこれ……」


普通はいろんなこと言って僕を慰めてくれるっていう感動的なやつじゃないの……


苦しんでいる時、いきなりどつかれて唖然としていた。


「そんなずっとマイナスなこと言うのは、トモヤじゃないよ。ほら、面白い発想をして、雷魔法が大好きで、それ以外のことは何もできないトモヤにそろそろ戻りなさい」


確かにいつもの僕ではなかった。

まるで何かに取り憑かれていたような。


でも、さすがにこの仕打ちは酷くない?


「トモヤ、今はとても苦しんで、しんどくて、大変なのはわかる。そんなトモヤにおまじない!

これはあなたのお父さんが私に教えてくれた言葉なんだけど……苦しい時こそ笑っていなさい」


始めは何を言っているのか分からなかった。


「笑顔でいると自分だけでなく、他の人も幸せになる。それに笑っていると楽しくなるよね。世の中、笑っている人が一番強いのさ。だからトモヤも笑おう! 

一緒に大笑いして苦しい気持ちを吹き飛ばしちゃおう!」


「ふっ、何それ……」

「お母さん真面目に話しているのよ」


こんな話をしていると何もかもが馬鹿らしくなってきた。


大笑いとは言わないが小さく笑えた。


母は真っ直ぐ僕の方を向く。


「まぁ、笑えてよかった。お母さんはトモヤの気持ちは分からない。

でもね、私も貴族のお父さんと結婚したから似たような思いをしたことがあるの。

そんな時にお父さんが笑っていなさいって言ってくれたわ。この言葉に助けられて、いまの私がある。

だから、これからも笑顔でいてね!」


母も僕と同じような経験をしていること聞いて、心に響いた。


「うん……!」

まだ声は落ち込んだような悲しい声で、うまく笑えていなかった。

でも、できる限りの笑顔で言った。


その笑顔があまり不気味だったようで母に大笑いされことは、ちょっと、頭に血が上ったけれど。



「さて、そろそろご飯が炊けるよ。セクアナは帰ってきていないけど、食べましょう!」


母は立ち上がって廊下を歩いて行った。

後姿はとても気高くカッコいい。


苦しみや友達がいなくなって寂しい気持ちがなくなったとは言えない。


でもお母さん……ありがとう!


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