第67話 豹変
「なんだこりゃ…」
オニマルが降りた場所で見たものは、足元に嘔吐物が溜まっているのでおそらく吐いたであろううずくまっているミラ。それに半分竜化しているシェン。もはや人でも竜でもないほど気持ち悪い姿になっている。そのそばにはぐったりして座り込んでいるシエラ。他の2人に比べればまだマシだが、それでもかなり疲労が溜まっているのは見てわかる。
そしてオニマル、カルロス、エオラが1番驚いたのがミラ達の3人がそれぞれ持っていたであろう武器が胸に刺さったまま血を大量に流して倒れているソーマだった。
「い、いやーー!」
たまらずエオラが悲鳴をあげながらうずくまる。さすがのオニマルとカルロスも動揺を隠しきれなかった。
「オニマル様…これはあまりにも…」
「…だから言ったんだ。お前らは帰れってな」
実はオニマルだけだが何となく上空から様子は見えていたのだ。そして半分竜化したシェンを見つけたときに他の竜達に見られないように帰させたということなのだ。
「あ…オニマル」
オニマル達に気が付いたシエラがか細い声を上げる。それを聞いたオニマル達は状況を聞くために慌てて駆け寄る。エオラは既に色々と吐きながらうずくまっているのでひとまず放置した。
「シエラ様…これは一体どういう状況ですか?」
シエラはここであったことを1つ残さず話した。シエラ的にも自分達がソーマを殺したという事を伝えるのは辛かったが、伝えた。
「そうか…それはしょうがないというか…ソーマ様がどう思うかだから俺たちは関係ないな。実際どうなんだ?殺されたソーマ様は最後清々しかったのか?」
「…うん」
「そうか…ならいい。カルロス!至急全員を城に運ぶぞ!」
オニマルは殺されたソーマを埋葬まどしなければならないと考えているのでひとまず全員を城に送らねばならなかった。半分竜化していたシェンも今は疲れたのか竜人に戻って気絶している。
「さて…どうやってみんなに説明するかな…」
元々脳筋派のオニマルは頭を抱えながら全員を竜化したカルロスにのせて運ばせながら悩むのだった。
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「…あれ?」
俺が目覚めた場所は死んだときにいつも来る精神の部屋ではなく、俺の部屋だった。
「いつもみたいに生き返るのは精神の部屋じゃないのか」
いつものように精神の部屋でルシファーと話してから戻るものだと思っていたので少し違和感を感じだ。というより、最近まったくルシファーと精神が繋がらないのだ。最悪俺の精神と離れた可能性があるのであまり触れないようにしてきたが、ここでいきなり恐怖を感じた。
「む。起きたか魔王よ」
「…え?」
確かに俺が起きたのはリアンの俺の部屋。だが、俺の周りには結界が張られ、周囲にはシェン、ミラ、シエラの3人のみならず、ユカリを抜いた4神が立っていた。
今俺に向かって「魔王」と言ったのはシェンだ。そして顔を見るに明らかに俺に敵意を向けている。
「おい、これはどういう状況だ?なんで俺が捕まってるんだ?」
「黙れ魔王。これからお前はここリアンで人生を終える。それまで黙っていろ」
なぜかシェンがずっと敵意を向けてきながら話している。まったく内容を理解できない。更に俺に敵意を向ているのはシェンだけでなくここにいる全員が一緒だった。
「だからなんでこんな事になってるんだよ!」
「うるさいですよ魔王。そんなに状況が知りたいならまずは自分の体を見てみたらどうですか?」
ミラから言い方はシェン程厳しくはないが、それでもいつもに言葉遣いからすればきつい助言を浴び、自分の体を見てみると、そこには異様な体をした俺がいた。
異様というほどではないのかもしれない。だが、今の俺にはそういう表現をするしかなかった。まず俺の体の半分が肌がどす黒く染まり、赤い模様が出来ている。
それだけだが、俺にとってはかなりショックだった。さすがに顔は見えないが、おそらく顔も半分ほどが染まっているのだろう。染まっている場所がものすごく熱いのだ。
「なんだこれ。なあ、シェン。俺に何が起こってるんだ?」
「気安く我の名前を呼ぶな」
もはや何もヒントすら出してくれなくなった。一生懸命状況を整理するが、一向にこれといった結論が出てこない。
まず第一にこのシェンたちの態度の変化の原因があの村の結界だったとしたら、ここにいるオニマルたちには影響はないはずなのだ。しかし、オニマルたちも俺に敵意を向けているので村の結界は違う。
そうなると考えられる要因はもう俺の体の変化しかない。以前ルシファーが精神をつなげられていた時に言っていた。「魔王化には気を付けて」と。
あの時はまったくピンと来なかったが今ならはっきりわかる。このどす黒い肌と、赤い模様が魔王化なのだろう。そして、確定ではないが魔王化には無条件であらゆる生き物に適応されるかは不明だが、敵対化させるようなそういった系統の言わば呪いのようなものがあるのだろう。もうそれしか考えようがないほど俺の頭は混乱していた。
「どうした魔王。もう質問は無いのか?だったら処刑の時間まで懺悔でもしていたらどうだ?」
「なるほど…。懺悔か。そうだな。それじゃあちょいと懺悔してくるよ!」
俺は辛うじて動かせる体を使って、結界を破り、転移した。この張られている結界は俺の張る結界よりも弱いが、魔法学校で使われている結界よりは強い。多分結界魔法の中で最上位と呼ばれる〈断絶〉という魔法だろう。
俺が転移した先は城塞都市アレンの冒険者ギルド、ギルドマスター室。このほかにも候補はいくつかあったのだ。
まず魔神という線からユカリを当たろうと思った。だが、村の結界がキーではなく俺の体がキーならたとえ今ユカリがいる場所をつかんで転移したとしても、ほぼ確実に敵対してくるだろう。なので却下になった。
次にもし魔王化している魔王に耐えられる人がいるのならそれは王会議に平然と出席できる魔王以外の十王だろう。なので聖王であるアレクサンダーさんを当たろうと思った。だが、十王が魔王に敵対化しないのなら、剣王、英雄王、竜王であるミラ、シエラ、シェンの3人が敵対する理由が分からない。なのでアレクサンダーさんのところにいっても敵対されるだろうし、もし敵対しなかったとしても、大体アレクサンダーさんの周りには誰か人がいるのでその人が敵対化する。そしてその人を通じて城中にバレ、それから王都中。最悪国中に俺の顔と、俺が魔王だという事がバレる危険性があるのでこれも却下だった。
一般人もダメで、十王もダメ。そうなればもう誰も当てはないのだが、唯一あまり人と関わず、更に十王の中でなんども王会議に出席している王がいる。それが魔道王ディランだ。ディランのじいさんだって敵対する可能性が高かったが、もうそれしか手段がなかった。
そうして神頼みとも言える願いでここギルドマスター室に転移してきたのだ。
「はぁ…はぁ…ディランのじいさん」
「む?どうしたソーマ君。そんなに息を切らし…」
ディランのじいさんが喋りながらこっちを向いた瞬間に止まった。
「やっぱダメだったか…」
俺が小声でそう呟いた時だった。
「それは魔王化か?しかも半分という事はもしやむかーしに儂が作った結界を踏んだか?」
「…知ってるのか?」
「ああ、知っているも何もそれを引き起こす原因を作ったのは儂じゃ」
若干の申し訳なさはあるものの、しれっと放ったディランのじいさんの言葉に俺は驚いた。そしてこの騒ぎの原因がディランのじいさんの所為だと知って思わず殺気を放った。
「おい、これの所為でうちの奴らがおかしくなってるんだが?どうすりゃいい?」
「す、すまん。あの村を守るためだと思って作った結界じゃったんじゃが…。戻すのは簡単じゃ」
そう言ってディランのじいさんは1つの小さな瓶を取り出した。その瓶は血を思わせるほど真っ赤な液体が入っていた。
「これを飲めばすぐに収まる。以前興味本位で魔王の魔王化の解除方法について探しておった時に偶然作った物じゃ」
ディランのじいさんから奪うようにしてその液体を飲みほす。すると、体の半分にあった模様が消え、感じていた熱さも無くなっていた。
「治った…」
「本来ならばお金をもらうとこじゃが…儂が起こしたも同然の出来事じゃ。当然いらん」
当たり前だ。いくらそこに入った俺たちが悪かったとはいえ、元々ディランのじいさんが張った結界だ。それの所為でこんな災難まで起こったのに更に金をとると言い出したら本気で殺していたかもしれない。
「治ったならまずやることがあるな。助かった。それじゃあまたいつか会おう」
「待て。知っておるかもしれんが、その魔王化によって敵対化しておった者たちは、当時の記憶も鮮明に残っていおる。軽い気持ちで戻ると地獄絵図のようになっておるかもしれんぞ?」
ディランのじいさんが言いたいのはミラたちが俺に敵対していたという事実を正気に戻って受け止められず発狂しているかもしれない、みたいな事だろう。
「大丈夫だ。リアンに戻る前に色々とやっておくことがあるからもしかしたら今日中には戻れないかもしれないからな」
リアンに戻る前に俺にはやらなければならないことがいくつか残っているのでそれをする必要がある。
挨拶だけして、俺は用事を足しに聖王国王都、王城へと転移した。
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「アレクサンダーさんはいるか?」
王都に転移し、王城前の門番に話しかける。
「ん?もう面会は終了している時刻だぞ?あれか?どこか遠くから来たのか?」
「まずは俺の質問に答えろよ。…いや、いい。多分いるんだろ。入るぞ」
「おい、待て!」
普通に入ろうとしたら腕を掴んで止められた。この門番まだ会ったことがない門番だな。俺の事を聞いていないか、新入りのどちらかだろう。
「離せよ。俺は忙しいんだ」
「き、貴様!不法侵入で捕らえるぞ!?」
「あら?ソーマ君じゃない」
どんどん厄介な方向にもっていく門番にうんざりし始めていた時、ふいに背後から声がかかった。
「学園長か」
「ソーマ君も聖王に用事?済みませんね。この人も一緒に通してあげて?」
学園長が取り出した紙を見るなり、門番はビシッ!と敬礼を取り、俺から離れていつものポジションについた。
「こ、これはアグラリエル様!この方はお連れの方でしたか。どうぞお入りください!」
多分学園長の連れに若干の上から目線で口をきいたことを後悔しているのだろう。門番の額には脂汗がにじんでいる。
学園長についていって門をくぐって王城の中に入る。入り口からアレクサンダーさんがいるであろう謁見の間まではかなり遠いので軽い会話をすることにした。
「最近どう?帰ってから何かあった?随分と雰囲気が変わっているけど」
「そうですか?俺的には何も変わってないんだが」
「声のトーンが一つ下がって何か威圧感があるように感じるわ。それに少し敬語の量も減っているし。まあ魔王っぽくはなったわね」
どうも俺は気が付かないうちに魔王っぽくなったらしい。というよりもこれまで魔王っぽくなかった方が悲しかったんだがな。これも成長したという事で納得しよう。
「そうか。俺はやっと魔王っぽくなったのか。で、学園長は何をしに来たんだ?」
「私はいつも通り魔法学校の1か月にあったことを報告しに来ただけよ。あなたは?」
学園長はいつも月1でアレクサンダーさんに魔法学校であったことや、お金の動き、イベントなどの情報などを報告しに来ているらしい。確かに生徒や教師を纏めて管理する人は学園長だが、学校全部の最終責任者はその国の王にある。なので当然アレクサンダーさんも情報を知る権利があるというわけだ。
「俺か?俺はまだ秘密だ」
「そう。そりゃ魔王が何でもかんでも喋っちゃいけないわね。それに王様でもあるみたいだし」
「まあな」
別に学園長に言っても特に問題は無いのだが、お楽しみは知らずに取っておいた方がいいと思っただけだ。
そんな会話をしながら歩くと、謁見の間前の扉までたどり着いた。さすがに学校に関する情報を学生の俺が聞くわけにはいかないので終わるまで扉の前で待つことにした。




