第66話 ソーマの人騒がせ④
「おいおい、嘘だろ?今なら冗談で済ませてやるからお前ら、その武装を解け」
今ミラの手にはアダムとイヴ、シエラの手にはブレイブソード、シェンの手にはインパクトグローブがはめられており、更にその上に俺が作った短剣を握っている。どこからどう見ても俺に敵意というか殺意が向いている。
俺の警告にもまったく反応を示さない3人。それどころか3人は俺に向かって突撃してきた。
一心同体化のような3人のコンビネーションに俺は全力で攻撃を受けないように回避しながら3人になるべくダメージを与えずにどうにかする方法を模索するが、こういうシチュエーションには遭ったことがないのでまったく思いうかばない。
「なあ!聞こえてるんだろ!?どうしたんだよ!」
必死の呼びかけにも応じずただ俺に向かって斬撃やグローブで衝撃波を飛ばしてくる。まずいな…これってあれか?よく言う洗脳とかその系統に分類されるやつか?もし操られているとしたら?あの不気味な何かを越えた瞬間に起こったってことは相手を洗脳させる結界みたいな感じなのか?ただ発動条件が分からん。俺が3人の攻撃を避けている時に越えても発動しないし、3人が越えなおしても変わらない。どうすれば解ける?
俺の頭の中は次第にぐちゃぐちゃになっていく。ルシファーが言っていた魔王に関係している者が近づいてはいけない?という事は魔王は大丈夫…つまり魔王の配下に限定してかける洗脳なのか?だとしたら1つだけ手はあるが…もし俺の読み違いだったり、失敗すれば確実に死ぬな。ルシファーを呼んで少しづつ謎を解いていきたいところだが、呼ぶには集中がいるしな。
見たところ、3人は自分の意思というよりも本能的に動いているという感じが強い。その証拠に3人の動きはものすごく精密に俺の急所を捕らえたりしている反面、3人の呼吸がかなり荒くなってきている。おそらく体側の体力が動きについてこれなくなってきているのだろう。そろそろどうにかしないと3人の体が壊れてしまう。
「一か八か…やってみるか。お前ら!頼むからこれで戻ってきてくれよ?もう次は無いからな」
3人の攻撃が同時に来るタイミングを見計らい、同時に来た瞬間避けるのではなく、逆に急所を突かせた。
「ごふっ…」
心臓に3人の持っている剣が突き刺さり、俺は盛大に血を吐き出す。心臓を突かれても即死しないのは魔王の耐久性能のお陰だろう。
これでも3人が戻って来てくれなければ俺はミンチにされるのを待つしかなかったのだが、その心配は杞憂だったようだ。3人の目から赤い涙が流れたかと思ったら、少しづつ目に光が灯ってきた。
「まったく…心配かけさせんなよ…こうでも…しないと…いけない状況を作ったのは…俺だ。済まない」
ようやく完全に意識を取り戻したであろう3人の剣が心臓から抜かれると同時に盛大に血を吹き出しながら地面に倒れ伏した。
3人が正気を取り戻させるには洗脳されたであろう魔王の存在を排除することが条件ではないか?と思ったのだ。そのために敢えて攻撃を避けず、3人が同時に俺を確実に殺したと思わせる攻撃をさせる必要があった。もしそれで戻ってこなかったらずっと攻撃を受けるだけなので、俺の死に戻りのような謎の蘇生をもってしても蘇生できないような場合もあったので本当に一か八かのかけだったが、成功したようだ。
「…今回は、帰ってこれるかな…一旦俺を…連れて…城に帰ってくれ。…くれぐれも…見つからないように…たの…ん…だ」
消えゆく意識の中、3人に意思を伝え、この世界で4回目であろうか?俺は死んだ。
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「あぁ…」
「うぅ…おぇ…」
「…」
ソーマが死んだあと、正気の戻った3人はまさに地獄のような体験をしていた。結論から言うと、洗脳されている間3人に意識はあった。なので自分が意思に関係なくソーマを襲っていることや、ソーマがなるべく攻撃を当たらないように躱しながらも自分たちにはまったく攻撃を当てていないことも分かっていた。
そう、頭では分かっていながら体はまったく別の動きをする。それこそが、3人が味わった地獄の1つだ。更に地獄だったのは、ソーマに止めを刺した時。
ソーマに止めを刺した時の感覚は、洗脳されていながらもしっかり感覚として3人に伝わっていた。ソーマの心臓を貫いたときの感触がそのまま伝わってきたのだ。その鮮明な感触と、意識が3人に猛威を振るった。
シェンとミラは初めて…というよりもまず人を殺した事すらなかったのだ。初めての殺人の相手が最愛の主君であるソーマという事実に精神が耐えられるわけがなかった。
シェンはソーマの使い魔であるという固定概念が抜けきっていないため、使い魔である自分が主に手をかけたという恐怖と、ソーマが死んだ…しかも自分自身の手で殺めてしまったという喪失感や倦怠感に襲われ、シェンらしくない声にならない悲鳴を上げながら膝から崩れ落ちている。
ミラは、本来どちらかと言えば人に敵意を向けられる側の立場である魔族に加え、人のみならずこの世のあらゆる生物にとっての敵である魔王に仕える者にも関わらず今回が初めての殺人。更にこのメンバーの中でもかなり純粋というところがあり、人を殺してしまったという事。そして、シェンと同じく殺した相手がソーマだという事に様々な感情が沸き上がり、抑えきれなくなって嘔吐していた。
「はぁ…はぁ…私が…なんとかしなきゃ…」
一方シエラはというと、当然2人と同じように色々な感情が沸き上がっていたが、以前にこれも自分の意思ではないがソーマを殺してしまっているため、その時よりは感情は抑えられていた。
感情は2人程大きくないとはいえ、それでもソーマを殺した事のショックが大きいことに変わりがないので、頑張って動いてソーマの最後に遺した遺言、「俺を連れて一旦城に帰ってくれ」の通り連れて帰りたいのだが、シエラの体は震え、使い物にならないのと、ソーマの死体や吐いたり声にならない悲鳴を上げているミラとシェンの2人がこっちの世界に戻ってくる見込みがないためどうしようもなかった。
「うぅ…どうしよう…あ…そうだ」
シエラはほとんど回らない頭を必死に回転させ、念話をかける。その相手は…。
(こちらオニマル。シエラ様か?何かあったのか?)
(…こちらシエラ。今から“国王代理宣言”を発令する。各員はそれぞれ事前に定められた行動を実行せよ)
(……了解)
オニマルである。オニマルならば仮にソーマが死んだと知ったとしても、自分の想いよりもまず優先的に最善を尽くすために動くだろうとシエラは読んでいた。実際オニマルは口こそ悪いが、働くときは誰よりも働くし、目上の人には名前の最後に「様」た「さん」をつけるなどかなりの常識を知っていて、頼りになる男だというのはリアンに住む国民を含めた全員が知っていることである。
“国王代理宣言”というのは、もし仮にリアン連合王国国王であるソーマの身に何かあった場合、公では国王の1つ下の位ではあるが、ほとんどソーマと同じ扱いを受けているミラ、シェン、シエラの3人のみが発動できる緊急の宣言である。
この国王代理宣言はソーマが魔法学校に行っていた1か月の間に決めていたことで、国王代理宣言にはレベルⅠ~Ⅴまであり、上に上がるにつれてソーマに起きた事が大きいことを表している。そしてシエラがレベルを言わなかったという事。つまりレベルⅤであるという暗黙の了解があった。
(で…場所は?)
(昨日言っていた村。幸い村には人はいなかったみたい。至急来てくれると助かる。追加で言うと、ミラとシェンにレベルⅣ)
(おいおい…ほとんど全滅かよ。待っててくれ。すぐに今動ける奴ら連れて向かう)
念話を切り、地面に横たわった瞬間すさまじい倦怠感と眠気が襲ってきて、まるで今あったことを体が無かったことにするかのようにシエラは抵抗すら出来ず意識を手放し、夢の世界へと向かった。
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(あー…連絡。各員落ち着いて聞くように。もう俺がこういう話し方を使っている時点で想像つくだろうが、先ほどシエラ様により、国王代理宣言が発令された。ソーマ様のレベルはⅤ、他にミラ様とシェン様がそれぞれレベルⅣとのことだ。各員は絶対に慌てることなく先日確認した通りの動きで、今動ける班員は誰でも何人でも構わないから竜化して昨日ソーマ様たちが向かうと言っていた村に向かってくれ)
「…これからどうする?おそらくほとんどが暇だろう。それが仮に全員ソーマ様の場所に行ったとして…いや、まずは行ってみるか!」
頭の中で色んな思考を巡らせていたオニマルは一旦考えるのを止め、竜化した内政班の1人に乗ってソーマたちがいるという村へと向かった。
考えるのを止めたのは、既にレベルⅤと言われていたので想像はつくが、見るまで信じたくないからだ。ミラとシェンのレベルⅣは、意識はあるが行動不能に陥っているという状態。レベルⅤは命の危機、もしくは…既に間に合わなかったという状態。
オニマルとしてはソーマがレベルⅤになっていても、命に危機があるだけと思いたかったがもしもという可能性もあったので考えるのを止めたという訳である。
「確かもう少しでソーマ様たちがいるっていう村だが…あれか!」
他の竜を連れ、オニマルはソーマたちがいる村が見える位置まで来た。もしいない間にリアンに何かあった場合や、ソーマたちを連れ帰った後の場合を考慮してメイド班のほとんどをリアンに置いてきた。それでも行きたいと言ってきたメイド班は連れてきている。
「あれは!?(全員止まれ!俺以外全員すぐさま城に帰れ!いいか!?これは命令だ!逆らう事は許さん!)」
ふとオニマルは竜たちを止め、リアンに帰るように命じた。もちろん竜たちも最初はオニマルの言っていることに中々賛同しなかったが、そこにオニマルがほぼほぼ前回の闘気を解放したことで、半ば逃げるようにリアンに帰って行った。
もちろんオニマルが乗っているカルロスや、他に竜化しているメイド班班長のエオラの2人は班長として残った。
「…エオラ!お前も帰れ!ここから先は俺とカルロスだけでいい!」
(いやです!私もメイド班というリアンを動かす班に班長としてソーマ様から働かせてもらっている身!私がここで見たことをメイド班に伝えなければならないのです!)
「…そうか。ならばついてこい。だが、絶対に我を忘れるなよ!」
カルロスとエオラはなぜこんなにもオニマルが焦っているのか分からないまま、ソーマたちのいる村へ降りて行った。




