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第65話 手遅れ

「はあ!?ユカリが旅に出た!?なんでだ!?」

「何でも1か月学校で過ごして自分に思うところがあったらしい。だから自分を鍛えるのを第一に、第二に様々な情報を知ることを目的にして、旅に出た」

「止めなかったんですか!?ユカリさんは、ソーマさんのことが好きでしたし、ソーマさんが止めれば旅に出なかったんじゃ…」


 ユカリがいなくなかったことに驚くオニマルと悲しむミラ。


「お互いの気持ちはよくわかる。俺だって驚いたし、最初ユカリがいなくなったときはすごい喪失感だったよ」

「じゃあ、なぜ!?」

「だからさっきも言っただろ?自分に思うところがあったから旅に出た。つまりユカリは俺や学校のみんな、更にはここにいるみんなとしばらく会えなくなってもいいぐらいの決意で旅をしたいと俺に言ってきたんだ。俺はそんなユカリの意思を止めるわけには行かないし、ユカリの俺に対する気持ちを知っているみんなならユカリが俺に言うという事がどれほどの想いがあってのことか分かるだろ?」


 一気に周りが静まり返る。みんな知っているのだ。ユカリが俺のことを心の底から好きだという事を。それを知っているからこそみんなはユカリが俺の秘書という少し変わった役目に就くことを反対しなかったのだろうし、逆に応援していたのだろう。


「そうか、あいつも中々周りを判断できるようになったか。なあオニマルよ。この事は確かに驚くべきことだが、ユカリが旅に出たことを驚くよりユカリが大切な何かを放り出す…という言い方は適切ではないが、そうしてまで結果的に周りのためになることを選択した。そのことを素直に喜ぶべきだろう?同じ4神の1神としてもそうだし、このリアン連合王国の1国民としてもだ」

「マサムネ…」

 

 マサムネの言う事は合っていると思う。マサムネたち4神が4神として動き始めたのは酒の席でのユカリの思い出話を聞く限り数千年前らしい。そして、俺が召喚した最初の時のユカリの俺に対する反応を見れば、別にそんなに長い時を一緒に過ごしたマサムネたちじゃなくてもユカリが変わったことに気が付くだろう。


 マサムネはそれを4神の1神としても、リアンに共にいる者としてもユカリの成長を喜んでいるのだ。


「ユウキ、お前はどう思う?」

「え?僕?うーん…僕は良いと思うよ。もう行っちゃったんなら今文句を言っても遅いよ。僕たちに出来ることは応援することだと思うな」

「…そうだな!悪いな、少し考えこんじまって。俺らしくもない」


 考えた結果オニマルは考えるのを諦めたらしい。頭はいいが、考えるのはあまり好きではないみたいだな。


「それじゃあ昼飯途中に悪かったな。俺もカレーをもらうからみんなも再開してくれ」


 それぞれいた場所に戻り、食べ始めたり俺のカレーを温めなおしたりし始めた。俺も空いている適当な席に座ろうと思ったが、ミラたちに呼ばれたので隣の空いている席に座った。


 カレーが来たので久しぶりのカレーに舌鼓を打ちながら、会話を楽しむことにした。1か月という間だったが、しなければいけない話はたくさんあるだろう。


「いい事でも悪い事でも構わないから俺がいない間にリアンで何か無かったか?こういう話はオニマルに聞くのが1番だろうが何か知っているか?」

「そうですね…私はあまり聞きませんでしたけどお2人はありますか?」

「そうじゃのう。我もその手の事は聞かんかったのう」

「…そういえば、ソーマがいなくなる前に言われた通りにアレンに行ってジェームズさんの力を借りて、アレンとも貿易が出来るように話を進めた」

「お!ちゃんとやってくれたのか」


 俺が学校に行く前に全員にはいない間に出来ればやっておいてほしいことをしっかりやってくれていたようだ。

 

 もっとこの国を貿易させるべきだと思っているが、知らない商人に「うちの国に店を開きませんか?」と言っても、まずリアンに認知度が低いどころか0のため、話を聞いてすらくれないだろうし、店を開いても買うに来るリアンの国民以外の人がこないので意味がない。


 だから少しづつリアンの認知度を上げ、来る人を増やすためにアレンの宿で1番2番を争うレベルで人気の宿を持つジェームズさんに協力を依頼しようとしたのだ。


「あー、それもやりましたね」

「どんなことをしてくれると言っていた?」

「確か知り合いの行商人などを当たって色んな物資を売買したり、リアンの存在を広めるために色んな策を考えておくと言っておったぞ。まあそれもこれもまずマスターの転移門や、許可がないと始められんがな」


 確かに俺がいないと実際に始められないところはいくつかあるかもしれないが、それでも俺がいない間に着々と準備を進めてくれているのはありがたい。


「許可とかその辺はおいおいやっていくとして、他にどんなことをした?」

「後は…すみません。遊んでました」

「い、いや!遊んでおったわけではないぞ!?ちゃんとリアンの防衛技術の向上に向けて頑張っておった…と思う」

「…遊んでた」


 遊んでいたと言うミラとシエラ。そしてしっかりやっていたというシェンが対立している。


「遊んでたとか遊んでないとかその辺は気にしてないぞ?元々この1か月はみんなには簡単な事しかお願いしてないし、それが終わったら暇になるだろうから最初から休みにしてもらう予定だったし」

「そうだったんですか…良かった。てっきり役立たずで怒られるかと」

「そんなわけないだろ。逆に俺の方が役立たずだし、これから少しづつみんなから色んな事を教えてもらって、いい王になれるよう頑張るさ」

「うむ。そういう事なら我も出来るだけ協力しよう」

「…私も手伝う」

「も、もちろん私も手伝いますからね!」

「分かってるよ。改めてよろしくな」



「マスター?」

「…ああ?シェンか。どうかしたか?」

「どうかしたか?はこっちのセリフじゃ。大丈夫か?さっきからずっとぼーっとしておるぞ?」

「少し昨日の事を思い出してただけだ」


 気が付けば歩いていた足を止め、休憩に入っていたらしく、シェンだけでなくミラとシエラも心配そうにこっちを見ている。


「ソーマさん、本当に大丈夫なんですか?」

「…どこか具合でも悪い?」

「いや、大丈夫だ。あ、そうだ。まだみんなには目的も何も伝えてないまま来たな」


 今俺たちは、リアンを囲う山々…つまり盆地の山を登っている。この先に小さな村があるらしく、その村に学園長のアグラリエルさんのからお願い事をいくつかされたので向かっているわけだ。


 リアンがある元魔王城から1番近い街は城塞都市アレンなのだが、人が住む魔王城から1番近い場所はここになるらしい。なんでも本当にひっそりとした村なので人もほとんど来ず、あまり外部との接触がない村なんだとか。


「…というわけでこの先にある村に用事があって、それを終わらせた後は久しぶりに「カオス」として活動しようと思うからこの格好ってわけだ」


 その村の用事は学園長曰くすぐに終わるらしいので、余った時間を使って「カオス」としていくつかアレンで依頼でも受けてこようかと思っていたのだ。


「なるほど。分かりました!そういう理由があったんですね」

「にしても、「カオス」として働くのも久しぶりじゃのう。アレンによるのなら「瞬光」にも声をかけていくのか?」

「一応そのつもり」

「…楽しみ」


 シエラは俺らと違って勇者ではあるが、人間なので「瞬光」のメンバーとは比較的合うようだ。中でも特にアイシャさんと仲良くしていたらしい。お互い年も近いだろうし、気が合うのだろう。…ん?シエラと年が近いってことは俺とも年が近いってことか。なんだか最近本当に自分の年齢が分からないほど大人じみた事ばっかりしているような気がするな。


 小休憩を終え、山を越える。山を越えるというよりもう既に山は越え切っていたので、今いる山の麓に見える村に向かう。


 その村は魔物避けに村だったら張ってあるはずの柵もなく、木で出来た簡素な家が数十軒立ち並ぶだけの本当に貧相な村だった。あちこちに畑や牧畜がされているのが見える。


「あそこが学園長の言っていた村か。魔王城から近いのに随分と守りが甘くないか?」

「ですね。でも警戒は一応していきましょう」

「だな」


 魔王城から1番近い場所にありながら、長年村が狙われなかった理由。俺も良く知らないが、少し前に夢の中でルシファーに聞いたことがある。


「僕もあまり詳しくは知らないんだけど、なんでもあの村には魔王に関係している者は絶対に近づいてはいけないって先代からずっと言われているんだ。それが事実なのかそれとも迷信なのかは分からないけど。とりあえず僕は平和主義だったから行こうとは思わなかったよ。“触らぬ神に祟りなし”だからね」と。


 あの時はただドヤ顔でことわざを言ってきたので腹が立っただけだったが、なにかあの村からはおかしな雰囲気を感じるので警戒はしておいた方が良さそうだ。


 俺たちは俺が1番後ろになるようにして横1列に並び、ミラたちが俺の少し前を歩くような陣形で歩いてきたのだが、少し前を行くミラたちが後数歩というところに何か…よく分からないが得体の知れない何かがあるのが分かった。


「まずい!下がれ!」

「え?」


 俺の叫び声に驚いたミラが振り返ったが、時すでに遅し。ミラたち3人は得体のしれない何かを越えた。その瞬間こっちを見るミラの目に光が消えたのが分かった。


 そしてゆらりとまるで幽霊のように振り返るシェンとシエラの目にも同じように光は灯っていなかった。

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