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第68話 精神治療①

 アレクサンダーさんは謁見の間にいたらしく、学園長が戻ってくるのに数十分程かかった。


 謁見の間から出てきた学園長は、「暇ができたらいつでも戻ってきてね」と言い、去って行った。


「ソーマだ。入っていいか?」


 扉の前にいた執事の一人に声をかけ、許可を求める。執事が中に入っていき、しばらくすると戻ってきた。


「許可が下りました。どうぞお入りください」


 許可が下りたので中に入る。一般人が出来る謁見はもう既に終わっているし、遠くから来た人用の特別謁見も終了していて、後は俺だけらしい。何だかんだ言ってアレクサンダーさんも忙しいらしいのでなるべく早めに終わらせてほしいとのことだった。


 中に入ると、聖王国を動かすお偉いさんであろう人たちが玉座に座るアレクサンダーさんの下でアレクサンダーさんと話し合っていた。


「おお!ソーマ殿!久しいな。元気だったか?」


 アレクサンダーさんは入ってきた俺を見るなりお偉いさんとの話を放り出して俺に駆け寄ってきた。


「今は元気ではないな。早急にやらなきゃいけないことがある。少し時間はあるか?ないなら話だけで良い」

「ふむ。ソーマ殿の早急にやらねばならんことはおそらくこの国の事よりも価値があり、急がねばならんことなのだろう。分かった。時間を作ろう」

「助かる」


 俺が忙しそうにしているのを何となく察してくれたアレクサンダーさんは、お偉いさんを下げて、俺を客人室まで案内してくれた。


「ふぅ。ここならゆっくり語れるだろう。で、やなねばならん事とは?」

「ああ。そんなに大げさに言われると申し訳ないぐらい大したことない事だが…国の場所を変えたい」

「…ん?今何といった?」


 俺の発言を理解できないようだ。まあそうだろう。いきなり国の場所を変えたいなどと言われたら誰だってビックリする。というか、まず国なんか移動できないからそもそもの話でそういう考えに行きつく人がいない。


「国の場所を変えたいんだが、と言った」

「国の場所を変える…だと?」

「ああ」

「がっはっは!ソーマ殿は非常に面白いことを言うな!国の場所を変えるなど!どうやってやるつもりだ?」

「俺は魔王だぞ?それにこことリアンを繋げる転移門を作ったのも俺。なら場所の移動ぐらい簡単だと思うだろ?」


 俺は魔法だけで言えば圧倒的に攻撃魔法や回復魔法なんかよりも転移系魔法を使っている。それはあまり攻撃系とかの魔法を使う機会に恵まれないのもあるし、ただ単に転移系の魔法が魔力消費なしで使えるのは使い勝手が良すぎるというのもあるためだ。やっぱり瞬時に行ったことがある場所ならどこへでも行けるというのは魅力的だ。


 その分移動をしなくなるので太らないように他の事でエネルギーを使ったりする必要があるのだが、俺は学校に行くようになってからは食べるようになったが、それまでほとんど飯を食べてこなかったのでエネルギー面に関してはそれほど気にしていない。


「それは知っている。だが、いくらソーマ殿とは言え、あの小規模の国ではあるがかなりの大きさがある土地を転移できるのか?」

「出来るとか出来ないじゃなくてやらなきゃいけない。そうしないとリアンという国を作った意味がないし、あの魔王城があった所為で人通りがない場所でいつまでも国民を住ませるわけにはいかない」


 今、国民は城塞都市アレンに繋がる転移門を使ってアレンで働いたりしている。そうすることで減るばかりだったリアンの経済を少しでも回す働きがあると同時に、国民のリアンに住む同じ国民以外の人とのコミュニケーションや働かないことによる肉体的精神的を含めたニート化を未然に防ぐ目的もある。


 もちろんそんなメリットだけでなく、最初の方は働き口や働き方に迷い、また奴隷になるのではないかと冷や冷やしていた(俺はそんな事知らなかったので主にミラたちや4神たちが)のだが、気が付けばほとんどの大人が働くようになっていた。更に働かない大人は国内の農業の充実に多大な貢献をするようになった。働いている人も仕事が休みで空いた時間や暇な時間に手伝ってくれたりしているらしい。


 俺が知らないとこで国民も勝手な妄想かもしれないが奴隷から救ったことの恩返しをしてくれているのだ。その国民のためにもアレンしか他に住んでいる人と会えない現状を何とかしたいと思っていた。


「そうか。私としてはリアンの場所を変えることについてはまったく異論はない。だが、移動するのであれば場所の確保が必要不可欠。さすがに私の国の土地を使わせることはできないぞ?気が付けば領土内に新しい国が出来ていたなんてことになったらお互いの信頼に関わるからな」

「当然だ。今の段階では聖大陸の北側。聖王国より少し北の十王がお互い干渉しないようにしている土地を使わせてもらうつもりだ。だからこそ十王の1人であるアレクサンダーさんの許可が必要だったんだ」


 基本的に世界の土地の管理権は十王にある。それは誰かが決めたとかではなく、気が付けば出来ていたルールだ。だがほとんどの人種はその事実を知らないため、“国王の収める土地=住める土地”というような感じの認識になっている。だから十王の存在すら知らない人も多い。でも魔王や、聖王などの有名な王は単体で知っている人は多い。


 十王の半数以上が決めれば土地の事は大体覆る。俺は今厳密にいえば聖王国の少し北の土地を俺のものにして、代わりに今リアンがある場所の盆地を捨てるという案で十王に聞いて回っている。


 ディランのじいさんに魔王化を治してもらいに行った時にひそかに許可をもらっていた。あと俺を抜いて4王の賛成がいるわけだが、3王はリアンにいるミラ、シェン、シエラが賛成してくれるとして、妖精王、獣人王は喋ったことすらないし、悪魔王であるバイオレットもどこにいるかも分からない。そのため一番可能性があったのが聖王であるアレクサンダーさんというわけだ。


「そういう事か。さっきも言ったが聖王としては何の異論もない。むしろ個人的ではあるが友好国として嬉しい事だ」

「賛成してもらえて助かるよ。これで俺含めて3王の賛成を取れたけど、まだ大事な国民の意見やミラたちにも話してないからな。もしそれで反対されたら白紙になるな。そうなったら申し訳ない」

「そうだな。そうならないように私も祈っているよ」

「それじゃあ俺はもう行く」

「うむ。今度はゆっくり世間話や交易の話でもしようではないか」

「ああ」


 アレクサンダーさんと首脳会談的な事をすることを口約束だが約束し、転移でリアンに戻る。首脳会談は正直今は忙しすぎるのでしばらく後の話になりそうだった。


 どこに転移しようか迷ったが、王城に入って辺りからかかってきたみんなの念話を繋げるだけ繋いでこっちからは何も話さずにひたすらみんなが一生懸命何を言っているのか分からないことを言っているのを聞いていた。その時にオニマルだけが冷静に「ソーマ様。これが聞こえているなら俺たちが会って最初に入った監視の塔で待っている」と言っていたのでその塔に転移した。


 やはり有言実行をモットーにして頑張っているオニマルはその塔のガラスのついていない窓から夕日を眺めていた。


「ようオニマル」

「ソーマ様…来てくれたのか」

「当たり前だろ?唯一お前の念話だけがはっきり聞こえたからな」

「そうか…良かった。いきなりで悪い。俺を殺してくれ」


 いきなり俺の方を向いて土下座をするオニマル。土下座をしたのはおそらく首を斬りやすくするためだろう。


 それに対する俺の返事は決まっている。


「いいだろう。そこを動くな。すぐに天国に送ってやる」

「っ!?…いや、仕方がないか」


 俺の非情な返答にオニマルは少しだけ驚いたが、すぐ冷静になった。


「ん?もっと驚かないのか?いくらお前とは言え俺が何のためらいもなくお前を殺すことに少しは抵抗したり驚いたりすると思ったんだがな」

「そりゃあ驚いたさ。だが言い出したのは俺だ。それに俺はソーマ様に取り返しのつかないことをしたしな。もしソーマ様が逃げ出さなけりゃ俺の手でソーマ様を殺していただろうさ。未遂とは言えやろうとしたことだ。やり返されるくらいで済むなら安いもんだ」


 そう答えたオニマルはカッコ良さそうな事を言っているように一見見えるが、床を向いている顔から水滴が零れ落ちているのを俺が見逃すわけがない。そう、泣いているのだ。


「オニマル。顔を上げろ」

「どうしてもか?」

「ああ、どうしてもだ」


 顔を上げたオニマルの顔は涙で歪んでいた。ここに来てから顔だけで大体の表情を読めるようになってしまったからこそわかる。この顔と涙は殺される恐怖なんかじゃなくて、主を未遂ではあるが殺そうとした自分への怒りや俺への申し訳なさだ。


「ふ、最後にソーマ様にこんな汚ねえ顔は見せたくなかったんだがな」

「そうか。ならそう思わなくても済むようにしてやる」


 俺は腰につけている無音に手をかけ、姿勢を作る。無音は基本的に一閃の形になっている。それに手をかけ構えを取ったという事はする攻撃は一つしかない。


「それが以前言っていた抜刀の構えか?」

「ああ、これでお前が痛みを感じる暇もなく殺してやる。いくぞ」

「分かった。さよならだ」


 オニマルを決め、目を閉じた瞬間。俺は鞘からとてつもないスピードで一閃を振るう。


 オニマルの能力であれば視認可能回避不可能のスピードだ。目を閉じているからこそそういった恐怖を感じることもない。せいぜい風切り音が聞こえるだけだ。だがその音も次の瞬間には自分の首が斬られる音に変わるだろうが。


―ズバン!


 俺の刃筋はオニマルの髪の毛を掠りながら通り、そのまま塔の壁を斬り裂きながら途中で止まった。


「…え?」

「ち…上に逸れたか。まあいい。もう疲れたからお前を殺すのは止めだ」

「ま、待ってくれ!どういうことだ!?どう考えてもあんたの実力なら殺れたはずだ!なのになぜ!?」

「あ?そろそろ気が付けよ。俺が本気でお前を殺したいと思っているのか?仕事面で言えば、いつもやってくれと頼めば「めんどくせー」と言って嫌がる素振りを見せるがいざやりだすと誰よりも正確で早くこなす。戦闘力も申し分ない。そんな人材を国王として失いたいと思うか?」


 オニマルは本当に役に立ってくれている。お願いをすれば嫌がりはするがそれでも誰よりも早く手を付け、誰よりも正確で、誰よりも早くこなす。そんな人材を失ってなるものか。


「これは国王としてのお前の評価によるものだ。俺個人としてはこんなに王だとかそういう地位関係なくタメ口で話してくれるお前が好きなんだよ。俺はそんなお前から殺してくれだとかいう弱音にもとれるし、俺を殺そうとしたことからの逃れにもとれる発言を聞きたくは無かったな」


 マサムネ、オニマルはリアン内ではミラたち以外で唯一敬語を使わないで話してくれる。2人がいるからこそ俺が国王としての重圧をあまり感じずにいられるのだ。どこに行っても誰と喋っても常に自分を謙遜して俺を敬う人たちだと俺の方が参ってしまうのだ。


「だからこその今の結果だ。これを聞いてもまだ死にたいと思うのなら今度は当ててやる。ただ、次はお前に当てる前に俺が死ぬだろうな。俺自身のメンタルが耐えられん」

「お、俺なんかがここにいていいのか?」

「当たり前だ。居てもらわないと困る。この国が回らなくなる」

「済まない…」

「この国への自分自身の重要さを理解してもらえて助かるよ。他にもまだこんな感じの事をしなきゃいけない奴がたくさんいるが、手伝ってくれるか?」

「ああ、分かった」


 気づいていたのかもしれないが、オニマル自身の評価がこれで一新するといいな、と思いながらオニマルを助け起こした。


「ところで、1つ気が付いたんだが、少し変わったか?」

「やっぱお前からもそう見えるか。どんな風に見える?」

「ぶっちゃけて言うとマジで怖い。今まで優しい雰囲気だった分一気に冷酷な感じになった。さっきもためらわずに俺を殺すと言ったし」


 どうやらオニマルからも俺が魔王っぽくなったように見えるみたいだ。俺はまったく変えているつもりはないのだが…まあ魔王化が原因とでもしておくか。


 俺の体の色が治っていることについてまったく触れてすら来ないので、心配になって聞いてみたところ「あ、すっかり忘れてたわ。確かに戻ってるな」とのこと。俺の体の色が半分だけ変わっていたことは記憶にあるみたいだし、今あったことの内容が濃すぎて気付く余裕がなかったんだろう。


「もう既に誰もが俺みたいになっていることが前提で話すが、次は誰のところに行くつもりなんだ?」

「次か?次はそうだな…腹が減ったからメイド班のところでも行くか」

「メイド班か。ミラ様シェン様シエラ様は無理だったが、他のリアンにいる全員は謁見の間に集めてある。念話で呼び掛けただけだから気が狂ったりしてるやつはいない可能性があるが」

「そうか。ひとまず謁見の間にでも行くか」


 こうして俺は正気に戻したオニマルと共に謁見の間へと向かった。

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