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第63話 大人の階段①

「え!?飲むんですか?でもソーマ様って飲めないんじゃ。それに食堂は終わってますよ?」

「知ってるさ。俺だって初めてだけどユカリの大きな決断と、大げさかもしれないが新たな旅立ちだからな。今日ぐらいはユカリも飲んでもいいんじゃないか?場所は食堂はしまってるが、ここならいくらでも飲めるだろ?」


 俺は指輪からリアンにいた時に何を思ったのか拝借してきた酒を取り出す。ここの世界の酒はかなりの種類がある。俺自体学生だったので前世の酒などは詳しくないが、それでもワインのような物もあるし、その他にもウォッカとかブランデー?みたいなものもある。後、ここではエールと言う前世で言うビールもある。


 この世界で馬車などの乗り物ではあっても、酒に酔うという概念は無いみたいだ。なので以前王会議をやる前に前夜祭のようなものをした時に心配したのは意味がなかったという事だ。酒に酔わないがそれでも基本的に自分で飲む量を決めて制御しているらしい。なのであの時みんなが酔いつぶれていたと思っていたのは普通に飲み飽きて寝ていただけという事だ。


 この場に出したのは度数の低いものばかりだ。酒を初めて飲む俺が酔いにくいようにするためと、酔っても指輪から出さない限り度数の高い酒を飲まないように事前防止のためだ。

 

「うわー!これ全部ソーマ様が持っていたんですか!?」

「リアンにいた時にちょいと…の量ではないが、拝借してきた。肴もあるからかなり長い間飽きずに飲めるだろ?」


 いろんな種類の酒を出した後色んな酒に合いそうな食べ物を出していく。中には魚を干したものなどがある。


「おお!どれもおいしそうですね!」

「だろ?まあ今日ぐらいは細かい事なしで飲み明かそうぜ!」


 我ながら年齢にまったく合わないことを言っていると自覚しながらコップにそれぞれが飲みたい酒を注いで乾杯する。


 どれどれ…前世でもこっちでも初めての酒の味はどうかな?……うん。美味いんだ。確かに美味いとは思うんだ、でも俺にはまだ合わないかなー。


 グビグビと酒を飲みまくるユカリにバレないようにこっそり飲み物を酒ではないものに入れ替える。…うん!やっぱり果実水が1番美味いな!少し苦みもある果実水だが、それが慣れると更に上手くなるのだ。


「…ぷはぁ!やっぱりお酒はいつ飲んでもおいしいですね!」

「お、おう。そうだな」


 果実水と同じ、透明な酒を最初に注いでいたのが幸いしたのか、どうやらユカリに酒を飲んでいないことはバレていないようだ。1口だけ飲んだので素面ではないが。


 何だろうな。酒を飲んでいるユカリの幸せそうな顔を見ているとこっちまで幸せになってくるな。この笑顔もしばらく見れなくなると思うと寂しくなるけど、長い間会えない方が帰ってきてまたこういう笑顔を見たときに感じる幸せは大きいだろうからな。それまで我慢我慢。


「ソーマ様、こういう場でしかできないことと言うか…馬鹿っぽいと思うかもしれませんが、少し私の思い出話を聞いてもらえますか?」

「ん?ああ、いいぞ」

「では、そうですね…まだ私が4神としての地位をあの方からもらう前ですので…数千年前の話になりますね」


 そう言ってユカリはユカリ自身具体的な年数すら覚えていないほどの昔の出来事を語り始めた。


『あれは私がまだ魔獣界で人型という事で周りの魔獣たちからも冷たい目で見られ、どこの建物にも入ることすらできず、もちろん食料すらロクなものがなかったころの話です。


 当時私には弟がいました。弟は私と同じ人型でした。顔はそれほど似ていませんでしたが、それでも血は繋がっているので私の弟でした。私は自分で言うのもなんですが、明るく元気いっぱいだったのに対し、弟は非常に体が弱く、私のように活発に動けなかった子でした。


 私と弟は人型なのでそれこそこの世界のスラムに住む人たちよりと同じ、あるいはそれよりも酷いような生活を送っていました。


 あの頃の私は姉として病弱であまり動けない弟のために、人気のないところに雨風を凌げる程度の小屋を作ったり、毎日いろんな場所を漁って食料をゲットしてきたりして何とか過ごしていました。


 弟は衛生環境も悪く、きちんと栄養のある食べ物が無かったのに環境にもかかわらず、数年も私の弟として私の傍に居続けてくれました。


 そしてある日私がいつものように弟を置いて食料探しに出かけ、何とか今日を過ごせそうな食料を持って帰って来た時、私たちのみすぼらしい家の前に立っている人型の男性がいました。最初は何のために立っているのか分かりませんでしたが、彼が横たわったまま動かない弟を見ているところを見て、私は何か弟に何か悪いことをしたのではないかと思い、食料を投げ捨てて襲い掛かりました。


「貴様!私の弟に何をした!」と、少し冷静に考えれば状況を把握できたのに、それをしようとせず彼に持てる全力で走りながら殴り掛かった瞬間。彼は私の殴りを軽く避け、私の勢いを利用して遠くに吹き飛ばしました。


 私に近づいてくる彼にきっと殺されると覚悟をしていましたが、「すまない。いつもの癖で」と、訳の分からないことを言い、私を助けてくれました。


 そして彼は混乱している私にたまたま通りかかったところ、弟が助けられないぐらい瀕死の状態で横たわっているところを見つけたこと。そして弟に私に最大限の感謝の言葉を男性に伝えるように遺して死んでいったことなどを私が最低限傷つかないように優しく説明してくれました。


 弟が当時生きる全てだった私にはどんなに優しい言い方をされてももう弟は戻ってこないと分かり切っていたので、大発狂してずっと殴っていたのを覚えています。


 ですが彼は殴り続ける私に何か仕返しするわけでも止めるわけでもなく、ただ私が殴るのを止めるまで殴られ続けていました。


 しばらくして私は彼を殴ってしまったことによる恐怖と、弟を失ったことによる喪失感で気が動転して、その時の記憶は1度途切れました。


 目を覚ました時私は豪華そうな部屋の1室に居ました。そこからはスムーズに話が進みました。彼曰く彼自身魔獣界を収めるものだという事。私に4神の内の1神として魔獣界を収める協力をしてほしい、などでした。


 その時は弟を失たショックで何もかもが分からず、とりあえず協力すると言ったものの何をしたらいいのかわからず、あの方に迷惑をかけてばかりでした。


 4神の中で私が1番最初だったので、オニマルやマサムネ、ユウキなどは後から入ってきました。そのころには4神としての仕事は一通りできるようになっていて、オニマルたちにも色々と教えたりしていました。


 そして、稀に4神としてこの世界に呼び出されるなどの異常事態もありましたが、それでも平和に数千年が経ったある日、あの方は私たちに何も告げずどこかに行ってしまいました。あの方がどんな思いで出て行かれたのかは知りませんが、私たち4神はきっと私たちが成長しきったから教えることはもうない、と思われたのではないか?と前向きにとらえ、4神が最上位として魔獣界を収めていました。


 それからの話はソーマ様も知っている通り、4神全員が召喚され、今のようにソーマ様の手下として幸せに暮らしている。という事です』


「…と、思い出話と言うよりは私の人生の経緯のようなものでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?」

「いや…楽しむというかなんだ…大変だったんだな。心の底からユカリのメンタルの強さには感服させられるよ」


 シエラもこのような境遇をたどってきているし、ユカリとおなじように既に克服した過去だと割り切っているが、もし俺がその立場だったら一生抱える問題だろう。


「そんなことは無いですよ。かれこれ数千年前の話ですので時間が経てば今では気楽に、とはいきませんが、話せるぐらいにはなりますよ」

「そうか。それで、弟はどんな顔だったんだ?ユカリに似ていないとは言ってもカッコよかったんだろ?」

「それが…ユウキと瓜二つなんですよ。最初会ったときは生まれ変わりかと思うほどビックリしましたけど、あの方に聞けば私の弟をイメージして創造した?とか言っていたので。よく分からない話ですけどね」


 俺はユカリの話に敢えて何も反応しなかった。俺はユウキから相談を受けたことがある。「僕はユカリの弟なんだけど、ユカリは弟だと忘れたみたいに接してくるんだ。だから僕も姉弟じゃないように接してるんだけどユカリはどう思っているんだろうかな?」と。その時はただユウキとユカリが姉弟だったことに驚いたが、今ではすべての話の辻褄が合う。


 4神が“あの方”と呼ぶ元魔獣界の最高統治者だってきっとユカリにユウキが弟だと言いたかったのだろう。だが、きっとユカリはいろんな意味で耐えられないことを悟って敢えて嘘をついたのだろう。俺だったらそうする。


「まあ、なんであれ今ユカリが克服できているなら俺から言う事は無いさ」

「そうですね。しみったれた話は終わりにして飲みましょう!」


 そうしてユカリは新しい酒の瓶を開け始めた。



「…ちょっとユカリ」

「はい?何でしょう」

「…まだ飲むのか?俺はかなりきついんだが」


 かれこれユカリが思い出話を終えてから1時間ほどが経つ。俺はずっと果実水を飲んでいるので最初の一口以来酒を飲んでいない。そのため素面ではないにしろそれほど酔っているとかは無いのだが、ユカリとおなじかなりのハイペースで飲んできているため俺のお腹がタプンタプンなのだ。


「あ!そうですね。すみません。ソーマ様の事を考えずに楽しく話をしながら飲んでいたらこんなに飲んでいましたか」


 今俺とユカリの間の机の上にはたくさんの酒が入っていた瓶が並んでいる。俺が飲んだ果実水の瓶もあるが、ほとんどがユカリの飲んだ酒だ。気が付けば肴ももう既に無くなっていた。


「…俺はもう眠たいんだが、ユカリはどうだ?」

「うーん…私はまだまだ元気なんですが、いくら私のために頑張っていただいているとはいえ、もう満足ですのでもう寝ましょうか」

「…そうか。…それじゃあお休みー」


 ユカリが飲んだ酒の香りが部屋中に充満していて、結構俺の意識はフラフラしていた。雰囲気に酔うとはこういうことを言うんだな、と1つ勉強になった。


 猛烈に眠たい体をフラフラした意識で何とか俺のベッドにダイブする。酔っているのですぐに眠れるかと思ったが、気分が高揚しているのか中々寝付けない。


「…失礼しまーす」


 すると俺が眠ったと思ったのか、ユカリが何故かわざとそうなエロっぽい声で俺のベッドに寄り添うように入ってきた。こいつ絶対酔っての行動じゃないな。しばらく会えないからって最後にやりやがったか。


「…ユカリどうした。…酔ってんのか?」

「え!?…起きていたんですか?す、すみません。すぐに出ます」

「いや…いい。今日ぐらいはいいだろう。それに…可愛い女の子に寄り添われながら寝れるのは男として…本望…だ」


 そう言いながらユカリのぬくもりによりすぐに眠ってしまった。…なぜか最後に壁に顔を向けて寝ている俺の背にプルンプルンものが当てられたのは気のせいだろう。



「ふぁー…結構寝たか?2日酔い的なものもなし。さて、起きる…ん?」


 特に2日酔いのような頭痛もなく目が覚めた俺がベッドから出ようとして動こうとすると異様に体が重い事に気が付いた。それどころか何だか背中側が温かい。…まさか。


「おう…やっぱりか。昨日の背中の違和感の正体はこれか」

「うーん…ソーマ様…そういうことは2人だけの時にしてくださいよー…むにゃむにゃ…」


 俺の背中にはまるで俺が夢の中でセクハラをしているかのような寝言をつぶやいているユカリが腕を俺の胸で囲い、足を絡ませながら寝ていた。昨日のプルンプルンの何かが背中に当たったように思ったのは気のせいではなかったようだ。


「おいおい…お前酒飲んでない時はこんなに寝相悪くないだろ?おーい!早く起きないと他の生徒に見つかる前に旅に出れないぞー」


 どれだけ呼び掛けてもまったく起きる気配がないので、ユカリをおんぶしたかのようにして起きる。足が支えになって中々落ちてこない。それどころか腕の力を強めて更に俺に抱き着いてきている。まるで赤ちゃんのようだ。こんなに大きな赤ちゃんは俺としてはごめんだが。


「面倒くさいな。まったく、昨日の片付けでもしてたら起きるだろ」


 昨日のユカリと俺が飲んだ酒と果実水の瓶がたくさん並んでいるのでそれを指輪の中にしまいながらユカリが起きるのを待つ。


「うーん?あ、ソーマ様。おはよーございます」

「おはよう。さっさと降りて支度しないと間に合わなくなるぞ」


 起きたユカリはすぐに状況を把握したようで、顔を真っ赤にしながら俺の背から降りて、焦りながら旅立ちの準備をしている。


「どうだった?俺の背中で寝る事は」

「うぅ…恥ずかしいです」


 恥ずかしいというよりも情けないの方が先に来るかと思っていたんだが…意外だな。


「恥ずかしいと思ったならさっさと準備すれよ?何度も言うが早くしないと他の生徒に見られるぞ。ユカリがいなくなった後の処理をするのは俺とハンナなんだ。最後ぐらい頼らせろ」

「分かっています。最後ぐらいっていうか、いつも頼ってますけどね」


 そんな他愛無い話をしながらユカリは支度を終わらせた。…会えないと分かってはいても、しばらく会えないっていうだけで寂しい気持ちは無くならないか。


 まだ生徒たちが起きていない隙に寮を出て、正門のところまで見送りに向かう。


「もう思い残すことはないか?…って言う言い方だと一生会えないみたいだから止めておくか。忘れ物は無いか?」

「もう、ソーマ様は心配性ですよ。しっかり持ってきたものは持ちましたし、ソーマ様からもらった物もしっかり身に着けていますよ」


 そう言ってユカリは首にぶら下げている紫の宝石が嵌め込まれたペンダントを見せてきた。このペンダントにはもしユカリに何かあった時用の様々な仕掛けが施されている。ユカリにはどんなこうかがあるかだとかは伝えていないし、作った俺自身もかけた仕掛けが多すぎてあまり覚えていない。


 金だって渡そうと思ったら「以前もらった物があるのでそれだけで十分です。それに、お金稼ぎも含めて私の修行ですから」と、断られてしまった。前に渡した量でも使っていなければ結構の額があるのでそう添いの事ではなくなりはしないだろう、が一応渡しておきたかったのだ。


「そうか…何年かかるか分からないんだったな。何か困ったこととか寂しくなったらいつでも念話をかけてこい。相手になってやる」

「はい、ソーマ様も私がいないからっておかしくならないでくださいよ」


 まったく…どっちのセリフだそれは。よし!いつまで経ってもクヨクヨしててもしょうがないな!一度本人が決めたことだ。笑顔で送り出してやるか!


「ユカリ、いってこい」


 俺は頬を叩き、気合を入れる。そして最近は全くしていなかったので自信がなかったが、今出来る最高の笑みでユカリにいってらっしゃいの挨拶をする。


「…はい!行ってきます!」


 ユカリは俺の笑顔に驚いていたが、すぐに気持ちを入れ替えたのか、そっちも万弁の笑みで返してきた。その目の端には涙が溜まっていた。


 …こうして俺は後悔なくユカリを送り出し、気分は爽快!になって部屋に戻ってから気が付いた。


「あ…ユカリにユウキが本当の弟だっていうの忘れてた」


 だが、後悔を作りたくなかったのでこの話は頭の片隅の更に片隅に深くしまい込んでおくことにした。

3本目です。これで第7章は終わりですね。いやー…何を狂ったのか完全に見切り発車で書いた魔法学校編。意外と長く続いてビックリです!次は特にこれと言った主題がないただソーマがぶらぶらとする第8章です!



…そろそろソーマのこの世界での目標を決めなきゃ。…みんなから完全見切り発車野郎って呼ばれちゃう(手遅れ)

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