第61話 後始末
「…ふぅ。もうそろそろ爆発するな。間に合ってくれるといいんだが…」
〈プロミネンス〉の太陽の部分が少しずつ大きくなっていく。最後はあれが一気に縮小した後、大爆発する。早いとこユカリに言った全力を出さなければならないのだが、この全力は俺1人でやる全力ではない。
「呼んだか?ソーマ様」
「まったく…話の経緯は聞いたぞ?なんだそれは」
「うわ…ソーマ様凄い汗!だ、大丈夫?」
「ソーマさん大丈夫ですか!?」
「なんじゃ?マスター、久々に会えたかと思ったらそんなに疲れおって」
「ソーマ、大丈夫?」
「間に合ったか…」
〈才能覚醒〉が出来ない現状、俺に今出せる全力はリアンにいる人に連絡を取り、呼ぶこと。だが俺が〈魔王の加護〉をかけているのは4神とミラたちしかないのでこれが全員だ。今の俺には〈輸送転移〉させるほどの余裕は無かったので、これで抑えれなかったら大分辛い。
事情は念話で全てとはいかないが今起こっていることは伝えてある。転移してきたミラたちはすぐさまそれぞれが出来ることに移っていく。
避難した人たちはおそらくユカリのお陰だろう、誰1人屋内訓練場から出てこない。あの時気絶しているユカリに俺の魔力をわけ、起こすという考えが思いついていなければミラたちの姿がバレていただろう。
ミラたちが全員で協力してなんとか俺が張っている結界レベルの結界を張った。
「よし、じゃあ俺は今から〈プロミネンス〉を破壊してくる。それまで何とか持ちこたえていてくれ!」
もちろんあんな場所に行くと言われれば反対するだろう。みんなから止めるように言われるが、既に時間がないので無視して結界の中に転移する。
やばすぎる。サウナなど話にならないほど熱い。まあ100万度とも呼ばれるコロナが吹き荒れるこの場所でいくら服に着けた効果で耐えているとはいえ、無傷で持てているだけでもすごい。ただ時間がないな。さっさと行きますか!
「うおおー!これでどうだー!〈絶対零度〉!」
爆発寸前の〈プロミネンス〉を包み込むように結界内を〈プロミネンス〉がもし暴走した時用に考えた対となる魔法〈絶対零度〉が駆け巡る。〈絶対零度〉は発動すると真っ白な吹雪が舞う。この吹雪に触れた瞬間その場所から凍っていくというとてつもなく恐ろしい魔法だ。しかも、吹雪1つに当たるだけで他の場所に当たらなくてもじわじわと凍らしていくのだ。自分で作っておいて怖くなったのは内緒だ。
この服は暑さに対する効果はつけているが、寒さの耐性はつけていなかったので、すぐさま俺の周囲を結界で覆う。ついでにミラたちが張ってくれている結界にも俺の力をつけておく。
しばらくすると真っ白な吹雪が消えていく。〈絶対零度〉が消えた後には〈プロミネンス〉の太陽とコロナは無くなっていた。
「…終わったか。さて…もうそろそろ結界を解除してもらうか」
〈絶対零度〉のいいところは発動中の付近はものすごく寒いのに、消えた後はまるで何も無かったかのように寒気さは無くなるところだ。
ミラたちに念話して結界を解除してもらった。結界内の焼けたり凍ったりとかなりダメージを負った地面は土魔法できれいさっぱり入れ替えてあげた。アフターサービスも充実…と言いたかったが元々俺が引き起こした事なので黙っておこう。
「みんなと会うのは久々だけどどうやら腕はなまってないみたいだな。何よりだ」
「当たり前だろ?いっつも防衛班の訓練ばかりに付き合ってるからな。最近はいろんな仕事がひと段落ついたから俺たちや内政班も時間を見つけて訓練をしたりしてるしな」
オニマルが疲れたように肩を動かしながら軽い近況報告をしてくれる。こういう何気なく報告をしてくれるところがオニマルを内政班の班長にしてから伸びてきているところだったりする。マサムネやユウキも最近国民がしっかりしすぎて暇で仕方がないらしい。
「そうか…やっぱ俺がいなくてもちゃんと国としては回っているな」
「そうでもないですよ?ソーマさんがいないから最近はメイド班の人たちが少し落ち込み気味なんです。ソーマさんもたまには戻ってきて国民のみなさんもそうですが、メイド班や内政班、防衛班などの人たちにも顔を見せに来てくださいね。私も久しぶりにソーマさんの子供の状態をあやしたいです!」
「い、いや…最後のだけは勘弁してくれ。…ま、まあ後で時間を作ってこっち側の報告だとかをしに帰るつもりだからそんなに心配すんな」
さすがにあやされたくはない。あやすというより嫉妬の延長上のようなものだ。俺が子供状態で身長が小さく、力もあまりないことをいいことにうちの女性陣たちがこぞって強制的に抱っこやおんぶをしに来るのだ。以前の風呂に一緒に行こうとしたときの一件以降、俺が真面目に嫌だとはっきり断ればちゃんと諦めてくれるようにはなったので少しは安心できるようになった。
「ミラはいつも通りだが、シェンとシエラも元気か?」
「…私は元気。私は城の中で最年少だからまだ出来ることは少ししかないけど、ソーマがいない分今できることをやっているし、ソーマがジェームズさんの宿に泊まっていた時代に教えてくれた特訓を毎日欠かさずしてる」
「おう…まだあれやってたのな。特訓もいいけど、シエラはもう少し勉強に励んだ方がいいぞ?俺も子供だからあまり偉そうな事は言えないが、大人になって脳筋呼ばわりされるのはいやだろう?」
「…うう、頑張る」
この世界の人間の平均的な識字率は大体90%強ぐらいだ。義務程ではないが親はある程度の年齢になったら学校に通わせるか、自分たちで教えるため読み書きと軽い四則程度の計算は出来る。
だがシエラは生まれも育ちもスラム街なので、そういう勉強にはまったく触れあっていなかった。最初は会話は問題なく成立していたので特に気が付かなかったのだが、魔王城を取り壊して今のリアンの城を作り、王会議をしだした頃から文字を書いたり読んだりする機会が多くなってきた。その時に初めてシエラがまったく計算も読み書きも出来ないことを知って、今慌てて勉強しているところなのだ。
慌てた成果もあり、ほとんど日常で使う程度の言葉の読み書きは出来るようになったらしいし、簡単な計算もできるようにはなってきているそうだが、やはりまだまだ勉強が必要だ。将来大人になって読み書きや計算ができない奴は俺の価値観ではあまり好まれないと思う。その辺はちゃんとシエラも自覚しているようで、嫌そうな顔と態度はとっているが、帰ってからコツコツと勉強をするだろう。
「で、シェンはどうだ?」
「我か?我はいつも通りじゃぞ?概ね問題ない。赤たちとも定期的に連絡を取っておるのでな。竜の島の方も特に問題はないそうじゃ」
「そうか、それは良かっ…た……ん?少しだけ髪切った?」
俺の見間違いかもしれないが、シェンの腰まであった髪が腰と肩甲骨の真ん中あたりまで短くなった気がする。
「ふふ…気づいたかの?あの長い髪が邪魔になったのでな。少しだけ切ってみたのじゃが…どうじゃ?」
「いや…あの…なんて言ったらいいのかな?いい意味ですっげえエロく見える」
「む?どういう意味じゃ?」
「えっと艶めかしくなった?で通じるか?」
「おおそうか!我はマスターからそのように見えるのじゃな?艶めかしいという事は…こんな感じかの?」
「止めろ!その露出の高い服装でそういうポーズをとるな!俺は思春期なんだぞ!?」
意味が伝わって気分を良くしたのかシェンは執拗にエロいポーズを決めまくってくる。シェンは基本的に白を基調とした本当に露出の多い服…表現が難しいがひらひらのついてないまっすぐなミニスカート?は太ももの半分よりすこし短いぐらいの長さ、上は肩までしかなく、長さも胸とへその中間までしかない俺の〈エンチャント〉で寒さに対する耐性を強めにつけなければ絶対に風邪をひくであろう服装なのだ。思春期の俺からすれば少しでも気を抜けば危ない関係に発展しそうで怖い。
「むう…惜しいと思ったのじゃがな」
「何が惜しいんだよ。はぁ…まあみんな色んな意味でいつも通りで安心したよ」
「おう。ソーマ様のいつも通りで何よりなんだけどよ。ユカリはどこにいるんだ?確か情報ではこの学校に教師として来てるんだろ?どんな感じか見てみたいぜ!」
完全にオニマルの言い方はユカリの姿を見て馬鹿にするような言い方だ。マサムネも大体そんな感じでユカリを待っているみたいだ。ユウキは…帰りたさそうだな。急に呼んだとはいえ。4神には初めてのリアン以外の場所になるのだ。引っ込み思案のユウキには辛いだろう。
「ユカリはお前たちの存在がここにいる生徒たちにバレないようにと、避難という目的であそこの建物にいるよ」
「存在がバレないように?なんでバレたらダメなんだ?」
わざわざ一から説明するのも大変なので、いらない部分を省略して、あらましが分かるように大事な部分だけを説明する。
「なるほどな。納得がいったぜ。そういう訳ならさすがに会いに行くわけにはいかねえな。今度ソーマ様が帰ってくるならそん時に一緒に連れてきてくれや」
「ああ、分かった」
「そんじゃ俺らはおいとまさせてもらうぜ。〈魔王の加護〉だっけか?あれも転移の魔法以外は残して元通りにするんだろ?」
「そのつもりだ。それじゃあ元気でな」
「そっちこそな!」
「それじゃあ楽しみに待ってますね」
「では我はまた更にマスターに艶めかしいと言わせるために自分磨きでもするかのう」
「…それじゃあまた今度」
来た時と同じように〈魔王の加護〉で一時的に使えるようにしてある〈ワープ〉で帰って行った。シェンの言葉が引っ掛かったがそれほど問題ないだろう、…と思いたい。
無事にすべての後処理が終わったので屋内訓練場に向かう。屋内訓練場に入ると、生徒たちがおしくらまんじゅうのように結界の中で待っていた。ユカリは結界の外で瞑想をしている。あれは魔神と魔獣界で最強の魔法使い、ユカリの特殊な魔力補充の方法だ。
「ユカリ先生。全部終わったぞ」
「…終わりましたか?すみませんでした。またソーマ君に頼る形になってしまって」
「まあ頼られるのは構わないんだが…なんでハンナが横で気絶してるんだ?」
瞑想をしていたユカリの横にはぶっ倒れたまま気絶しているハンナがいた。
「それは…軽い事故です。気にしないでください。それよりも、終わったのなら生徒たちも帰らせていいですね」
「そうだな。その辺は俺がやろう。まだ完全に魔力が回復しきってないだろ?先生はもう少しゆっくりしててくれ」
「そう…ですね。本当に何から何まですみません」
ユカリの謝罪を手を振って返し、結界でパンパンに詰まるように待っていた生徒たちに言える段階の事情を説明する。言える段階と言ってもあの結界内の状況がやばかったから避難してもらっていた、ということとそれはもう片付けたので寮に戻ってもいいという事ぐらいだ。
「ふ、〈ファイアーボール〉!」
俺が生徒たちに説明を行い、少しずつだが何となく理解してもらっていた時に。後ろから声が響いた。
その声が魔法の詠唱だったので慌てて後ろを振り向いた瞬間には既に顔程の大きさの〈ファイアーボール〉が俺の目の前にあった。
唐突すぎて回避もできずにもろにくらう俺。周りの女子たちから悲鳴があがり、周囲がざわめきだした。
「ん?なんで後ろから〈ファイアーボール〉なんか飛んで来たんだ?…ああ、そういう事か」
俺の目線の先には小さな携行型の杖を持ち、足腰を震えさせながら俺に怯えるハンナの姿があった。
「なあハンナ!今、俺に何をした?正直に答えるなら何もしないから答えろよ」
「ひっ…」
少しだけ威圧を込めた言葉をハンナにだけ向けて放ちながら、ハンナに向かって歩き出す。ハンナはペタリと床に座り込んでしまった。さて…この小娘をどうしてやろうか。
GWですのでもう1本投稿させてもらいます。それと、出来れば週二ぐらいには投稿ペースを戻したいと思っています。
次の話の投稿は21時過ぎを予定しています。お楽しみに!




