第60話 ぶつかり合い
「どうだ?俺の張りなおした結界は。これなら全力で戦えるか?残念だが、俺はお前の実力を「瞬光」のみんなと特訓した時のあの時しか知らなくてな」
「そうでしたね。ですが、この結界なら破れないでしょう」
昨日の夜に張った結界の中でユカリから感想を聞く。俺たちが入った時に阻害結界を張った。つまり、防御結界、防音結界、阻害結界という俺が普段頻繁に張る結界を贅沢に何重にも重ね掛けした特別結界なのだ!
ただ特別結界とは言え、所詮は俺がいつも張る結界をたくさん張っただけなので1つ1つの耐久値はそれほど高くない。なのでユカリの本気がどれくらいかまだ分からないが、多分本気の本気を出されたら氷の膜みたいに割られると思う。その時はその時で瞬時に張りなおすつもりだが。
「ソーマ様、朝から気になっていたことを聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
「何故今日はいつものローブではなく、私服なのですか?」
俺はあの黒い禍々しいローブではなくリアンで特に執務などがない時などに着ていた平民が着る服装で来ている。理由はただ1つ。
「あのローブには何の〈エンチャント〉もかけてないからすぐにダメになる。これから結構色んな効果をかけてるから多少の事では汚れすらつかないからな」
結構ローブは洗うのが大変なのだ。この学校はリアンのように洗濯機などない。服は王都内のいたるところを流れている水路から引いてきた水で洗うか、水魔法などを駆使して洗うしかない。そのため汚れたり破けたりするのが分かりきっているこの場にあのローブで行くより強い私服の方がいい。個人的の理由として挙げるなら、あのローブは動きにくい!それだけだ!
「なるほど、仮に肉弾戦も考慮するのでしたら私もこんなローブではなくもう少し動きやすい服装の方が良さそうでしたね」
「ん?別にローブを脱ぐだけでいいだろ?別にその中に何も着ていないわけじゃあるまいし」
「そうなんですが…一応魔法使いという名目でここにいますので、分かるような服装は大事かな?と」
「そっか。ユカリが転んで怪我とかしないなら俺は構わないぞ。で、今度は俺から質問していいか?」
「はい、なんでしょう?」
「なんで周りにこんなにたくさんギャラリーがいるんだ?」
俺とユカリがいる結界の外にはたくさんのギャラリーがぞろぞろと集まってきている。俺のファンクラブのやつらだけかと思ったら、男子もかなりいた。比率は5対5の半分ぐらいだ。
「あー…確か学園長先生がせっかくだから他の生徒にも見学してもらえばいい授業になりそうだわ!みたいな事を上機嫌に言っていたような気が…」
「また学園長の計らいか…。そんじゃあ俺本気出せねえじゃん」
「そうでもないみたいですよ?もう既にソーマ様のある程度の実力はあの騒動で把握されてしまっているので今更という感じみたいですね」
今更と言うか、その今更を生み出した張本人こそが俺がこの魔法学校に在学する条件として魔王だとバレないように性格と口調を変えること、更に人間だと思われる程度の魔法しか使わないことを条件に付けてきた学園長なのだが…もうどうでも良くなったみたいだ。まあユカリが全力を出しても、俺が全力を出すことはないと思うし、この手合わせで俺が魔王だとバレる可能性はほぼ無いからな。
「それならいいか。それじゃあそろそろ始めるぞ?準備はいいか?」
「大丈夫です。最初から全力で行かせてもらいます。私の降伏条件としては私の魔力が切れるか、私が戦闘不能になるかのどちらかで良いですね?」
「ああ、逆に俺の降伏条件は俺が降参した時で良いな?」
「はい」
「よし…じゃあいくぞ」
お互い無言の了承で3歩ずつ下がる。そして俺は無いが、ユカリが杖を構える。戦闘開始の合図はユカリが魔法を打ってからという俺にとって少しハンデになるものにしている。
「……では行きます!〈ウィンドバズーカー+ソニックブーム〉!」
ユカリが俺に向けた杖から〈ソニックブーム〉という一直線上にすさまじい速さの風の通り道を作る魔法により、音速を超える速さと、直径2mにもなろうかという全てを切り裂く風の大砲〈ウィンドバズーカ―〉が放たれた。
それにしても複合詠唱か。習って初めて知ったけどこういう魔法の使い方もあるらしい。主に混合魔法を扱うほどの魔力がない人が若干の威力や効果を下げつつも、混合魔法と同じような魔法を使えるようにしたのが始まりらしい。
お互いの距離は20m程しかないので音速の〈ウィンドバズーカ―〉など瞬きする暇もなく俺にぶつかる。だが、俺の着ている魔改造された服の様々な効果により〈ウィンドバズーカ―〉は俺に着弾する寸前に掻き消えた。
「これが洗礼か?この程度で魔王である俺に届くとでも思ったのか?」
「まさか、全力で行くと言いましたがこれはほんの小手調べです。では次から本気で行くますので少々お時間を」
「いいぜ。いつでも待ってやるよ」
ここでの会話や、どんな魔法を放ったかの詳細は全て阻害結界で無効化されるので言いたい放題やりたい放題の空間だ。
少々時間がかかる、という言うので集中しているのは確かだが、これはおそらく詠唱のためではない。
「…ふぅ…」
目を閉じ、深呼吸をしていたユカリが目を見開いたと思ったら、ユカリの体の周りに赤いオーラが纏い始めた。これは闘気を纏っている証拠だ。しかも、不完全な闘気ではなく洗練された透き通るほど綺麗な赤い闘気。さすがは4神だ。おそらく闘神であるオニマルに教えてもらったんだろう。
「闘気か。しかもいい闘気じゃないか。それじゃあ俺も真似しようかな」
闘気を纏っている間はかなりの体力を持っていかれる。そのため俺が闘気を纏う時間をユカリが待ってくれるはずがなかった。
「待ちませんよ!〈ハリケーン+アイシクルスパイク〉!」
おお!これは竜巻の中に氷のつぶてを発生させることで更に威力をあげたみたいな感じの複合魔法か。さすがにこういう系統の複合魔法は編み出せても実現させるのに時間がかかるだろう。さすがはユカリだな。
「どうですか?この氷のつぶてが渦巻く竜巻を!さすがのソーマ様でもこれを無傷で凌げますか!?」
「ああ、さすがの俺でも無理だな。…何もしていない状態の俺ならな」
俺のすこし引っかかる言い方にユカリが疑問を持つと同時に闘気を開放する。その瞬間結界の中に赤黒い旋風が吹き、竜巻ごとユカリを吹き飛ばした。
「きゃあ!?」
すぐさま風魔法で体勢を立て直したのか、結界にぶつかるほど吹き飛ばされはしなかったようだ。
「すまん。やりすぎたか?」
「いえ、この程度でくたばるような私ではありません!〈ディープミスト〉!」
ユカリの周囲からモクモクと霧が現れ、すぐに結界内の視界を遮る。この霧の濃さだと手を伸ばした先までぐらいしか見えないだろう。
これもすぐに吹き飛ばそうと思ったが、何か面白いことをするつもりならもったいないと思い、待つことにした。
もし何かあったら困るので常にユカリの居場所がわかるように〈魔力探知〉を発動していたのだが、そのせいでわざわざ遠回りで俺の背後を回るように動いているユカリが丸わかりになってしまった。これではお互い面白くないので、俺のいた場所に俺と同じ温度の風でダミーを作り、俺は服にかけていた熱源探知系の魔法を遮断する効果を発動して、〈フライ〉で上空の結界ぎりぎりまで逃げる。
予想通り霧が晴れた瞬間に俺のいた場所に音速など比ではないレベルの速さで、何かが突き抜けていくのが見えた。あの細さだと体の1か所を貫通させて致命傷にする事を目的とした魔法だろう。あいつ、かなりムキになって俺じゃなかったら死んでるレベルの魔法を打ってるな?そんな奴にはちょっとしたお仕置きが必要だ。
「あうっ!…体が…動かない?」
「悪いな。それは俺の自作の精神系の魔法だ。ちなみにそれは動こうとすれば尚更動けなくなるから気をつけろよ。あんまり試したことないから下手したら神経が切れて一生動けなくなるかも」
俺が地面に降りたとき、ユカリは杖を前に突き出した状態で固まっていた。これは最近新しく作った簡単に言えば精神を支配して動けなくさせる魔法だ。ユカリに使うのが初めてだったので心配だったが、どうやらうまく成功したみたいだ。
説明を聞いたユカリは顔を青ざめて固まっている。
「すまんすまん。そんなに怖がるなよ。すぐに解除するって」
「…おお!動けるようになりました。…ですが…」
「ん?どうした?」
「私がどんな魔法を打っても、軽くその上を行く魔法で対応してくるし、あの霧の中の不意打ち作戦は完璧に決まったと思ったのにいつの間にか見失ったし…私はどうやってもソーマ様に勝てません…どうしたら!どうしたらほんの一掠りでもソーマ様に魔法が当たるんですか!?」
ユカリは自分への怒りをぶちまけている。当然その矛先は当の本人である俺に向いている。
「…それは今お前が打ってる魔法は全部ユカリのために俺が考案して伝えた技術だ。自分で考えた技術なんだからそれに対抗する策を練っておくのは当然だろ?ただ、霧の作戦は想定外だった」
「…確かに私はソーマ様に教わった魔法しか放っていませんでした、でも!私はソーマ様に教わった魔法でソーマ様を越えます!〈プロミネンス〉!」
「まずい!」
俺はユカリが魔法を唱える瞬間にユカリと一緒に結界の外に転移、魔法が出る前に直接結界を張って、強化する。
「ぐう…さすがは闘気を出してるユカリのうつ魔法…直に結界を張っても耐えるのが限界か…」
今結界の中には大きな赤い球体と、それから噴き出る高熱のガス、つまりコロナのようなもので溢れている。
ユカリが放った魔法は俺自身で考えたが、あまりにも魔力の消費が大きすぎるが故に、複数で放つ魔法〈プロミネンス〉だ。効果は見た通り正に太陽と呼べるものを生み出す魔法。威力は俺が張っていた結界がすべて吹き飛び、すべて吹き飛びきる前にギリギリ張った魔力を直接送って張っている結界に少しずつひびが入っていることが物語っているだろう。
俺とユカリが転移してきた場所はあまりギャラリーがいない場所だったので誰も怪我することなく転移できた。ユカリは魔力が枯渇して気絶している。ただ、以前のシエラの時のように生命力を魔力に変換してまではいないようだからひとまず命に別状はないだろう。
「ハンナ!いるか!?いたらここまで来い!」
もしかしたらという場合もあるのでハンナを呼んでみる。なぜハンナかというと、単純にハンナしかこの学校の生徒で名前を知っている人がハンナしかいないからだ。
「は、はい!どうかしましたか!?」
ちょうどギャラリーの中にいたらしく、俺とユカリを囲んでいるギャラリーをかき分けてハンナが飛び出してきた。
「あ、あれ!?ソーマ君とユカリ先生!?どうしてここに!?」
「…今は話せん!とりあえずユカリ先生の状態を見てくれ!…多分…気絶してるだけだと思う」
地面に倒れているユカリの様子からなんとなく状況を把握したようで、慌ててユカリの傍に駆け寄って状態を見ている。
…まずいわー。ユカリの方ばっかりにみんな目が行ってるけど俺も限界だわー。魔力は余裕過ぎるけど闘気を併用してるから集中力が…。
集中力切れも俺が心配している要因の1つだが、俺にはもう1つ心配事があった。それは、今結界の中で活発に動いている〈プロミネンス〉の処理。
〈プロミネンス〉は前世の太陽を元に作ったため、魔法の最後は燃え尽きた〈プロミネンス〉が大爆発する。この大爆発は範囲が狭い代わりに莫大な威力があるため、普通の〈プロミネンス〉を抑えているので限界な俺はおそらく爆発を抑えきれない。つまり結界が壊れ、ここにいるギャラリーが死ぬ可能性が出てくる。
〈才能覚醒〉さえ出来れば余裕で抑えれるのだが、そっちの方が周りに影響が出そうだからどしても発動できない。〈プロミネンス〉が終わる前にユカリが目を覚ませばいいのだが…。はっ!そうだ!
「ユカリ先生…受け取れ」
「…ん…んん?ハ、ハンナさん?それにソーマ君と…みなさん?…!!なぜ私たちは結界の外に!?」
「落ち着け!…結界の中を見てみろ。あれを抑えるのに俺は手一杯だ。ユカリ先生はひとまず周りのやつらを連れて校舎の中か、屋内訓練場に逃げ込め!」
「で、でもソーマ君は!?」
「みんなが避難出来次第全力で収める。先生なら俺の全力の意味が分かるな?」
俺の言葉の意図を察したようでユカリが状況を呑み込めていないギャラリーを連れて屋内訓練場の中に避難していった。
投稿遅れてしまいました。申し訳ありません




