第59話 ファンクラブ
いじめ騒動だとか、俺の自主練騒動だとかで学校全体が慌ただしかった日々も少しずつ収まって通常運転に戻り始めて来た。
仕向けた通りに授業量と、担当する生徒の数が増えたことに半分嬉しさで半分怒りでユカリが俺に報告してきたり、ハンナが騒動の後にすぐ感謝を伝えられなくてごめん的な事から始まった大量の手紙が俺の部屋にあったり。更にそれをやっとこさ読み終わった後にご本人に呼び出されて色々感謝だとかをされた後に、俺が辞退した生徒会長になったと報告されたりと俺だけは中々通常運転に戻れなかった。
そんな日々がしばらく続き、ようやく俺も通常運転に戻れるかと思いながら校舎の廊下を歩いていた。でも、そんなに現実は甘くなかった。
「…なんだこれ?」
俺がふと廊下の掲示板を見たとき、信じられない張り紙を見つけた。その名は“ソーマ様ファンクラブ会員募集中!”と大きく書かれた紙。その下には場所やら募集要項やらが書いてあった。1番最後には…“ファンクラブ会長 ハンナ”の文字。
「はぁ…いつの間にこんな気持ち悪いクラブなんか作ったんだよ」
もう頭を抱えるしかなかった。特にファンが出来るような行動をした覚えもない。どちらかと言うとファンと言うよりアンチを増やす言動しか取っていないつもりなのに。
まず事情を知っているであろう学園長に聞きに行った。ファンクラブなのだからそれほど大きな規模ではないだろうし、もしかしたら知らないかもしれないが、知らなかったら知らなかったで報告になる。
ノックをして、返事が来たので中に入る。学園長は机でデスクワークをしていた。
「こんにちわソーマ君。どうかしたのかしら?」
「学園長…知ってますか?最近この学校に俺のファンクラブとかいう凄く気持ち悪いものが出来たのを」
「ええ、もちろん。だって私が認可したのよ?」
しれっと言う学園長に若干の殺意が沸きながらも堪える。まさか学園長もファンクラブ側に回っているとは思わなかった。
「なんで認可したんですか?元々俺の性格や口調を変えるように指示したのはあなたとアレクサンダーさんじゃないですか。ファンクラブが出来たという事は俺の行動を見張る人数が格段に増えたという事。つまり俺の演技がバレる危険性が高まるかもしれないんですよ!?」
「もちろんそんなことは分かっているわ。でもソーマ君は知らないかもしれないけど、そのファンクラブに入会している人はうちの学校の女子生徒の半数以上を超えているのよ?そんな大勢の人数が個人個人であなたの言動を監視するよりもファンクラブという1つの団体にした方が危険性が減るとは思わない?」
学園長の言葉を聞いて、寒気がした。まだ編入してから1か月も経っていないのに既に学校の女子生徒の半分以上が俺の行動を見張るようになっているという信じられない事実。出来るならいっそのこと学校から退学にされたい。ちなみにあのいじめ騒動でいじめグループに入っていた少年以外は全員もれなく退学処分になった。その点は俺もいじめの抑止力になるとは思った。
「はぁ…分かりました。確かに学園長の判断は正しいと思います。それで、あのファンクラブの詳しい活動内容はどんな感じですか?」
「そうねぇ…まだ結束して数日だからあまり活発的ではないけれど、今の段階ではソーマ君を陰から見て楽しむぐらいの活動かしら?それも数百人規模で」
「数百人規模って…もうその規模になったら危ない宗教レベルじゃないですか。とにかくソーマ様ファンクラブがあることは俺は別に構いません」
「あら?それは本人が認可したっていう事でいいのかしら?」
「…好きにしてください。ただ、ファンクラブがいつの間にか過激派にならないようにだけ気を付けてくださいね!あくまで俺はまったりした学校生活を送りたいんですから!」
俺に危険が及ばないレベルに管理することを学園長に約束させ、学園長室から出る。出る最後に学園長が書いていた紙を少し覗いたところ…俺がファンクラブがあることを認可した的な事をファンクラブ会員に伝える紙をもう既に書いていた。これで完全に学校全体が俺の敵に回ったな。
この僅かな時間でかなり精神的な体力を奪われた俺は次の授業がユカリの授業であることを思い出し、少しだけ希望が生まれた。
気が付けばユカリの授業を受ける生徒もどんどん増え、今では講堂でも収まりきらなくなっているらしい。ユカリ本人も半分嬉し気に、半分疲れ気味に授業をしているようだ。その大半が俺のせいなのでどうすることも出来ないが。今のところ学園長に俺がユカリの代わりに授業をすることを提案しているが、俺の素性などのため、中々認可されないのが現実だ。なのでもう少しユカリには頑張ってもらいたい。
講堂に入ると既に席は全部埋まっており、壁に寄り掛かって授業を受けようとしている生徒もいるぐらいだ。みんなの前で授業の準備をしているユカリも忙しそうだ。仕方がないので助け舟を出すことにした。
「大丈夫か?ユカリ先生。手伝うぞ?」
「あ、ソーマ君。大丈夫ですよ…と言いたい所ですが、全然大丈夫ではありません。申し訳ないですが助けてもらえますか?」
「任せろ」
手伝うと言っても授業に使う紙などを前列の人に渡してそれを後ろまで回してもらったりするだけなので大して手伝いにはなっていない。
そしておそらく俺のファンクラブの会員であろう女子たちが俺に熱を孕んだ視線を向けてくるのが辛い。しばらくすれば収まるのだが、それでもずっとこっちを見てはうっとりしている。
ユカリの授業の準備だけして、ユカリに体調が悪いから部屋で休んでいるという表向きの嘘を伝え、いつからか出来た俺のファンクラブの会員の視線が辛いから逃げるという裏の本音を念話で伝え、許可をもらったので部屋に帰った。
最初は普通の学校生活を送りたかったし、送れていたのだ。世界が違うから前世と同じ事は出来ないと思っていたので多少はおかしなことがあっても我慢しようと思ってもいた。でもさすがにこれは我慢できないだろう。まずどういう順序で俺のファンクラブが出来たのか全く分からない。
「考えても無駄か。うん、寝よう」
俺は考えるのを止め、夢の中に逃げ込んだ。
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「…様。ソーマ様」
「う…んあ?ユカリか?おはよう」
「おはようございます。というよりこんばんわの方が時間帯的に正しいですけど」
ユカリに起こされた時にはもう日は落ちていた。どうやら結構ぐっすり寝ていたみたいだ。晩御飯の時間ももう終わっているみたいだしな。
「もうこんな時間か。どうした?何か用事でもあるのか?」
「最近ソーマ様が忙しそうにしているので何か出来ることは無いかな?と思いまして」
「俺よりも絶対にお前の方が忙しいだろ?それにお互い疲れる場所が違う。お前は体力的疲労と精神的疲労の両方、俺は精神的疲労だからな」
ユカリの方が肉体面でも精神面でも相当疲れているだろう。朝から晩までみんなの授業をする体力、更に次から次へと授業の内容も変えなければいけない。精神面もかなりすり減っているだろう。たかがファンクラブ如きでへばる俺がダメなんだ。
「そうなんですけど…どうしてもやっぱりソーマ様の事は放っておけないというか。一応そのファンクラブ?の人にあまりソーマ様に迷惑をかけないようにっては言ったんですけど、効果があるかどうか」
「じゃあさ、今度気分転換に魔法の打ち合いでもする?ユカリもいっつも教える側じゃなくて、たまには教わる側に回りたいでしょ?まあもう学園長に言って屋外訓練場を貸し切りにしてもらっちゃったから拒否権は無いんだけどさ」
実は学園長とファンクラブについて話していた時に、最近忙しすぎるからユカリの明日の仕事を休みにすると言われていたのだ。その時にせっかくだからユカリと手合わせするために屋外訓練場を貸し切りにさせてもらったのだ。
そういう主旨をユカリに伝えると、ものすごい勢いで嬉しそうに食いついてきた。
「それじゃあやるってことでいいな?」
「はい!」
「じゃあ明日は教師と生徒っていう関係じゃなくて久しぶりに元の関係で全力でぶつかってこい。周りの事は俺がなんとかする」
「分かりました!では、私は早速明日のために休息をとりますね!」
「おう、おやすみ」
もう日は落ちている所為もあって、かなり張り切っているユカリも明日のために体を休めるらしい。俺も寝ようかと思ったが、さすがに屋外訓練場のあの結界でやるわけにはいかないので結界を張り直しに行く事にした。結界を張りなおすことも学園長に許可を取ったし、ついでに元の大きさに戻すときに俺レベルの強力な結界に張りなおしてほしいとも言われた。
まずは張られている人が数人入れるほどの小さな結界をパンチ1つで破壊して、綺麗になったただの広いグラウンドに半径30m程の結界を張りなおす。〈才能覚醒〉を使っていないため、その後に張った結界の外に
更に同じ結界を何重にも重ね掛けして強化していく。これで俺の〈ブラックホール〉や〈カオス〉のような余程の強い魔法や攻撃でもない限り破壊はされないだろう。
夜なので例え屋外訓練場の方を見ている人がいても暗くて何も気づかれないだろう。気づかれても結界を張り替えているのが俺だというのはバレない。
結界を張り替え、指輪の中に入っているパンなどの軽食を部屋の中に戻って取り、明日の万全な体制を整えて、寝ることにした。




