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第58話 いじめの後処理

「失礼する」


 少年を連れて学園長室に入ると、そこにはユカリに抱きしめられて頭を撫でられたままユカリの胸で嗚咽を漏らして泣いているハンナ。気絶から目が覚めて、縄で拘束され、正座させられながら気絶しているいじめグループ。そして学園長の机で腕を組み、その上に額を乗せて考え込んでいる学園長がいた。軽い地獄絵図になっている。


「やっときましたか…とりあえずソーマ君、お疲れ様でした。あなたには生徒らしからぬ事をさせてしまったと学園長として謝罪します。ごめんなさい」

「ん?ああ、気にするな。誰だって出来るかどうかは別としてこういう行動を取るだろうさ。それは俺にしても例外じゃなかったってことだ。にしても…あの一連の行動を魔道具を使って録画、更には全魔法学校生徒及び教職員に向けて生放送するのは止めていただきたい。言葉を選ぶ側になって考えてほしかったな」

「あら?気が付いていたのね。私のオリジナル魔道具に」


 実は俺がいじめグループと色々やっていた事は学園長が作ったと思われる浮遊する魔道具によって撮られていたことは知っていた。それが学校内の至る場所に結界に映し出されて生放送されていたこともだ。そのためにわざわざ「魔力消費を考えて」とか普通の人間のような事を言ったり、わざわざ屋上から落としていじめグループを運んだりしたのだ。それでもハンナを救う時はどうしてもあの手段が1番怪しまれにくいと思った結果なのだ。


 誰が見てもあのスピードは怪しむだろうが、この世界には「魔法」という素晴らしい言葉があるので問題は無い。聞かれたら風魔法でスピードを上げたとでも答えておけばいいだろう。


「あんな魔道具を操れるのはここ魔法学校ではあんたしかいないだろう?表向きはな」

「それもそうね。で、その抱えてる子がソーマ君の言っていた巻き込まれた子?」

「そうだ。とりあえずは眠ってもらってるが、こいつら三下どもとは違ってどちらかと言えば被害者側だから勘弁してやってほしい、とそこで泣いてるハンナにも伝えてやってくれ」

「分かったわ。私からは以上だけど、ユカリ先生からは何か言いたいことはあるかしら?」


 ハンナに胸を貸しているユカリが顔だけ俺の方を向けた。その顔は嬉しさと申し訳なさが混ざったような複雑な顔だった。


「今回ソーマ君には非常に助けてもらいました。本当に最初から終わりまでソーマ君がいないと何も出来なかったです。感謝してもしきれません。それはハンナさんも同じだと思います。ハンナさんの事や今回の後処理は私と学園長先生に任せてください。ソーマ君は部屋でゆっくり休んでください。本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました」


 ユカリはあくまで先生としての言葉づかいで言っているが、本当に言いたいことを言っているのだろう。言い終わった後の顔は晴れやかな笑顔だった。こういう笑顔を見るだけでおそらく働いた後の人は頑張ってよかったと思えるのではないだろうか。


「別に感謝されるほど働いた覚えはないが、まあハンナにトラウマが残らない程度には綺麗に後処理してくれよ」


 俺は少年をソファに降ろして、学園長室を後にした。感謝されるほど働いていないとは言ったが、実際体はかなり疲れていた。今にでも部屋に転移してベッドにダイブしたいが、俺には残された俺だけの後処理があるので校舎から屋外訓練場に向かう。


 屋外訓練場に出る扉を開けたら、やはりかなりの数の男子女子両方の生徒が集まっていた。そう、あんなものをリアルタイムで見たら人は本人に会いたいと思うものだ。これを乗り越えて俺の今回の騒動のすべての後処理が終わるのだ。


 校舎から出てきた俺に声をかけてきたのは確か“情報部”とかいうこの学校の部活動に所属している女子生徒。この学校にはこういう学校のためになるような部活が用意されている。主に情報を集めてそれを校舎内の掲示板に掲示し、生徒に情報提供をすることを仕事とする“情報部”。逆にそういう情報を文字ではなく放送と言う声で提供する“放送部”などがある。当然俺は入る気が無いのだが、仮に合ったとしても色んな理由で学園長から止められるだろう。


「先ほど謎の配信が学校中にされましたが、あれは事実ですか!?」


 まるでリポーターのように声をかけてくる情報部。非常にうざい。この性格を装っていなくても俺はこういうインタビューが苦手だ。


「さあな。気になるなら事を起こしたグループ本人たちに直接聞いてみればいい。それまでにあいつらがこの学校に在学出来ればの話だがな」

「な、なるほど…で、ではあの女子生徒を一瞬にして抱えて移動したのはどのようにして行なったのでしょうか!?」


 やっぱり聞かれると思った質問が飛んできた。


「そうだな…具体的にどんなことをやったか聞かれると絶対に真似できんだろうから似たようなことがやりたいやつがいるんなら俺と同じ日に入ってきたユカリ先生に聞いてみろ!あの先生なら完全とはいかないにしろ、何となくのコツぐらいは教えてもらえるだろう。1年生である俺に出来てあんたら先輩に出来んことなどないだろう?せいぜい頑張って見せろ」


 ユカリに責任転嫁をして、最後にここにいる先輩方を煽っていくという最悪なスタイルを見せた。これにはさすがのギャラリーもブーイングの嵐…かと思ったが、意外にも歓声があがっているのはなぜだろうか?それほどユカリに期待させたのは大きかったのか?まあいいや。多分俺には答えが出せない系のやつだ。


「ほほう!確かにユカリ先生はつい最近来られたばかりの新米教師でしが、その人気は断トツですからね!これは更にユカリ先生の受け持つ授業が増えそうな予感!」


 あっ…ついさっきまで初めての午前授業で寝てたユカリに更に仕事を増やした気がする…。どうしよー…いいか!もし人手が足りなくなったら最終手段として俺が特別授業でもやるか!…誰も来ない気しかしないけど。


「それでは最後に、つい先日生徒会総選挙にて生徒会長に立候補され、断トツで1位当選されたのにも関わらず、辞退された理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、それは別に俺が立候補した訳でもないしこんな学校のために俺が忙しくならなきゃいけない理由がない。俺はここでまったりと過ごしたいんだ。いいか?ここにいる奴らに忠告するが、俺の平凡な生活を邪魔する奴らがいたら今回のあいつらみたいに優しく気絶させてもらえるなんて思うなよ?」


 ……なんで煽るようにわざと言葉を悪くして言っているのにほとんどの人が黄色い声援を送ってくるのかまったく理解できない。誰かー助けてくれー!


「これでいいか?さっさと部屋に戻りたいんだが」

「すみません!以上で質問は終わりです!みなさん平凡な生活のために解散してくださーい!」


 生徒たちが各寮に戻って行ったので俺も自分の部屋に戻る。その途中にうざいほど色んな人にいい意味も悪い意味でも色んな意味で絡まれたのは言うまでもないだろう。当然の報いだな。


 なんとか様々な先輩たちからの絡みという名の困難を乗り越え、部屋に逃げるようにして速足で戻った。そして部屋に入った瞬間ベッドにダイブした。


「あー疲れた。このまま睡眠と言う名の逃げに入りたいところだけどユカリに色々とご報告を受けたりしたりしなきゃいけないもんなー…頑張ろ。あ!そうだ!今屋外訓練場誰も使ってないから久々に自主練でもするか!邪魔しないようにってみんなに伝えたしな。よし!そうと決まればさっさと行くか!」


 俺はまるで現実を何も見ていないかのように自主練と言う1人で行う俺が知っている中で最強の精神安定法に移ることにした。


 とりあえず屋外訓練場の結界が張られている場所に入り、バレないようにその結界の内側に俺の結界を張る。こうすることで俺の普通の攻撃程度なら何の影響も周囲に及ぼさないで自主練に没頭できる。そして一応誰かが見に来られてもいいように結界と俺の結界の間の隙間に霧を詰めて外からは何も見えないようにしておく。

 


 あらかじめ自主練をするので何時間たっても邪魔をしないように、と学園長にだけ一方的に連絡を入れていたので誰も邪魔する人はいなかった。


 もうすでに何時間自主練をしたのか忘れるほど熱中していたと思う。内容としては主に体がきちんと全力についていけるかの自主検査だとか、苦手な魔法の特訓だとか、無名の色んなモードでの剣術の特訓だとかだ。


「…ふぅ。かなり集中してたな。そろそろ晩飯の時間とかそんな感じか?」


 自主練を止めるとお腹がすいてきたので霧と結界を解く。


「あれ?」


 霧が解けて外の風景が見えるようになって分かったが、外が明るいのだ。もしかしたらあれか?外の時間がほとんど進まないうちに自分の精神の中で長い時間特訓していたみたいなやつか?


「どうでもいいからまずは飯を食いに行くか」


 腹が減っているのでご飯を食べに食堂に行こうとしたときに寮からユカリが走ってきた。それどころか男子寮だけでなく、女子寮からも続々と生徒が出てきた。みんななぜか俺を心配するような表情で見ている。


「ソーマ君!大丈夫ですか!?意識はしっかりしてますか!?脱水症状や栄養失調になったりしていませんか?」

「ユカリ…先生?何言ってんだ?確かに腹は減ってるけどそんなに大ごとになるほど時間経ってないだろ?」 


 いきなり俺の肩をがっしり掴んで揺さぶるユカリ。そんなに心配されることはないと思うのだが…。


「何を言っているんですか!?ソーマ君が結界の中に入って謎の霧が出てから今出てくるまでもう2日も経ってるんですよ!」

「……あ?2日?そんなに経ってたのか?」


 こりゃー驚いた。どうりでこんなにお腹がすくわけだ。という事は俺は丸々2日も自主練に打ち込んでたのか?すさまじい集中力だな。この驚きを素直に言えないのがもどかしい。


「知らなかったんですか!?一体中で何をしていたんですか!?」

「まあまあ落ち着けよ先生。何をしてたかって聞かれても普通に自主練だが?俺自身もまさか丸2日も気が付かないまま自主練してた集中力にはビックリしたが、それだけだ。早く飯を食いたいんだが…いいか?」

「え?あ、はい。2日分たくさん食べてきてくださいね。皆さん!もう戻ってくださーい!」


 俺もみんなと同じく寮に戻って食堂で2日分とまでは行かないが、かなりの量の食事をとった後、次の日の朝までゆっくり寝た。ちなみにこの日は偶然学校が休みの日だからみんなが集めってきた、と翌日になってユカリからきいた。本当にみんなにはご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんと言えないのが残念だなと思った。


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