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第57話 いじめの実態

 ハンナが図書館から出て行ったあと、ユカリに相談するにもまだ授業をしている時間帯だと思ったので、ひとまず誰にも感づかれないレベルでハンナを尾行することにした。〈魔力探知〉で。いくらいじめと言えど、内容からするにすぐに大ごとになるほどのいじめではなさそうだったからな。念のための〈魔力探知〉だ。


 と言っても、俺はハンナの魔力を詳しく知らないので図書館を出るハンナの魔力を見失わないように追うことしか出来ない。もし見失ったらもう〈魔力探知〉ではハンナがどの魔力か分からなくなる。


 頭の中でハンナの魔力を見逃さないようにしながらしばらく本を読んでいると、ハンナが女子寮のある場所で止まった。おそらく自分の部屋にでも入ったのであろう。


 とりあえず一安心なので俺も自分の部屋に帰ることにした。マニュアルはほとんど進んでいないが、まあいいだろう。


 部屋に戻ると、既に今日の授業を終えたユカリが机にうつぶせになるようにして寝ていた。そういえば今日は初めて授業が午前で終わるって嬉しそうだったな。ユカリはここに来てから毎朝から最後の時間まで授業が入る人気者だったからな。


 寝るならベッドで寝ればいいのにと思い、移動させようとしたが、どうやらユカリは授業内容とその授業をした時の生徒の反応などを細かく紙に纏めていたらしい。


「まったく…初めての午前終わりでも結局授業の事を考えているのか。大変だな…人気教師って」


 寝ているユカリを見ていると俺の方も眠たくなってきたが、寝てしまうと念のため一応発動している〈魔力探知〉が外れて、ハンナがどこかに行ったときに確認できなくなるので我慢した。


「ふぁー……寝ちゃったー…さて、気合入れて仕事しなきゃ」

「気合の入れすぎには注意してくださいよ?人気者のユカリ先生?」

「ひゃ!?…ってソーマ様でしたか。やめてください。びっくりしたじゃないですか」

「悪い悪い。でも目は覚めただろ?正直俺は忙しいから伝えたい事だけ伝えたら行くからな」


 起きたばかりのユカリに図書室でハンナから聞いたことを伝える。最初は眠気眼をこすりながら聞いていたユカリだったが、事の重大さに気づいたのか、気が付けば既に真剣になっていた。


「…なるほど。私も気になってはいて、何度も声をかけてあげようと思ったのですが、周りに男子たちに止められて肝心な本人と話す機会を作れませんでした。もう少し私が本気になって早めに対応していれば…私の責任です」

「だろうな。今回はうちのクラスの担任であるユカリに責任があるな。それは俺がいくらお前の主だからと言って擁護できる問題じゃない。分かるな?」

「…はい。分かります」


 俺の少し強めの発言にシュンとしながらも頷いている。今回のいじめは、何となくではあったがハンナの異変に気が付いていながらも積極的に対応しなければいけなかったユカリに責任がある。


「そして、ユカリに責任があるということは、その主である俺にも当然責任がある。というかユカリの責任は全部俺の責任だ。だから今回は俺の責任だ。…それも分かるな?」

「いえ!そんなことは…ありません…と言いたいですが、ソーマ様がそう思われているのでしたらその通りだと思います」

「ああ、その通りだ。だからこそ俺が責任を取ってハンナをいじめから解放しなければいけない。だが、この学校内において俺よりもお前の方が表では権力がある。そこでユカリにも協力してもらいたい。俺の使い魔ではなく、俺とハンナを含めたクラスの先生としてだ。いいか?」


 いくら俺ら2人の間では俺が責任を取ると言っても、学校一般ではいじめは気づきながらも対応できなかったユカリが悪いという事になるのだ。だがそんなことは誰も望まないだろうし、誰よりも俺が望まないのでここでは俺の責任にするし、最悪俺とユカリの本当の関係や素性を明かしてでもどうにかしてユカリが責任を負うという事は避けなければならない。そのためにもユカリの協力が必要だ。


「もちろんです!私もソーマ様だけの責任にしてこの現実に目を背けるつもりはありません」

「分かった。でも基本的にいじめに片付け等は俺がする。ユカリはいじめがあったと周りに知られた場合の対処と、俺がいじめを片付けた後のハンナの相談役になってやってくれ」

「分かりました!」

「じゃあどう動けばいいかの詳細は追々念話で伝える。それまでここで待機しててくれ」

「くれぐれも危ないことだけはしないでくださいね?ソーマ君」

「分かってる。ユカリ先生」


 お互いの決意を学校内での話し方で伝えあい、俺はハンナであろう魔力のある場所へ向かった。


 ハンナは既に俺がユカリと話している間に女子寮を出て、校舎に入っていた。それを知っているからこそいじめが起きるのにもそれほど時間がかからないだろうと推測できる。


 もし俺とユカリでもどうする事が出来なかった場合、最終的に学園長が出てくれるように事のあらましだけを俺が魔獣界に行く前に学園長に報告した時に渡した念話専用のネックレスで伝えてある。


 学園長もいじめの実態を知らないので、いじめが本当にあるかどうかを俺が確認してから出ないと動けないが、それでもいじめがあると分かれば学校のトップが動いてくれるのは非常にありがたい。


 急いでハンナがいる場所の近くに来た。誰にも見つからないように隠密行動で来たので、問題ないだろう。俺が柱の陰で、ハンナが廊下を歩いている感じだ。


 すると、ハンナがいる廊下の向こう側から記憶が正しければ俺と同じクラスの男子生徒が数人いるグループがハンナの元に集まってきた。


 ここからでは遠すぎて何を話しているのかは分からないが、まだいじめだと確定できる事はされていないみたいだ…と思ったら強引にハンナを連れてどこかに移動し始めた。まだ暴行などはされていなく、ただ腕を掴んでどこかに移動しているだけなので、止めたい気持ちを抑えていつでも止められる準備だけをして後をついていく。


「この先は…屋上か」


 この学校にも屋上はある。普段は立ち入り禁止になっているのだが、知っている人は屋上に行く方法を知っているし、学校側もそれを知っていつつも止めたりしないので実際は誰でも簡単には入れるようになっている。その方法と言うのはただ、窓から屋上に続く梯子がある床まで降りて行くというものだ。それも明らかに学校側が生徒が行きやすいように工夫してあるところだ。その工夫を怪しむため、ほとんどの生徒は行きたがらない。


 男子に連れていかれたハンナを追って俺も屋上へ続く梯子を使おうかと思ったが、バレるので屋外訓練場などに誰もいないことを確認して〈フライ〉で屋上のバレない場所まで飛んで移動した。


「おい!お前がここまで呼ばれた理由は分かってるんだろうな!」

「……はい」


 向こうからは見えない場所で俺はハンナがいじめられるのを待っていた。こういう言い方をすると悪い奴かと思われるが決してそうではない。ハンナには可哀想だがいじめだと誰が見ても確信できる行動を向こうが起こさない限り、俺が向こうをどうにかしても俺が一方的に悪者扱いされるのがオチだ。そのためにリアルタイムでユカリと学園長に何が起こっているか念話で実況しているのだ。


「こ、これでいいですか?」

「貸せ!…ああ?この前言った額よりも足りねえじゃねえか!」

「ひっ!…頑張ったんです。それが、今の所持金全部…です」


(こちらソーマ。どうやらハンナは金を巻き取られているらしい。可哀想だが、証拠としてはまだ足りないと思われる。事前に伝えてあるハンナの行動が起こるまで待ちたいと思うがそちらはどう思う?)

(ユカリです。私としては今にも助けてあげてほしいですが、全てソーマ様に任せます)

(アグラリエルよ。ソーマ君に任せるわ。私は何が起こっただけを記しておくわ)

(了解。このまま実況を続行する)


 俺もだが、ユカリも学園長も今にでも助けてあげたい気持ちを我慢している。ハンナにはもう少しだけ我慢してほしい。


「所持金全部?嘘つくなよ。飛んでみろとは言わねえけどまだあるだろ?俺らは優しいからせめて生活できるぐらいで勘弁してやるよ」


 いじめのグループのリーダーがそういうと、他の取り巻きたちは笑ってリーダーに賛同し始めた。だが、俺はその取り巻きの中に明らかに雰囲気が違うやつを見つけ、報告している。


「…本当なんです。本当にそれだけしか持っていなくて…それがないと生活すら出来ないんです。お願いします…返してください」

「はあ?何言ってんだ?奴隷の分際で調子こいてんじゃねえぞ!」

「っ!た、助けてソーマ君!!」


 いじめグループにリーダーがハンナを殴ろうとした瞬間、ハンナをあまり詳しく知らない俺ですら分かる、ハンナが今までに出したことの無いレベルの大きさで俺に助けを求めた。


「了解」


 ハンナの大声にリーダーの動きが一瞬止まった隙に、久々に出したが音を置き去りにするスピードでハンナをお姫様抱っこして、屋上へ続く梯子の傍まで回避した。


「何!?あいつどこ行った!?」

「ここだよ。お前らみたいな雑魚がここで何してるんだ?」

「て、てめえ!どこから現れやがった!?」


 俺が突然現れたことに驚いているいじめグループたち。まあそうだろう。音速を超える速さで動く人間など見たことがないだろうし、反応すら出来なかっただろうから。


「ソ、ソーマ君?」

「言っただろ?「やばいと思ったときは助けを呼べ」ってな」

「あ、ありがとう」

「感謝なんていいし、後は俺が片付けるし、取られた金は数倍以上にして返すから今は寮の自分の部屋にでも帰ってろ。な?出来るか?」

「う、うん」


 ハンナを降ろし、ひとまず女子寮の部屋まで帰らせた。取られた金などいくらでも増やせる。既にどう動いてほしいかをユカリに伝えてあるのでハンナの事はユカリに任せるだけだ。


「さて…待たせたな、三下ども。とりあえずお前らの話を聞くつもりは無いからその金だけおいてどっかいけ。もし今言った言葉が聞こえなくて、一歩でも動いた奴から敵とみなしてハンナをいじめたとして対処を取らせてもらう。さあ、こい」


 俺は動かないまま手を広げてかかってこいよアピールをして待つ。一歩でも動いた奴と言ったが、一言でも無駄な事を喋った場合も同じ対処をとるつもりだ。例えば「ふざけるなー」とかそんなことだ。命乞いをするのであれば見逃さないこともない。…いや、見逃さないな。ただ見逃すとしても、それはここで対処することだけなので、後々学園長からしかるべき対処がされるだろう。それもここで受ける対処など比べ物にならないくらいのだ。


 俺の忠告が聞いているのか、それとも忠告と同時に出しているその辺の強い魔物と変わらない程度の弱さの〈霊気開放〉が聞いているのか、誰も一歩も動きもしなければ、一言も喋りもしない。


「こないのか?つまらん。しょうがないかた喋ることを許可してやるよ」


 まず喋ることを制限していたかどうかは分からないが、〈霊気開放〉を解除して少しは喋りやすくする。するともうわんさか騒ぎ始める。やれ何をしただのハンナはどこだの騒ぐもんだからうるさくて仕方がない。口は達者だけど体は素直らしい。固まったまま動けないんだろう。


「お前らの質問を1つ1つ丁寧に答えてやるほど俺も暇じゃない。とりあえずお前らを拘束させてもらう。殺されないだけありがたいと思え」


 わざわざ手を出して気絶させるのも面倒なので死なない程度の〈霊気開放〉で意識の根を刈り取らせてもらった。〈霊気開放〉は開放と言いつつも、人物や一定方向に限定して放てる使い勝手のいいスキルだ。今頃下ではユカリがハンナを確保しているころだろうから万が一そこまで効果が及ばないためのコントロールをした。


 俺の〈霊気開放〉でいじめグループがバタバタと気絶していく。だが、唯一いじめをしていることが嫌そうだった取り巻きの少年だけには〈霊気開放〉を当てずに話を聞くために残した。なぜか自分だけが気絶しないこの状況に戸惑っている様子だ。


「俺がなんでお前をあえて気絶させなかったか分かるか?」


 質問に首を横に振る少年。多分俺よりも年上だろうが年齢的には少年の部類に入るだろう。俺が少し特殊だとでも思っておこう。


「そうだな…俺の勘違いかもしれんが、どうにも俺からはお前がハンナをいじめるのが嫌そうな雰囲気だったからな。違うか?」

「そ、そうです。僕は先輩に言われて仕方なく…先生にも言おうとしたんだけど先輩が言ったら次はお前がターゲットになるぞって脅してきて…」


 この少年はやはりいじめグループのリーダーに仕方がなく言われてしていたらしい。少年には悪いが、この人数を普通に運ぶには少し骨が折れるので、仕方なく魔法で眠ってもらった。次起きたときはおそらくこのグループとはいい意味で違う場所にいるだろう。俺の方からもこの少年は悪くないという事を伝えなきゃな。


「この人数をどうやって運ぶかだが…仕方がない。魔力消費の関係上あまり使いたくないが止むを得ん。」


 俺は1人ずつ屋上から屋外訓練場の砂地に向かって放り投げていく。そして、地面にぶつかる瞬間に風魔法で勢いを無くして安全に降ろす。これが転移系の魔法を使わない中で1番普通の人に見られる方法だろう。手荒いが、誰1人として怪我をさせないところは優しいと褒めてほしいところだ。


 無事に降ろし終わり、最後の少年だけは別の場所に運ばなければならないので梯子をうまく使って校舎の中まで運んだ。ふと見ると屋外訓練場に降ろしたというより落とした生徒たちは教師たちに校舎内に運ばれていった。


 俺も念話で学園長に指定された場所に少年を抱えて向かう。おそらくそこで全てを終わらせるつもりだろう。


 少年を連れて向かった場所はもちろん学園長室だった。

この度、色んな諸事情が(些細な事)ありまして、名前を「ライトニング」から「月城 日向」(つきしろ ひゅうが)に変えさせていただきました。


名前が変わったから何かが変わるというわけでもないのですが、自分自身気持ちを更に引き締めて頑張るのでよろしくお願いします!


※当然のことながら実名ではありません

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