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第54話 編入生

 寮の外に出ると、ようやく朝の朝礼のように全員綺麗に整列しているのが見える。どうやら学園長を待っているらしい。


「このまま私についてきて」


 言われるがままに学園長についていく。途中からこちらをちらちら見てくる生徒がいる。整列している後ろを通って来ているので、普通はこっちを見ないはずなのだが何かの弾みで見たのだろう。学園長の隣に知らない女性と不気味な仮面を被った何かを見れば驚くに決まっている。


 幸い驚いたまま叫ぶわけでもなく、ただ固まっているだけなので問題なく他の先生が並んでいる場所まで歩いてきた。


 もちろんそこまで来ると生徒全員に見られるので驚いている。この仮面をしている俺に主に驚いているみたいだ。そういう反応にこれから慣れていかなければいけないので無視をする。


「…ソーマ君はここで待っていてね。私が呼んだらユカリ先生と一緒に出てきてね」

「了解」

「分かりました」


 小声で指示した学園長は、生徒たちの前に向かっていく。


「ええー、生徒の皆さんおはようございます。今日は皆さんを集めた理由はもうわかっていますね?今日から新しい生徒と先生が我が魔法学校の一員に加わることになりました。では、どうぞ」


 呼ばれたので俺を先頭に(と言っても後ろにユカリがついてくるだけだが)学園長の横に並ぶ。


「では隣から自己紹介と頑張りたいことを述べてもらいます」

「…俺の名はソーマだ。今日からこの魔法学校で世話になる。この仮面についてや俺の素性について気になる奴がいるだろうが、答えるつもりはない。俺はここで仲良しこよしをしに来たのではなく、己の魔法を極めるために来たからだ。そういう訳で5年間よろしく頼む」


 これが俺の演技の限界だ。これ以上は恥ずかしくて死んでしまう。己の魔法を極めるとか偉そうな事を言ったがそんなつもりは毛頭ない。だってほとんどの魔法は使えるし、威力や効果だって常人とは非にならないほど強いし。


 ものすごく強気という態度にあからさまに機嫌を悪くしている生徒が何人というか結構見える。客観的にだが全校生徒の数は数百はいる。もちろんその全員となど関われるはずがない、という意味を込めての仲良しこよしは無しなのだ。


 俺の自己紹介が終わったので、隣のユカリが1歩前に出る。


「私の名前はユカリです。得意科目はあまりないのですが、私は運のいいことに全ての7大魔法元素の魔法をすべて扱えるので皆さんの使えて、伸ばしたい魔法属性に合った授業をしていきたいと思います。これからよろしくお願いします」


 ユカリが自己紹介を終え、1歩下がった瞬間生徒たちから盛大な拍手が送られた。俺の時は誰1人拍手しなかった。当然と言えば当然だが、演技でやった分少しは心が痛む。


 誰もが俺やユカリのように全属性の適性を持っているわけではないので、生徒は自分が扱える属性や伸ばしたい属性を担当している教師の授業を選択して受けていく形になる。そういう意味ではユカリは優秀な先生と言えるだろう。


 生徒は俺に、教師はユカリに嫌な目線を向けている。俺は嫌な目線というよりは態度が悪いので「うわ…なんだこいつ」的な目線だ。だがユカリに関しては、中々というかほとんど見ないレベルで珍しい全適性所持者の上に、ルックスもいいので人気が出ることを見越しての「なんとしてでもこの新米教師に仕事を奪われてなるものか!」という決意と嫌味の混じった目線を向けている。


 どちらにしろ学園長とアレクサンダーさんが俺たちのバックにいるのでいじめや嫌がらせは少ないだろう。俺に関してはまず近寄りがたい雰囲気を第一に出すことを目標としているので誰も近づかないだろうが。


「今回はここまでです。皆さんお疲れ様でした。今日からも学問に励んでください。解散!」


 学園長が解散させると、教師は校舎に入って行った。生徒は残っている。多分ユカリに声をかけたいのだろうが、俺がいるからどうしようか迷っているという感じだろうか。だがそれも学園長が寮に入るよう促すと、渋々入って行った。


 今日は学校は休みなのだ。この世界は1か月30日換算で、週5日だ。そして週5日の内最終日の1日だけが学校の授業は休みになる。生徒たちはその1日に街に出て、買い物などをしたり個人個人時間を使ってリラックスしているらしい。


 実は教師はその休みの日は大体校舎などで次する授業の準備をしたりしているのだ。それも人気の先生とあまりそうでない先生とでは明らかな差が出るのでなるべく全員の先生の授業を受けされているらしい。それでも教師は100人近くいるので常に教えっぱなしという先生はいないみたいだ。


 屋外訓練場には俺とユカリと学園長の3人だけが残った。男子寮と女子寮の両方の窓からおそらくユカリに向けてと思われる視線が飛びまくっているのは分かっている。


「さて…周りに誰もいないことだし、今日は何をしようかなー」


 今はここの3人以外声が聞こえるような場所に誰もいないのでラフな感じで喋れる。


「そうですね…私は私で授業の内容の準備等がありますし」

「早いですね。ユカリ先生は新任なのですから、もし仮に授業をすることになってもそれはもう少し先の話に出来ますのに」

「いえ、学園長先生のお言葉もありがたいのですが、生徒のために頑張りたいので」


 ユカリの言っていることは半分本当で半分嘘だ。確かにユカリは前からちょくちょく誰かに魔法を教えたい的なニュアンスの発言を独り言だったがしていた。だがそれほど熱心に取り組むほどの関心は無かったはずだ。おそらく半分は俺と一緒に居たいとか俺に授業をしたいとかそういう自分の欲望のためだろう。


「それはいいことですね。頑張ってください。私も書類やらの片付けがありますのでここで失礼させていただきます。ソーマ君は今日は休みですのでゆっくりして行ってください。…そんな余裕は無いかもしれませんけど」

「学園長の言っていることが起こらないように気を付けながら今日はゆっくりします」


 本当に学園長は忙しいのだろう。それが分かるぐらいの勢いで学園長は校舎に入って行った。


「私も授業の準備等々があるので」

「待て。授業の準備なら部屋でやったらどうだ?どんな授業をするつもりかは分からなけど魔法に関してなら少しぐらいは助言できるかも」


 にわかな知識しかない俺よりも魔人という魔法のエキスパート。つまり本職のユカリの方が知識量が多いに決まっているので断られると思った。


「本当ですか!?ありがとうございます!最初は部屋でやろうかと思っていたんですが、ソーマ様の邪魔になるかな?と思っていたんです」

「邪魔なわけないだろ。ただ助言って言ってもほとんどユカリが知っていそうな事ばかりだろうから逆に邪魔かもな。まあやってみるか」

「はい!」


 ユカリの授業の準備を手伝うために男子寮に戻る。窓からずっと隠れるようにしてたくさんの生徒が俺たちの様子を覗いている。ユカリが男子寮の俺と同室に住んでいることはいずれバレることなので、しょうがないと腹は既に括っている。


「ソーマ君、どんな授業をしたらいいと思います?」

「他の奴らに合わせてでいいだろ。受ける学年に寄るだろうが大体魔法の扱いは初心者だ。丁寧に初級魔法を極めさせることから始めればいいだろ」


 寮に入ってから態度のスイッチをお互い切り替える。もし誰かが聞いていたら、というための保険だ。


 部屋に戻る途中におもしろいことがいくつかあった。まず、寮に入った瞬間何故ユカリが入ってきたのか分からないが喜んでいる馬鹿と、俺が入ってきて遠ざけるような目線を向ける奴が結構いた。


 その次に部屋は2階にあるので階段を上っている途中に生徒と遭遇した。その生徒はユカリを見て、まるで奇跡的に天使に会ったかのような幸せな顔をした後、俺を見つけた瞬間今までの幸せそうな顔から一変、顔を真っ青にして逃げて行ったこと。


 その後何回か俺の姿を見ては一目散に逃げていくという光景が続き、そのたびにユカリが何とも言えない表情をするので仮面の中で苦笑いすることしか出来なかった。


 ユカリの何とも言えない表情というのは、何か怒りと悲しみが混ざったような複雑な顔だ。そんな顔をさすがに何回も見ると、心が痛むので早めに部屋の中に入った。


「どうしたんだ?あんな気難しい顔をして」


 部屋に入った俺は仮面を取らないでユカリに尋ねる。理由は何となく想像つくが、確信を得るためだ。


「いくら仮面を着けているとはいえ、ソーマ様を見て逃げるなど不敬な!と思う私と、生徒だから多めに見てあげようという私がいて少し複雑な気持ちです」


 やはり俺の想像通りの心境だったらしい。それでも召喚した当初よりかは随分と我慢できるようになっている。おそらく最初の頃のユカリだったら既にあの生徒たちはバラバラになっていただろう。それか一生癒えることの無い傷を心と体の両方に負わされていたか。今ユカリが我慢できている理由は単純に教師として生徒に危害を加えたくないというのと、俺がそういうことを嫌っていることを知っているからだ。


「そんなに自分の中で葛藤するぐらいなら本人たちと会って直接話をすればいい」


 俺は部屋の扉を開ける。扉の向こうには大勢の生徒たちがまるで盗み聞ぎをしようとするかのような姿勢で立っていた。


 俺を見て、当然逃げようとするので2方向しかない逃げ場の廊下に阻害結界を張って逃げれなくする。


「ユカリ先生、後の説明は任せた」

「え?あ、はい」


 ユカリが生徒たちのいる廊下に出たところで部屋の扉を閉める。そして再び流し読みをしているのにまだ1割も読めていないマニュアルを読み始めた。


 しばらくして、ユカリが部屋に戻ってきた。話し合いが終わったらしいので阻害結果を解除する。ちなみに話し合いの時間は10分も経っていないのでほとんどマニュアルは読み進められなかった。…残念。


「で?何を話してきたんだ?」

「ソーマ様には申し訳ないのですが、私がソーマ様と親戚のような関係にあること、ソーマ様が仮面を被っているのは過去にトラウマがあるせい、私がソーマ様と同じ部屋なのはそのトラウマが原因で暴走しないように監視する意味もあるなどと、嘘をつきました」         

「いいんじゃね?いい嘘だと思うよ?」

「え?」


 俺の言葉を予想していなかったのかユカリが驚いている。俺も驚いた。まさかこんなに深い設定を瞬時に思いつくとは、と。


 ユカリの思いついて、生徒に説明した設定はすごく使える。まず、俺が仮面を被っている理由を過去のトラウマという他人に掘り起こされたくないであろう設定にして、更に住んでいる部屋が同じ部屋の理由とも括り付けて話していることで俺とユカリが同じ部屋に住むことにそこまで嫌悪感を抱かないだろう。そして、親戚のような関係、つまり血がつながっている関係という設定も合わさって、尚更これらの設定が受け入れやすくなっている。


「…という事だからユカリが話した設定のお陰で、部屋の外でも俺らがくっついて行動しても特に怪しまれず、ユカリが俺を監視するためにくっついていると勘違いすると思う。ナイス判断と考えだ」

「あ、ありがとうございます!」


 ユカリのお陰で部屋の外を歩きやすくなったが、今のところは特に外に出る必要は無いのでユカリの授業の手伝いをする。


 手伝いと言っても、俺が授業を考えるのではなく、ユカリが考えた内容を見てアドバイスをあげたりするだけだ。


 ユカリは全属性の魔法を扱えるが、その中でも得意としている魔法は風魔法だ。なので今は風魔法を中心に授業をするつもりらしい。


 まず魔法学校の授業のやり方なのだが、ものすごく曖昧で最低限の回数を守れれば授業に参加しようがしまいが自由。この学校に在学している生徒はほとんどが自分の扱える魔法の属性の威力や効果を高めるために来ているので出席率は意外と高いらしいが。


 もちろん生徒ごとに適性のある属性が違うので、各属性ごとの先生の授業を生徒は選択して受けることが出来る。例えば火属性と水属性の適性を持っている生徒がいたとして、今日は火属性の授業や特訓、明日は水属性の授業と特訓、というように選べる。


 その属性の授業を受ける生徒でも、扱いに長けている人とそうでない人がいるので、授業内容は大体その属性の魔法の仕組みの説明の授業だったりが多いみたいだ。現にユカリが考えている授業の内容のほとんどが風魔法の説明についての授業だ。


「…ソーマ様の意見も参考にしてもう1度考えてみたんですけど、どうですか?」


 マニュアルを読みながらアドバイスをしていた俺にユカリが授業内容が書いてある紙を渡してきた。この世界にはノートのような紙が束なった物など売っていないので、紙1枚単体で使う。 


「まあいいんじゃないか?」

「本当ですか!?じゃあこの内容で授業をしてみますね」


 ユカリが渡してきた紙にはユカリが2時間以上をかけて考えたの授業内容が書いてあった。その中身は「自己紹介」というもの。それもただの自己紹介ではなく、ユカリが使える風魔法の仕組みなどを紹介しながら自分の事についても紹介するというものだ。


 さりげなくこのような授業内容になるように誘導した理由は風魔法の事も知りつつ、新しく着任してきたユカリのことも知ることができると思ったからだ。ユカリには生徒全員に好かれるようないい教師になってほしいものだ。


 もうそろそろ昼時なので昼食にしようと思っていたところ、丁度マニュアルに男子、女子、の各寮には食堂があり、格安でご飯が食べられるという情報を見つけた。確かに詳しくは見ていなかったが、この寮には食堂のようなものがあった。


「もうすぐ昼だからここで指輪に入れておいた飯でも食べようと思ったけど折角だからこの寮の食堂でも行ってみるか」

「私は大賛成なんですが、ソーマ様は大丈夫ですか?演技をしながら食べるのは辛くないですか?」


 ユカリの心配はごもっともなのだが、それよりも俺の食堂のご飯のおいしさへの興味の方が上回っているので、ユカリに説明して食堂に向かうことにした。


 食堂は1階の俺らの部屋と逆の方向の角側にあるので、何回も同じく食堂に向かう生徒と一緒になった。


 俺の隣を歩いていたユカリに声をかける生徒は多く、俺に声をかけるやつはいなかったが、ユカリの説得のおかげで大分嫌な目で見られることは無くなってきた。ただ逆にそのせいで過去にあったというトラウマを可哀想に思うような目や、そのトラウマが知りたいような目で見られるようになったので俺の精神的な疲れは減らない。


 食堂はかなり広めに作られているのだが、今日が休みという事もありかなりの生徒がいた。席もほとんど埋まっているし、何より賑やかだ。こういう場は先輩後輩関係なく話をしながらご飯を食べるのが最高だ。


 料理によって値段は違うが、かなりの量があるので自分の所持金にあった料理を選ぶことが出来る。


「どの料理にします?」

「任せる。俺は席を確保する」

「分かりました」


 ユカリが料理を頼みに料理をオーダーする場所と受け取る場所が1列になっている場所に並ぶ。かなり列になっているので料理をユカリが持ってくるのにしばらく時間がかかるだろう。


 食堂は主に4人掛けのテーブルと2人掛けのテーブルが約半々、主にカウンターと呼ばれるような長いテーブルと椅子が屋外訓練場の方の外が見えるように設置されている。どれもほとんどが座っていて、空いていない。


 俺は何とか空いている席を見つけ座る。ちょうど2人掛けのテーブルなので良かった。さて、ユカリが来るまでゆっくり絶大な量のマニュアルを読もう。


 いつの間にか俺の噂が広まっているのか、この食堂に来る時と同じような目線をかなりの人に向けられているが無視をするに限る。


「持ってきました。はいどうぞ」


 俺を見つけたユカリが料理を置いたお盆を2つ持ってきた。「女性に料理を持ってこさせるなんて外道!」とでも言わんばかりに周りの視線が冷たいが、しょせんユカリのことを知らないやつの考えだ。無視。


 ユカリが持ってきてくれた料理は肉入りのシチューと野菜炒め、それに硬めのパンの3つだ。ユカリも同じメニューだ。


「いくらだった?足りたか?」

「足りたというか…お金の単位が大きすぎて少しおつりとかが大変でした」


 なるほど。以前に問題視したまま放置していたお金持ち過ぎ問題がついに顔を出してきたか。ただ今回は銀貨があったので何とかなったらしいが、銀貨の数より金貨の数の方が圧倒的に多いのでいくらあまり使わないとはいえ細かくしておくことは必要かもしれないな。


「金を細かくすることは考えておこう。冷める前に食べるか」

「はい」


 今回はリアンのメイド班が作る食事とここで味わえる食事のどちらが美味しいか比べる目的もあるので冷めないうちに食べる。まあ食べる前からどちらが美味しいかなんて決まってるけどな。


 想像通りメイド班の作る料理の方がおいしい。だが、ここの料理も中々悪くない味だった。ユカリも美味しいと言っているので誰が食べても美味しいのだろう。


「美味しかったですけど、もうちょっとってかんじですね」

「そうだな。悪くないからこれはこれでいいだろう」


そこそこ満足の食事がとれたところで部屋に戻って明日の準備をして、早めに寝た。

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