第49話 新たな混合魔法
(済まない…今何と言ったのじゃ?)
体勢を何とか立て直したシェンがどこか驚いたような口調で問いかけてきた。
(その言葉の通りだよ。俺のことが好きだけど使い魔だからダメだというのなら俺の使い魔を止めればいい。そしたらしばらくはどうしようもないけどもし来るべき時が来るのなら将来なりたい関係になれるかもしれない)
(何を言っておるのじゃ?使い魔の契約を解除するなど…まさか!)
シェンの混乱はわかる。魔王をよく知る者だけの知識だが、使い魔の契約は結んでしまえば自分や相手の意思どうこうで解除できるものではない。解除するには魔王の死がただ1つの条件だ。
(そのまさか。俺は一体何回死んだ?俺でも忘れたな。2回か?3回か?違うにしろシエラにブレイブソードを刺されたときは俺は確実に1回死んだ。その時かどうかは分からんが俺とお前の使い魔の契約はすでに解除されてる)
(そんな…ことが…)
俺自身気が付かなかったからシェンもまったく分からなかっただろう。俺が最初に聞かされたのは夢の中でルシファーと会ったとき。シェンが何でもかんでも使い魔だから、という理由で片付けようとするんだけどどうしたらいい?と聞いたとき、「ん?ソーマ君とシェン君の使い魔の契約はもうとっくに切れてるよ?」と言われた。
何を言っているのか全く理解できなかったからルシファーに説明してもらった。すべて理解したときまず思ったのは「それならもうシェンが1人で自分のことを抱え込む必要は無いんだな」という事。
それからなるべくシェンに使い魔としての行動をさせないように気を付けながら過ごしてきた。
(出来ればもう少しこの話はしないでおこうと思ったんだけどな。まったく…こんな俺のどこが甲斐性があるってんだ)
(そうか…なるほど。という事は我はもう思いっきりマスターに甘えてもいいというのだな?それともう使い魔じゃないと分かったんだからマスターって呼ばなくてもいいぞ?と聞いてくるであろうから先にこたえておくが、我は「マスター」から変えるつもりはない!)
俺が言うつもりだったことを一語一句全く同じに言われた。だがシェンの決意は受け取ったので今更マスターから変えろと言うつもりはない。
(シェンがそうしたいっていうなら俺は構わないさ。そろそろいい時間だから帰るか)
(ん?随分と早いのう。我は構わんがの)
俺を落とさないように丁寧かつ慎重にアレクサンダーさんたちがいる場所へ降りる…前に止める。
(ちょいと待った。やりたいことがあるから止まってもらっていいか?)
(何かあったのかの?)
さっきまでいたところと地面の半分ぐらいの高さでシェンが止まる。半分の高さとはいえかなり高い。
(ああ、実験というか下にいる面々を驚かせるためというか…だな。そんなところだ)
(んん?)
シェンが訳の分からなそうにしているのでさっさと行動に移す。
(そんじゃ、シェンはしばらく飛んでもいいし、俺の後を追ってすぐに戻ってきてもいいからな)
そう答え、シェンから返答をもらわないようにすぐさまシェンの背中から飛び降りる。
(マ、マスター!)
もちろんシェンがただ黙っているわけもなく、すぐさま俺が何をしたのか理解すると垂直に地面へと落ちていく俺を追って飛んできた。
「やっぱ来たか。落ちる速度よりシェンの追う速度のほうが早いな」
そしてシェンが俺に近づき、背中で受け止めようとしたところで魔法を発動させる。
音が鳴っているのならキキィ!となりそうな勢いで地面へと急降下していた俺の体が宙に留まる。あまりのGで気分が悪くなりかけた。
シェンも俺がいきなり宙に留まったのに驚きながらも翼を羽ばたかせながら俺のもとに戻ってくる。
(悪いなシェン。どうしても最初はこういうやり方でやってみたくてな)
(マスター…その翼はなんじゃ?)
俺には見えていないが、多分他の人には俺の背中から翼が生えているように見えるだろう。俺が使った魔法は氷で翼を作り、それを背中側の服に設置。その周りに魔法で風を纏わせることで空を飛ぶための魔法。
名前は特にないが、安直に行くなら〈フライ〉とかその辺で十分だろう。
(俺の新しい混合魔法。どう?)
ひらりと1周回ってシェンや下にいるみんなに見せる。氷の翼を纏う風には氷の粒の混ぜているのでそれが光を反射してキラキラ輝いているように見えるだろう。氷自体もものすごく透明度を高くしているから注目してみないとまるで俺が空に浮いているように見えるだろう。
とりあえず(フライ)の原理等々をシェンに教える。水魔法と風魔法、そしてそれを混ぜ合わせたり、自在にコントロ―ルしたり。さらにはそれを継続させるための莫大とも呼べる量の魔力があって初めて発動できる魔法なので、やろうと思っても普通の魔法や混合魔法とは違って誰でもできるわけではない。
(まったく…やるならやると事前に行ってほしかったのじゃ!焦って損したのじゃ!)
(悪い悪い。でも事前に言ったら言ったで止めただろ?)
シェンの焦りが伝わってくる言葉に肩を竦めながら答える。図星だったようだ。
(うっ…それはその通りじゃが…。マスターはもう少し我らの気持ちも考えて行動してほしいのじゃ!いきなりあんな行動をとられると心臓に悪い)
(わーったよ。次からできる限り気を付けるよ。さて…周りのみんなも注目しているし、そろそろ集めますか)
それほど時間はたっていないが、これからやらなくてはいけないことが山積みなのでこの辺で羽伸ばしは終わらせることにした。
カルロスの元に飛んでいくと、シェンも後ろから付いてきた。俺が下りてもシェンは少し距離をとって竜人化してきた。
地面に降りるとみんなポカーンとしていた。アレクサンダーさんとエミリーさんは防衛班のメンバーに限らずうちに所属する竜人族が実は竜族だったと言っていなかったから分かるのだが、ミラたちまでもが鳴っている理由が分からない。
まずカルロスを通じて空に散らばっているみんなを集めなくてはいけないのでカルロスの元に行く。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい。陛下はどうやって空を飛んでいたのですか?何やら陛下に背中が妙に輝いていたことが関係しているのですか?」
「ほら、背中に翼があるだろ?氷だから透明で見づらいけど頑張ってみれば分かるだろ?」
カルロスに背中を向けて翼を見せる。カルロスは氷の粒は光の反射で見えたらしいが、あの距離ではさすがに完全とも言える程透明な翼は見えなかったようだ。
「本当ですね。確かに翼がうっすらと見えます。さすがは陛下!いつからそのような魔法を使おうと?」
「んー…こういう系の魔法ならたくさん使いたいのはあるぞ?中々使う時間と場所がないだけで」
正直ネタが尽きるのでいくらでも、とはいかないがかなりの数やってみたい魔法がある。この〈フライ〉ももちろんそのうちの1つだ。
「これの話は一旦置いておいて、そろそろみんなを呼んでくれないか?」
「はっ!畏まりました」
カルロスに命じ、竜たちを戻させる。俺もやろうと思えば2秒もかからずに防衛班に一斉送信が出来るように出来るのだが、それはやはり防衛班班長であるカルロスだけの特権という事にしている。
次々と最初と同じで第1陣から順に降りては竜人化をしている。あっという間に全員揃った。そしてまた結界を張りなおして一先ず羽伸ばしは終了になった。
だが俺にはいろいろと問題が残されていた。
「マスター、我も聞いておったがそれはなんじゃ!何故マスターも空を飛びたいと思ったのじゃ!」
なぜかシェンが半泣きで俺の胸をポカポカ叩いている。シェンは俺を背中に乗せることをどうやら嫉妬組への強みにしていたらしく、俺自身が飛べると知ってしまったので酷く落ち込んでいるとのことだった。
「はい?なんで空を飛びたいとかそういう風に思うのは当然でしょ?ましてや俺だぞ?向こうにないことをやりたいと思うに決まってるだろ」
「違うのじゃ!マスターが空を飛べるようになると我が困るのじゃ!」
「知ってるよ。だからもっと別の考え方をしてみ?俺が飛べるようになったなら今度は一緒に飛べるかもしれないとかさ」
少し考え方を変えるヒントを出した瞬間俺の胸にうずくまるようにしていたシェンの顔がガバ!と勢いよく上がる。完全にその考え方は頭の中になかったようで、衝撃を受けた顔をしている。
「とは言ってもこれの扱いは中々に難しいから一緒に飛べたり出来るようになるのはまだ先の話になるだろうけどな」
「いや、そういう手もあると教えてもらえただけで十分じゃ。マスターは早いところ聖王のところに行ってやるといい。毎回ミラたちに質問攻めにされるであろう?今回も例にもれずされるじゃろうから我が説明しておこう」
「マジで?助かるわ。んじゃあ行ってくる」
毎回俺が新しい事をするたびにされてきた質問攻めをシェンが代わりに受け持ってくれるらしいので放心しているアレクサンダーさんのところに向かう。
「何回も聞いてますけど大丈夫ですか?」
「これで大丈夫だと思うか?」
アレクサンダーさんの顔にはびっしりと脂汗が浮かび、顔色は非常に悪い。決まり文句的なものとして聞いてみたのだが、どうやらアレクサンダーさんにはそれを笑って答える余裕は無かったらしい。
ふとエミリーさんのほうを見ても防衛班たちを竜化させる前の雰囲気とは一変していた。足は肩幅に、手は腕組み。まるでというか本物なのだが偉い人のポーズをとっていたエミリーさんが腰を抜かしたのか女の子座りでへたり込んでいる。顔も恐怖で怯えたような表情だ。ぎりぎり意識を保ってはいるが、すでに限界だろう。
2人ともなぜここに竜がいるのか?という事とそれによる恐怖で頭がいっぱいで俺の〈フライ〉には気が付いていないようなので質問される前に解除した。
どう見てもエミリーさんはしばらくは立ち直れそうにないほどの怯え方をしているのでまずはアレクサンダーさんが整理をつくまで待った。待つといっても今起こったことを詳しくなるべくわかりやすく説明したので待ってはいないかもしれない。
「なるほど…という事はソーマ殿は竜王であるシェン殿の力を借りて竜族に人不足を解消してもらえるよう図ったと」
「図ったというのは少し違いますけどそんなところです。人手が足りないからと言って国民を雇うわけにはいかないので」
アレクサンダーさんには俺が竜王と協力して防衛班含む竜族を集めたと言ってあるので、まだシェンと俺の今となっては以前ということになる主従の関係については話していない。あくまで4人の王が同じ立場として作り上げた国という設定だ。それもあまり長くはもたない設定だろうけど。
「そういう事ならば聖王として何か言うという事も必要ないだろう。さすがに国の防衛力に竜族が絡んでいると知っても知らなくても魔王がいる国など誰も攻めてこないだろうがな。うちの聖騎士以外は」
自虐をしつつもなんとか笑う余裕は出来たようだ。あんなにかいていた脂汗もほとんどひいている。
「そうですね。竜族を抑止力にするとかそれを使って他国や街に攻めるとかいう考えはないので心配しないくても大丈夫です。ところでエミリーさんはどうします?同じことを伝えますか?」
アレクサンダーさんたちは「交友国の視察及び友好条約の締結」という聞こえはいい内容で来てはいるがが、中身はただの視察だ。だから聖王であるアレクサンダーさんはともかくエミリーさんには詳しく説明する必要は無いのだ。だが、もし俺と結婚するとなればお互いの国について詳しく知る必要が出てくるので説明しなければならない。
「いや、その必要は無いだろう。もし必要ならば私の方から説明する。今は少し休憩させてやることが大事だろう」
「そうですね。別に時間がないわけではないので今日はもう休みますか。条約等々については明日ゆっくり話すという事でいいですか?」
頷いているので大丈夫らしい。日も暮れ始めているのでひとまずここにいる全員を解散させ、俺はアレクサンダーさんと放心しているエミリーさんを何とか〈ワープ〉で客室まで送った。
ご飯やら風呂やらの説明を一応しておいたが、アレクサンダーさんから「エミリーの様子を見て行こう」と言われたので俺は特にそれ以上言わないで部屋から出た。
そのあとはいつも通り夕食を食べ、風呂に入り、明日のことについていろいろと考えながら寝た。




